姫様‼︎


 能力テストを終えた翌日。俺は魔王城に行く途中でごみ拾いをしていた。


 魔王軍の朝は早い........という訳でもなく割と遅め。


 多分俺が子供だからと言うのもあるだろうが、俺が魔王城へと出勤する時間は他の人たちよりも遅い。


 そんな訳で、俺は少し早めに家を出て街中のごみ拾いをしていたのだ。


 なんでそんな事をするのかって?そりゃ、乱数の女神様に微笑んでもらうためさ!!


 極論、俺は全ての攻撃をスキルで避け続ければ負けない。流石に無理難題ではあるのだろうが、少しでも確率を上げるのは間違った行動では無いのである。


「乱数の女神様。今後とも俺をお見守り下さい。普段はどうでもいいので、真面目に死にそうな時はお助けを」

「ふむふむ。朝からごみ拾いとは感心じゃな!!」


 乱数の女神様へ祈りの言葉を捧げていると、どこからともなく魔王がふらりと現れる。


 気配は感じなかったしおそらく転移魔法を使って現れたのだろうが、そんな気軽に使っていい魔法じゃなかった気がするんだけどなぁ。


 消費魔力があまりにも多すぎて、連発は無理と言われているはずなんだけど。


 俺は、ネタで最強と言われる俺とは違いちゃんと最強格のキャラである魔王のスペックとの違いに悲しくなりつつも、魔王に挨拶をした。


「おはよう、魔王様。いい朝だね」

「うむ!!実に良き朝だ。こんな日にはピクニックに行きたい気分であるな!!まぁ、妾が誘っても誰も来てくれぬので誘わぬが」

「魔王様、人望無いもんね」

「は?妾も人望はあるが?妾が本気で来て欲しいと言えば、皆来てくれるが?」


 軽い煽りが効きすぎてしまったようで、若干ピキる魔王様。


 自分で自虐する分にはいいけど、人に言われるとキレるタイプかよ。1番めんどくせぇじゃねぇか。


 俺は、心地よい朝が台無しだと思いつつ、近くにあったゴミを拾い上げて袋の中に入れる。


 懐かしいな。メインストーリーのクエストでも、ごみ拾いをやらされた事があったっけ。


 メインヒロインである王女リーシャが受けてきたクエストであり、アラン達は街の中をゴミ拾いして回るのだが、これがまぁ面倒臭い。


 街中をくまなく探索する必要がある上に、二回ほどリーシャちゃんがやらかしてゴミをぶちまける。


“ドジっ子は可愛いけど、コイツは笑えない。殺せ!!”というコピペが出来るぐらいには面倒で、イライラが溜まるクエストであった。


 アランは今頃リーシャに出会った頃だろうか。確か、デッブとか言う以下にも噛ませ犬の貴族と揉めていた時に出会ってたんだよな。


 俺は、今この場に居ない友人がどうしているのか何をしているのか気になりつつも、アランが村にやってくるのを待つ。


 あそこには多くの監視がある。イベント通りに行けば、アランはきっとやって来るはずだ。


「そんなに怒らないでよ魔王様。で、なんの用?ごみ拾いの邪魔をしに来ただけなら帰って欲しいんだけど」

「くはは。邪魔をしに来た訳では無い。昨日はどうだったか聞きたくてな。ガルエルやエリスが余りにもうるさいのだ。“ノアは大丈夫か?”“ノアが魔王軍の面々と打ち解けられているのか”とな。あ奴らはノアの母でも無いというのに、お節介な奴らじゃ」

「あはは。ガルエルなんかは間違いなく聞いてくるだろうね。それで、魔王様が聞きに来たと」

「まぁ、そんなところじゃ。それで、どうだったのじゃ?我が魔王軍は実に愉快で楽しい所じゃろう?」

「そうだね。すごく楽しいよ。みんな優しいし」

「くははははははっ!!そうじゃろう、そうじゃろう!!何せ、妾自慢の軍だからな!!」


 昨日は色々とあったが、純粋に楽しかった。


 画面越しでしか見ることの出来ないキャラクターたちと話し、笑い、触れ合う。


 そんな事が出来れば、原作ファンとしては大歓喜だろう。


 ましてや、推しキャラと話すことも戦うこと出来たのだ。楽しくないわけが無い。


 魔王も俺が心の底から“楽しかった”と言っているのが分かったのか、満足気に頷く。


「うむうむ。実に良い事じゃ。ノアが歳も行かぬ少女以下の腕力を持っている事も、皆に姫のように扱われていたことも楽しかったじゃろう?」

「おい待て魔王様。なんでそれ知ってんだよ」

「くははははははっ!!ちゃんとミャルから報告を受けたからな!!やーいやーい!!ノアの腕力少女以下!!」


 そう言いながら、俺の周りをトテトテと走りながら煽ってくるロリ魔王。


 こんのクソガキゃ、人をイラつかせることに関しては天才的だな。


 だが、俺はそんな煽りに乗ってやるつもりは無い。俺は体は子供でも心は大人なのだ。


 寛大な心で許してやるのが、大人というものである。


「はいはい。俺はどうせひ弱な召喚術士ですよ」

「くはは。そうであろうそうであろう!!お主に以前ゲンコツされた時も全く痛くなかったしな!!そうじゃ、ノア。今度お主にプリンセスが着る服を作ってやろう。お主は割と中性的な顔をしておるから、きっと似合うぞ!!」


 イラッ。


「そしてこの魔王国に新たな姫が生まれたというのじゃ!!“絶世の美女にして、ひ弱な姫。“ノア姫”とな!!」


 イラッ!!


「ふむ、適当に言ったにしては中々上出来じゃの。きっと多くのものから賛同を得られるだろうし、今すぐに妾の財布から金を出すとするか。ノアよ。お主、黒のドレスと赤のドレスどちからがいいかの?いや、ここはいっその事思い切ってピンクとかも悪くないかもしれんな!!」


 イラァ!!


 俺を姫扱いするどころか、魔王国全体で俺を担ぎあげようとするんじゃねぇ。


 しかも、街中で大声で話すものだから住民が“姫様?”“何だ何だ?あの子が姫様か?”

 とか勘違いし始めている。


 まさかと思い魔王を見ると、“馬鹿め、今気づいたのか?”といでもいいたげな顔であった。


 こんのロリババァ........先ずは外堀から埋めにきやがった!!


「おい魔王様。それ以上口を開いたらガルエル達に言いつけるからな。“悪逆非道の魔王に虐められた”って」

「お?さすがは姫様。家臣に泣きつくとは分かっておるのぉ!!益々姫らしいではないか!!“助けてガルエル!!私、悪逆非道の魔王に虐められてるの!!”」

「死ね!!」


 態々俺の声に似せて姫の演技をする魔王を見て、ついに堪忍袋の緒が切れた。


 俺は割と本気で魔王の顔面を殴りに行くが、魔王は1歩後ろに下がってそれを避ける。


 その気になれば、一瞬で魔王の周囲をモンスターで囲むことも出来なくは無いがここは街中。魔王城内にある訓練場でもなければ、モンスターの召喚はしない方がいい。


 そして、このロリババァはそれを見越した上で更に煽ってきた。


「くははははははっ!!大変だぞ皆の衆!!妾達の姫がお怒りじゃ!!」

「待てや魔王!!その口を閉じやがれ!!」


 大声を張り上げながら街中を逃げ回る魔王と、俺を捕まえようと追いかける俺。


 速さのステータス的に俺の方が有利なのだが、魔王には転移魔法やその他身体強化系魔法まである。


 その全てを駆使すると、魔王を捕まえるのは中々に厳しかった。


「お、また魔王様が遊んでんのか?姫様ってのはあの子供か。姫様ー!!がんばれー!!」

「姫様!!魔王様に負けるな!!」

「あの子が姫様?確かに可愛い顔してるわね。姫様!!あの魔王様をやっつけちゃいなさーい!!」


 魔王が騒ぎに騒ぐため、街の住民が次々と出てきては俺の事を“姫様”と呼ぶ。


 俺は男だっつーの!!どちらかと言えば魔王軍幹部の“エル”の方が姫様だろうが!!


 こうしてこの日から、俺は街中で歩いている度に“姫様”と呼ばれるようになってしまった。


 もちろん、俺もやられっぱなしで終わる訳には行かないので、ガルエル達にチクって魔王を捕獲した後に“私は部下を弄んだダメな魔王です”というプラカードをぶら下げて街中を歩かせてやった。


 ........今回は引き分けだな!!

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