能力テスト
あまりにも会話が不自由すぎるレオナが率いる第四魔王軍。
レオナを除けば基本ノリのいい人たちであり、皆優しい人達であるので個人的にはかなり居心地のいい場所であった。
“困ったら頼れよ”とか“頑張れよ”とフレンドリーに声をかけてくれるその姿は、完全に運動会で我が子を応援する親そのもの。
何かと差別を受けてきたこの国の人達は、基本心穏やかで優しいのである。
「じゃ、今からノアの能力テストを始めるにゃ。1人だ寂しいだろうから、大隊長の2人も参加をするにゃ」
「よろしくお願いします」
「おう。よろしくな」
「頑張れよノア」
そんなこんなで軽く友好を深めた俺達は、俺の身体能力や魔法等を調べるために能力テストをする事となった。
これは、まだ配属先が決まっていない新兵が行うことであり、正確にその人の実力を調べるためのものである。
俺の場合は先に配属先が決まってしまったが、能力テストは例に漏れず受けることとなったのだ。
“1人じゃ寂しいだろうし、大隊長の2人も参加で”とノリで決まる辺り、最高に魔王軍らしい。
見た目が完全に人外であり二足歩行のトカゲの見た目をした第二大隊長のシャードと、角が生えた見た目が鬼のような第三大隊長ブロンズが今回俺と一緒にテストを受けてくれる。
ちなみに、レオナは“新入りが怖がるだろうから”という事で少し離れた場所で俺の能力を観戦する。
正直、応援とかしてくれねぇかなとか思ったりもするが、まだ好感度が低かった。
「それじゃ、先ずは足の速さにゃ。私の合図でスタートして、ゴールまで真っ直ぐ走る。そのタイムを測るにゃ」
「距離は?」
「100メールにゃ。頑張るにゃ」
最初の種目は100m走。足の速さがカンストしている俺の得意分野だ。
これは最初からいい所を見せられるな。課題に評価されてその後落胆される可能性もあるけど。
そんなことを思いつつ、俺はスタートラインに立つとゆっくりと腰を下ろした。
流石に陸上選手のようにクラウチングスタートはしない。
普通の徒競走のような走り方が無難だろう。
「準備はいいにゃるか?それじゃ、位置について、よーい........ドン!!」
ミャルの合図に合わせて一斉に走り始める俺達。
地球にいた頃の100m走の世界記録は9.58秒。今も尚抜かれていない驚異的記録であるが、この世界はファンタジーの世界。
ステータスがものを言うこの世界では、人ならざる力を手にするのは当たり前の世界なのだ。
スタートと同時に加速し始めた俺は、グングンとスピードを伸ばしあっという間にゴールへと辿り着く。
ゴールをしたあとに振り返れば、未だに大隊長の二人は半分を切ったところであった。
「........はっや。レオナ軍団長よりも早いんじゃないにゃるか?タイムは?」
「........2.98秒です。レオナ軍団長よりも1秒近く早いですね」
「化け物かな?魔王軍の中でも足の速さに関してはピカイチのレオナ軍団長よりも早いなんて........」
あまりの足の速さに、驚きを隠せないミャル。
時速に直したら時速120kmか。普通に人間やめてるね。地球の世界記録よりも3倍近く早いと考えると、最早人間に許されていい身体能力ではない。
これが攻撃力を全て捨てた代わりに得た力........!!
これに攻撃力も加われば完璧だと言うのに。
「もしかして、とんでもない逸材が入ってきちゃったにゃるか?大隊長達の威厳が無くなっちゃうにゃるよ」
「はぁはぁ。本気で走っても追いつけんかった。ノア、お前凄いんだな」
「少し足が早いだけだよ。力に関しては全くだから」
「その言葉信じるぞ........?これで力も俺より上だったら、俺大隊長辞めるわ」
「是非ともそうするにゃるよ。大隊長のメンツ丸つぶれにゃるからな」
尚、その後力の計測(何故かパンチングマシーンがあった)をしたのだが、俺は過去最低数値を叩きだしミャル達に本気で励まされる事となるのだった。
べ、別にわかってた事だから落ち込んでないし!!
........過去最低数値だったのは軽く凹んだけど。
【第四魔王軍】
レオナ率いる軍。通称【戦舞】。レオナが単騎で暴れ回り、その混乱を使って攻め込むのが定石の戦い方。レオナが部下とのコミュニケーションが上手くいかないので、代理軍団長が指揮を取っている。
ノアが第四魔王軍でテストを受けていた頃。
リバース王国の王立学院で勉学に励むアランは、原作とは全く違った学院生活を送っていた。
「アラン、そこは違うぞ」
「........あ、ほんとだ。答えが逆だね」
アランが編入してきた当初から付き合いのある貴族、エルベスと仲良く勉強をしていた。
本来であれば、アランは誰とも関わること無く自宅で1人で勉強をしていた事だろう。
しかし、ノアに性格を変えられてしまった彼は今、新たな友人と共に学生生活を謳歌していたのである。
最初に絡んできた豚のような体型をしたデッブとその取り巻きもアランに嫌がらせをすることが出来ず、特に因縁をつけられて事ある毎に突っかかってくることもない。
アランはエルベスに守られている事を理解しつつ、彼はそんな事を一つも考えずただ友人として接してくれているんだろうなと思っていた。
「そのブレスレット、いつも大事そうにしてるよな。故郷の物か?」
「そうだよ。僕の親友との思い出が詰まったとても大切なものなんだ。僕は昔、大分言い方のキツイ子供でね。それを注意してくれる人が誰も居なかったんだ。でも、ノアは違った。“おいお前”とか言う僕に、“それはダメだぞ”って注意して優しくしてくれたんだよ」
今、ノアは何をやっているのだろうか。
ノアがまさか魔王軍に所属し、能力テストを受けているとはつゆ知らず。
アランはノアの顔を思い出しながら、静かに笑う。
そんなノアを見て、エルベスは驚いた顔をした。
「........そんな言葉遣いをしていたのか?今のアランからは想像もつかないな」
「あはは。だろうね。エルベスが5歳頃の僕を見たらきっと驚くよ。なんて可愛げのない子供なんだってね」
「今も俺たちは子供だろう?」
「それもそうだね」
そんなことを話しながら、図書室で勉強を続ける二人。
そんな友人達静かで心地よい空気の中に、一人の女の子が入ってくる。
「あのー、貴方が勇者様ですよね?」
「ん?そうだけど........」
「........?........?!?!?!」
真紅に燃える赤い髪と目は穢れを知らぬ純情な乙女。
あまりにも世間知らずでアランとの旅の間で問題事しか起こさず、その問題事のクエストが面倒くさすぎるが故にプレイヤーから嫌われた開発陣の被害者にしてヒロイン。
“顔は可愛いしいい子だけど、クエストだけは許せない”“ドジっ子を作ろうとして失敗したヘイトタンクの女王”と言われた人気投票11位のトラブルモンスター。
「まぁ!!本当に噂通りの見た目をしているのですね!!」
「噂?」
「金色の太陽をその身に宿し、聖なる水のように煌びやかな目を持った英雄です。ここでお会いできて光栄ですわ!!勇者様!!」
「あ、ありがとうごさい─────うわっ!!」
普通にお礼を言おうとし、急に席を立ってアランの頭を押さえつけるエルベス。
“何をするんだ”と言いかけたアランだったが、エルベスの言葉を聞いてその言葉を飲み込んだ。
「ご無礼をお許しください。彼は貴族社会に疎いのです........王女殿下」
「王女殿下だなんて、そんな他人行儀な呼び方をしなくても大丈夫ですわ。気軽にリーシャとお呼びください。この学園にいる間、身分は関係ないのでしょう?」
「そ、それはそうですが........」
リバース王国の王女にして、“聖女”の称号を持つ
リーシャ・リバースが、アランの前に現れたのである。
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