お勉強の時間


 魔王に“姫”と呼ばれ、街中でも“姫様”と呼ばれることが決定してしまった俺は、ミャルに連れられてとある部屋に来ていた。


 机が幾つか置いてあり、その机の前にはホワイトボードが。


 この感じは、まるで教室である。


「にゃはは。朝から大変だったニャるね。聞いたニャるよ?魔王様に遊ばれたんだって?」

「街のごみ拾いをしていたらね。本当にいい迷惑だよ」

「にゃはは!!魔王様は子供だから、諦めるにゃ。それに、今頃はシュンとしながら街中を歩かされてるにゃ」


 実に楽しそうに笑うミャルは、そう言うと伊達メガネを掛けて教師のコスプレを決める。


 なんで教師のコスプレがあるんだよとツッコミたくなったが、俺はグッとその言葉を飲み込んだ。


 魔王国は基本ノリと勢いで生きている人達が住まう国。教師のコスプレ衣装とかがあっても不思議では無い。


 どこぞのロリババァ辺りが、ノリで作って貸し出してそうだからな。


「さて、それじゃ今日は訓練ではなく座学をやるにゃ。そこまで難しい話はしないつもりだから気楽に聞くといいにゃ」

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくなのにゃ。ちなみに、ノアだけじゃ寂しいかと思ってゲストを呼んでるのにゃ。という訳で、どうぞー」


 ミャルがそう言うと、扉が開いて糸目の老人が入ってくる。


 うーん、その顔は見覚えがありますね。


 アンタ何してんの?魔王軍幹部“六柱”の最古参。【破壊者】グリードお爺さん。


「呼ばれたので来ちゃいました。いえい」

「と、言うわけで、つい先程そこら辺を歩いて暇していた第一魔王軍軍団長のグリードさんにゃ」

「ノアくんお久しぶりです。聞きましたよ?なんでも魔王様におちょくられたとか。困ったら私にも声をかけてくださいね」

「お久しぶりですグリ爺。二度と俺を“姫様”と呼ばせないようにシバいてきてくれると嬉しいな」

「ハッハッハ!!では後でシバいて来ますか。ノアくんだって男の子なんですし、“姫”と呼ばれるのは少々抵抗がありますよね」


 グリードお爺さんはそう言うと、優しく俺の頭を撫でてくれる。


 多分、俺を孫のように思っているのだろう。その手の温かさから、親愛を感じた。


「今日はグリードさんも生徒ニャる。というわけで、着席するニャるよ」

「ハッハッハ。こうして生徒となるのは何年ぶりですかね........懐かしくて涙が出てきそうですよ」


 そう言いながら大人しく着席するグリードお爺さん。やはり、魔王軍は緩いな。


 リバース王国の軍とか階級にガチガチに厳しいから、ストーリーを読んでいて息苦しかったと言うのに。


 アランは勇者だったので、軍所属にはならないのが救いだったかな。リバース王国は勇者に自由を与えつつ、管理する方法を取っていたはずである。


 そんなことを思っていると、早速ミャル先生の授業が始まった。


「先ずは魔王国の簡単な歴史からにゃる。魔王国は既に300年の歴史を誇る国家で、事ある毎に戦争を仕掛けられてきた国にゃる。魔王様が建国し、当時から魔王様と共に居たグリードさんやその仲間たちが集まってできた国にゃるな」

「当時は大変でしたよ。あのバカが食料とか水の確保もままならない時に“隣国に建国を宣言してきた!!”とか言うのですから。まだ村程度の規模しか無かった魔王国が、今はすでに亡き小国と戦争を始めてしまったのですよ?今思い出しても魔王様を一発殴りたいですね」


 へぇ、魔王国が300年ほど前に建国された歴史は知っているが、当時は村程度の規模だった上に直ぐに戦争していたんだ。


 俺は、この世界に来なければ知ることが出来なかったであろう歴史を聞いて、少しだけ感動を覚える。


 と言うか、あのロリ魔王、当時から相当な問題児だったんだな........


「まぁ、そんなこんなありつつもその全てを跳ね除けて今の魔王国があるのです。正直、そこまで詳しく知らなくても問題ないですよ」

「ちょ、グリードさん。私の仕事を奪わないで欲しいにゃる........人選ミスったなこれ」


 ミャルさん、最後のボソッと言った言葉聞こえてますよ。


 ニコニコと昔を思い出して懐かしむグリードお爺さんには聞こえてないけど、俺にはしっかり聞こえてますよ。


 実は最古参であり魔王国の歴史を殆ど体験してきたグリードお爺さんを呼んで、補足やらして貰うのだろうかと思ったのだが、本当にそこら辺を歩いていたから連れてきただけなんかい。


 俺は、最高幹部の扱いも割と雑だなと思いつつ授業を受け続けた。


「そ、そんな魔王国にゃるが、今も戦争状態ニャる。ノアの居た国リバース王国とサンシタ王国、そしてカマセ帝国が現在魔王国と交戦中にゃるね」


 魔王国はありとあらゆる国々から嫌われている。そのため、リバース王国以外にもいくつかの国と戦争をしていた。


 その国が“サンシタ王国”と“カマセ帝国”。


 名前を見て分かっただろうが、“三下”と“噛ませ”である。


 この国は、魔王国側のサブストーリーで出てくる国なのだが、特にこれと言った見せ場もなく終わる。


 唯一、魔王軍幹部の一人を手負いにしたと言う情報だけが乗るのだが、それ以外は本当に何も見せ場がない。


 ちなみに、リバース王国の名前は“反転(リバース)”つまり、裏切りだ。


 最後の最後に勇者を裏切り、自らの滅びを呼ぶ。そんなちょっとした伏線が名前には張られている。


「ちょっといいですか?」

「はい、ノアくん。何にゃるか?」


 俺は戦争中という言葉を聞いて、疑問に思っていたことを質問する。


 戦争中なのに、なんで魔王軍幹部が全員ここに集まっているのか。国の防衛は大丈夫なのか。


 メインストーリーやサブストーリーでは触れられなかったし疑問に思わなかった事だが、いざ現実となると気になってしまう。


 この世界では、どのようにして解釈されているのだろうかと。


「戦争中なのに魔王軍幹部や魔王軍の兵士たちが戦線にいなくて大丈夫なの?」

「いい質問にゃるね。時に、ノアくん。君は一年中1秒も休まずに動き続けることは可能かにゃ?」

「........無理だね。休息は必要だよ」

「そうにゃるよね。それは戦争も同じニャる。気候やその土地の性質によって、戦争できる期間とできない期間があるにゃる。もちろん、無理をすれば攻め込めてしまうけど、そんな手段を取れば自国も少なくない被害を出してしまうにゃる。それに、最低限の兵士達は常に戦線に配置されているから、防衛は可能にゃるよ」


 なるほど。確かに第二次世界大戦とかも毎日殺し合いしていた訳では無かったらしいしな。


 モンスターも居るこの世界では、一年中戦争を続けるのは厳しいのだろう。


 モンスターによっては、群れで各地を移動するモンスターも居るんだし。


「つまり、戦争も人と同じく休息が必要と?」

「そもそも人が戦争してるニャる。この戦争が始まって10年以上経つけど、10年間も戦場で剣を振るのは無理にゃるよ。長年戦い続けてきているグリードさんだって、こうして休息をとるにゃる」

「ハハハ。昔は1週間ぐらい寝ずに戦えたのですがね。流石にこの歳になると少々キツイものがありまして........今では二日が限界ですよ」

「いや、そもそも二日も寝ずに戦えることが異常ニャる........ノアくん。間違っても魔王軍幹部達を参考にしたらダメにゃるよ。普通の兵士は半日戦ったら後は動けないにゃる」

「あはは。流石に参考にはできないね」


 こうして、俺はミャルとグリードお爺さんと一緒に魔王国について色々と教えてもらうのであった。


 ゲームの中では知れなかった設定が知ることが出来て、俺はかなり楽しかったよ。

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