ガチ反省会
推しキャラに殴られて感動を覚える変態に成り下がってしまったと思つつ、俺は今回負けてしまった原因を頭の中で考えていた。
1つは単純な火力不足だが、これはノアの性能上もうどうしようもない。
運営の玩具にされ“理論上最強(笑)”と言われるのにはちゃんとした理由があるのだから。
しかし、他にも多くの課題があった。
元々、ノアの様な召喚術士は滅茶苦茶距離が離れているところからモンスターを召喚して相手を殴る職業。
この訓練場もそこそこ広いが、もっと広い場所での戦闘でないと本来の力が発揮できない。
ゲームではもちろん狭い場所での戦闘もあるのだが、ノアはそれをアイテムとギミックで何とかしてきたキャラ。真正面からよーいドンの勝負で勝てるだけのポテンシャルは、ぶっちゃけ無い。
そりゃ、毎回運ゲーに勝てれば行けるよ?でも、確率55%をそう何度も何度も連続で引けるわけが無いのだ。
それに、単純なシステムで動いていたゲームとは違い、相手もかなり工夫を凝らして戦ってくる。
尚更、ノアの様なキャラには辛い。
あれ?理論上最強(笑)さん、この世界だと弱くね?
「大丈夫にゃるか?!怪我はしてないにゃるか?!」
「大丈夫大丈夫。レオナ軍団長も手加減してくれたから、そこまで痛くないよ」
吹っ飛んだ俺に真っ先に駆け寄ってきたミャルは、ぺたぺたと俺の体を触りながら心配そうな顔で俺を見つめる。
その手は、我が子が怪我をしていないか心配するシスターマリアと似たようなものがあった。
「ノア、大丈夫か?まぁ、笑ってんなら問題ないか。何せ、男の子だしな!!」
「おいコラ、ブロンズ。男だろうが女だろうが痛いものは痛いにゃる。サッサと医務官を呼んでこい!!」
「はいよ。分かってますって」
ミャルに怒鳴られ、俺の頭を優しく撫でたあとどこかへと消えていくブロンズ。
ミャルってあんな強い声を出せるんだなと、ゲームの中では知れなかった事に感動しているとレオナがものすごく申し訳なさそうにこちらへとやって来た。
「........すまない。少々、力を出しすぎた」
「いいんですよレオナ軍団長。俺が気を抜いていたのが悪いんですし」
「........そうか。今日はもう帰れ。体を休めろ」
「はい。そうします」
あまりにもシュンとし過ぎているレオナ。
ミャルは何か言いたそうにしていたものの、レオナがかなり落ち込んでいたのを見てその言葉を飲み込んだ。
恐らく、“やり過ぎ”だの“もっと加減しろ”だの言おうと思ったのだろう。
だが、割と本気で凹むレオナを見て本人が1番理解していると察したようであった。
「それにしても、凄かったにゃるね。魔王軍にも何名か召喚術士が居るけれど、どれもあれ程までに素早く大量のモンスターを召喚させるのは無理だったにゃるよ」
「あはは。俺は詠唱速度と魔力量だけには自信があるからね。後、足の速さも」
「にゃはは。その三点だけは魔王軍の中でもトップクラスにゃ。腕力は........その、ノアも成長期だしきっと強くなるにゃ。頑張るにゃ」
そう言って励ましてくれるミャル。しかし、その視線は俺ではなく後ろを向いていた。
笑ってない?ねぇ。過去最低数値を叩き出したことを思い出して笑ってない?
「ミャルさん?俺の目を見て言ってくれない?なんで目を背けるの?」
「が、頑張るにゃ........ぷふっ!!過去最低数値........!!」
ぷるぷると震えながら、頑張って笑わないように口を抑えるミャル。
しかし、その笑いは思いっきり漏れており、俺の事を心配して集まってきていた第四魔王軍の面々にも聞こえている。
そして、こういう笑いと言うのは吊られてしまうものだ。
全員“笑っちゃいけない”と思いつつも、全員が俺から目を逸らしながら身体を震わせる。
「........ぷっ!!パンチ測定“2”(一般的な子供の数値は5~10)........!!俺の娘よりも弱いぜ........!!」
「おい、やめてやれよ。ノアくんはまだ子供なんだから、きっとここから強くなるって........ぷぷぷ!!」
「ふふっ」
「あはは!!」
「「「「「「「「あははははは!!」」」」」」」」
遂には笑いのダムが決壊し、全員が腹を抱えて笑い始める。
本当にノリが良くて好きだよお前ら。だから一発殴らせろ。
俺は僅かな怒りを感じつつも、この日は医務官に体を診てもらって“異常なし”と言われたので家に帰ることになるのだった。
........ちょっと筋トレしようかな。この世界で筋トレの意味があるのかどうかは知らないが、このままだと弱々お姫様みたいに扱われそうだ。
後、もっと善行も積んでおかなければ。
この日から、俺は街中のごみ拾いと筋トレが日課に加わるのであった。
【武技】
ヘルオブエデンの攻撃、防御手段の1つ。MPを消費し発動できる。装備している武器によって使える武技が異なり、剣を装備している状態の場合は槍の武技は使えないと言った制限もある。
武技には、使用後の“
中には装備自体に武技が設定されている物もあり、ガチ運用できる物から“何に使うねん”と言ったネタ装備まである。
ノアが家に帰り“今日は楽しかったな”と思いにふける中、魔王軍幹部であるレオナは自宅でガチ反省会をしていた。
今日は何から何まで上手くいかなかった。
頑張って作ってきた会話デッキもほぼ使えず、挙句の果てには模擬戦で加減を間違える。
自分を恐れず話してくれたノアに対し、あまりにも間違った対応をしてしまったレオナは1人で正座をしながらお気に入りの熊さん人形に話しかける。
「どうしよう........絶対怖がられちゃうよ........頑張って考えた会話の話題も全然使えなかったし、思いっきり吹き飛ばして怪我を負わせちゃうし。あまりにも失敗しすぎちゃったよ........」
クマの人形は何も答えない。
それでもレオナは静かに1人で話続ける。
「ようやく私直属の部下ができたのに、その上司たる私が無能過ぎたら所属を変えられちゃうよ。どうしたらいいんだろう........?ガルエルに相談?でも、ガルエルの話は参考にならなし。ならエリス?同じ人間だからなんかいいアドバイスくれるかな」
黒い布に隠された目は真実を照らしてくれるが、生憎目に映るもの以外の真実は照らさない。
会話という目に見えない言葉のやり取りに、目は答えを示してくれるはずもないのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁ........どうしたらいいのか分からないよ。もっと人と話せるようになればいいんだけど、難しいよ」
そう言って頭を抱えるレオナ。
尚、ノア本人は全く気にしていない所か“今日は少し多めに話せたな!!”と浮かれているのだが、人とは案外悪い方向に物事を考えやすい。
レオナは特に引きずるタイプであった。
そんな頭を抱えるレオナの耳に、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
誰かと思い出ると、そこには実に楽しそうな笑顔を浮かべる魔王“リエル”が居た。
「........魔王様」
「ふむ。今日の様子をミャルに聞いたが、これは重症だな!!実に面白い!!あのレオナがここまで悩むとは、ノアも罪作りな男じゃのぉ!!」
そう言って、つかつかと部屋の中に勝手に上がる魔王。
レオナは長年の経験から、どうせ止めても無駄だと理解していたので何も言わなかった。
「........」
「ほれ、座らぬか。今日はお主と飲みたい気分だったのでの。酒が入れば少しは口も軽くなるじゃろ」
「........魔王様、酒癖悪い」
「くははははははっ!!そうじゃったか?ま、今日のお主に拒否権は無い。さぁ飲むぞ!!」
これは魔王なりの気遣い。きっと彼女なら、何らかのアドバイスをくれる。
そう思ったレオナは、扉を閉めると魔王と二人で酒を飲むのだった。
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