理論値最強(笑)vs無限剣聖 模擬


 様々な能力テストを終え、残るは模擬戦のみとなった。


 いやー、流石に疲れるね。ゲームの世界ならば多少の事で疲れることも無いが、リアルで体を動かすとなるとまた違ってくる。


 多少の疲れを体に感じつつ、俺は最後のテストに臨むこととなった。


「体の調子は大丈夫かにゃ?普段訓練しない人が急に動くと体調が悪くなる者も居るんだけれど........」

「あはは。俺は大丈夫だよ。で、最後は模擬戦だっけ?」

「そうにゃ。既に準備は出来てるから、行ってくるにゃ。別にボコボコにされたからと言って、配属先が変わったりする事はにゃいだろうから気楽に行くといいにゃ」


 そう言って俺の緊張を解してくれるミャルは、ニッと笑いながら背中を優しく叩く。


 人気投票第十五位“ミャル”。メインストーリーでもサブストーリーでもあまり出てこなかった割には順位が高く、かなり人気の高いキャラであったがその理由がよく分かるな。


 あのコミュ障のレオナを上手く扱いながら、軍の雰囲気を壊さないように立ち回りこうして俺に気を使ってくれる。


 面倒見も良くて、キャラがそれなりに立っていればそりゃ人気も出るわな。


 そう思いながら、水分補給を終えて訓練場に戻るとそこには木剣を持ったレオナの姿が。


 この時点で俺さ察してしまった。あ、これはレオナと戦う流れだと。


「最後の模擬戦の相手はレオナ軍団長にゃ。正直、ノアのような子供と戦わせていい相手ではにゃいのだけれど、第四魔王軍のしきたりだから諦めて欲しいのにゃ」

「........いや、丁度いいさ。寧ろ、そう来なくっちゃな」

「にゃ?随分とやる気にゃるね。ま、軍団長も流石に本気は出さないだろうから頑張って食いつくにゃ」


 そう言って、もう一度背中をポンと押してくれるミャル。


 俺は、その手に押されて1歩踏み出すと自分の足元に落ちていた木剣を拾ってレオナに突きつけた。


“おぉ!!”と、この模擬戦を見ている第四魔王軍の面々から、僅かに歓声が上がる。


「........先手は譲る。かかって来い」


 ゴチャゴチャ言わずにサッサと始めよう。


 そう言うレオナは、先程からずっと自然体のままながらも少しだけ手に力が入っているように見えた。


 ネタキャラvs魔王軍幹部。


 ノア単騎攻略をやっていた時に何度も戦ったマッチアップ。推しキャラに話しかけられたとか今はどうでもい。


 俺は、今、このヘルオブエデンの世界でノアの天敵とも言える“六柱”が一角レオナに挑むのだ。


 召喚術士であるノアは基本距離をとって戦うが、それを許さない敵ももちろん居る。


 それが目の前で静かに佇む彼女。圧倒的な素早さと手数を持ってして、殺しにくるのだ。


 防御力が紙っぺらのノアならば、どれもが即死級の一撃。


 どれほど上手く立ち回っても乱数の女神の微笑みパッシブスキル発動が4回は必要になる。


 マジで鬼門だったからな。3回攻撃を躱したのに、4回目で死ぬとかざらだったし。


 しかも、数多くの剣を使うから下手に剣雨を使うと利用される。実に、厄介で難しい相手であった。


 そんな苦戦に苦戦を強いられ続けてきたキャラと、この世界でどれだけ張り合えるのか。


 俺はそれが楽しみで仕方がない。


「それじゃ、お言葉に甘えて先手はもらいますよ。行かせてもらいます」

「........!!」


 俺はそう言った瞬間に、その手に持っていた木剣を全力で投げ飛ばす。


 流石のレオナも初手で自分の武器を捨てるとは思ってなかったのか、面食らった表情をしながら木剣を避けた。


「おいおい!!ノアのやつ、武器を捨てやがったぜ?!」

「召喚術士って話だが、武器は必要だろ?何考えてんだ?」


 普通の召喚術士ならば、多少の武器や防具は必要だろう。


 だが、俺は理論上最強のネタキャラ。運営の玩具にされた挙句、ゲームシステムで単騎攻略をお膳立てされるような奴なのだ。


 俺の武器は、圧倒的物量による押し潰しである。


「........召喚魔法の詠唱が早いとは思っていたけど、ここまでとは予想外」


 一瞬にして訓練場を埋め尽くす大量のスケルトン。


 スケルトン達は、レオナに四方八方から向かいその骨の拳を打ちつけようと拳を振るう。


 が、所詮は序盤に出てくる雑魚敵。どれ程押しかけようが、剣を一振するだけで骸骨はただの骨に成り下がる。


 それでも俺はお構い無しにスケルトンを召喚し続ける。ノアが取れる戦術は“物量でゴリ押せ”が全てなのだ。


 戦術はあくまでもオマケ。最後の魔王戦なんか、戦術もクソも無いゴリ押しだからね。


「........邪魔」


 手がブレると同時に何十体ものスケルトンが吹き飛ぶが、消されるスケルトンよりも生成するスケルトンの方が多い。


 そのような場合、相手はどうするのか?


 答えは簡単、一点突破である。


「【無限戦舞】一刀。線撃」


 通常攻撃だけでは埒が明かないと判断したのか、武技を使って強引にスケルトンたちを吹き飛ばして俺までの道を作る。


 また直ぐに俺がスケルトンを生成するが、速さが魔王軍の中でも群を抜いて早いレオナは一瞬にして剣の届く範囲に踏み込んできた。


「捉えた」

「まさか」


 運ゲーをするにはまだ早い。俺は、剣が振り下ろされる直前で後ろを向いて全力ダッシュをするとレオナから僅かに距離を取って再びスケルトンを再召喚する。


 接近されたら全力で逃げて相手がすぐに追えないように道を塞ぎつつ、さらに距離を取る。


 ほかの召喚術士では天地がひっくり返ろうとできない芸当だ。


 そして、武技の再使用には再使用時間リキャストタイムがある。今回の武技に関しては正直、あってもなくてもそう変わらない気もするがノアにとってはこの一瞬で全てを立て直せるのだ。


「........クッ!!」


 避けられる可能性は考えていたものの、まさか背中を向けて全力疾走して逃げて来るとは思ってなかったのか、僅かな隙が出来てしまう。


 そして、その隙をスケルトンの一体が上手く付いたようで一撃入れることに成功した。


 よし、あとこれを何百何千万回と続ければ勝てるな!!........って出来るわけねぇだろ!!


 集中力が持たないし、何より何日も掛けて戦うのは厳しい。


 だって、これダメージ1も通ってるかどうか怪しいからね。


 あとこれを数千万回?よくゲームのノアはこれに勝てたな。


 俺は“この世界では新たな戦術(主に火力面)を考えないとダメだ”と思いつつ、今できる精一杯の事をやる。


「........ノア、強いね」

「まぁ、仮にも魔王様に推薦されたんでね。少しは戦えるところを見せないと」

「そう。なら少し本気を出す」


 そう言って、レオナ身体の周りに赤いオーラが漂い始める。


 何が“なら”なのか知らないが、それはヤバいやつですね。


 あの、模擬戦って事覚えてます?その武技の射程範囲、確か相当広かったでしょ。


 ノア単騎攻略していた時に、隅の方でその武技使われたら運ゲー待ったナシだったもん。


 取り敢えず訓練場の外まで逃げるかと思い、全力で走り始めるとレオナの赤いオーラが爆発する。


「【無限戦舞】一刀“紅月”」


 刹那、その場に居た全てのスケルトンが消え去る。


 台風が来たのでは無いかと思うほどの暴風が吹き荒れ、赤いオーラは月のように丸くなって全てを破壊し尽くした。


 ぶっちゃけそれはどうでもいい。問題は、その攻撃範囲。


 ゲームの頃だと滅茶苦茶範囲が広かったはずなのだが、今こうしてみると範囲が狭い。


 ここで俺はある過程に辿り着く。


「........マジかよ。まさか、武技って加減できるものなのか?」

「避けられた........でも道は開けた」


 再び目の前にやってくるレオナ。しまった。“武技は加減できる”という情報に気を取られすぎて、反応が送れた。


「........」

「うをっ!!(スキル発動)」

「........」

「あっぶ!!(スキル発動)」

「........」

「ゴフッ!!(スキル発動ならず)」


 2回の攻撃は何とかスキルのおかげで避けられたが、3度目はマトモに喰らってしまう。


 乱数の女神様への祈りが足らなかったか。


 息がつまり、呼吸ができない。アランのチャンバラとは、全く違う実戦の痛み。そして何より、推しキャラの攻撃を直に受けた!!


 ちょっとテンション上がっちゃうぜ!!物凄く変態っぽいが。断じて俺はそういう性癖ではないと言っておこう。


 でも俺は、痛みよりも推しに剣で殴られたことに感動していた。


「だ、大丈夫にゃるか?!」

「レオナ軍団長!!あんまりですよ!!」

「........ご、ごめんなさい」


 その後、俺に全力で謝るレオナも見られて、痛みはどこかへ飛んで行ってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る