第四魔王軍【戦舞】
人が折角掃除した場所を荒らすロリ魔王にゲンコツを叩き込んだ翌日。
俺は配属先となった軍に顔を出す為、魔王城にやってきていた。
正直、シスターマリアには何か言われると思っていたのだが、“魔王軍に所属することとなった”と言ってもシスターマリアは“頑張ってくださいね”としか言わなかった。
これはかなり意外な結果である。
シスターマリアは、子供達が危険な目に遭うことをかなり嫌う。
俺とアランがチャンバラして遊んでいる時は流石に何も言わなかったが、誰かを助けるために山の中に入ったりした時は相当怒られたものだ。
“なぜ大人を頼らなかったのか”“なぜ勝手に山へと入ったのか”。
そう言って怒っているのを何度見た事だろうか。
しかし、今回はそれが無い。
戦争に出るかもしれないと言う、滅茶苦茶危険な場所に入ったのにだ。
まさか、魔王が“話を付けた”と言ったのは、俺が魔王軍に入ることまで了承させたのか?
だとしたら、魔王の交渉術は侮れないな。あのシスターマリア相手に、子供を軍に所属させるのを認めさせたなんて。
まぁ、ニーナの説得は俺がやる羽目になって大変だったのだが。
物分りがいい子とは言えど、ニーナはまだ六歳の子供。
兄代わりの俺と遊べないのはかなり不満だったのか、相当ご機嫌ななめになってしまった。
結局、夜は一緒に寝る事を約束され、昨晩はニーナと同じベッドの中で眠ったのである。
可愛い女の子と同衾と聞けば、r18展開になってもおかしくない聞こえだが相手は6歳児。流石に興奮なんてする訳もなく、ただ単純にニーナを可愛がっただけである。
俺はロリコンでは無いのだ。
「─────という訳で今日からノアが皆の戦友ににゃる。同じ戦場に立つ戦友として彼を歓迎しようではにゃいか!!」
「「「「「「うをォォォォォォォ!!」」」」」」
湧き上がる歓声と、拳を振り上げる兵士たち。
ここは第四魔王軍と呼ばれる通称【戦舞】が使用する軍の訓練場。
俺は、そこで熱烈な歓迎を受けていた。
どこの軍団に入るのかは完全くじ引き(ガルエルとエリスは除外)であり、くじ引きの結果第四魔王軍に入ることとなったのである。
「ノア、君からも一言自己紹介をよろしくニャ」
「えー、今日から第四魔王軍に入隊するノアです。若輩者ですが、よろしくお願いします」
白色の肌と可愛い猫耳と尻尾を持つ第四魔王軍の“代理軍団長”ミャル(人気投票15位)に紹介をお願いされた俺は、無難な挨拶をしておく。
ペコリと頭を下げた俺に、兵士達は“よろしくな!!”とか“頑張れよ少年!!”等大きな声援を貰っていた。
ちなみに、“代理軍隊長”というのは魔王軍幹部六柱の代理として立つ人のことである。
基本的に軍団長(六柱)が不在の際に指揮を取ったり周囲をまとめる人であり、強さよりも人柄や指揮能力が問われる。
特に第四魔王軍は代理軍団長の役割が重要であり、彼女がいないと第四魔王軍は機能しないとまで言われるほど。
その理由としては、その上に立つ軍団長がまともに兵士達と話せない為だ。
「........」
「あのー、レオナ軍団長?ニャンで私が毎回こういう役目をしなければニャら無いんですか?私、飲み会の幹事じゃニャいんですけど」
「........悪い」
「あっ、いえ。悪くニャいです。はい。生意気言ってすいませんでした」
ほぼ無言のレオナにガチガチにビビりまくるミャル。
そう。魔王軍幹部はあまり気にしないが、レオナはその無口さと圧もあって滅茶苦茶恐れられているのだ。
一瞬にして空気が固まってしまう。
おそらくレオナは“(私が紹介すると盛り上がるに盛り上がれないから皆に)悪い”と言う意味で言ったはず。だが、普段の話し相手がくまの人形と馬の人形な彼女に、そんなコミュニケーションが取れるはずもなく。
空気を悪くしてしまったレオナは、心做しかものすごくシュンとしてしまっていた。
可愛い........じゃなくてこの空気をなんとかせねば。
ここは一発芸でもして笑いを狙うか?いや、それとも別の話題に移すか?
あまりにも圧のありすぎた“悪い”に空気が死んでしまったのをどうにかせねばと思っていると、兵士達の中の一人が手を挙げて質問をしてきた。
「ノアはどこに所属する事になるんだ?」
「ニャ、そういえば聞いてなかったニャ。レオナ軍団長。ノアは誰の下に着くんですかニャ?」
「........私。魔王様が決めた」
「「「「........えっ」」」」
再び凍りつく空気。
レオナはこんな感じで部下とまともにコミュニケーションが取れないため、直属の部下(命令権のある部隊)を持たない。
この二度の会話を見ただけでも分かるだろう。レオナとまともに会話できるのは、魔王と魔王軍幹部ぐらいだ。
そんな空気クラッシャーの彼女の下につく。そりゃ、兵士たちも困惑して固まってしまうというものだ。
「えーと、ノアはレオナ軍団長直属の部下にニャると?」
「........そう」
「オーマイガー........」
「「「「オーマイガー........」」」」
頭を抱えて天を向いたミャルに合わせ、兵士達も同じように頭を抱えて天を向く。
お前ら実は全て知っていて、事前に練習してきたんじゃないかと言うぐらいにピッタリ揃っていた“オーマイガー”であった。
流石魔王軍。ノリがいい。
魔王軍には魔王幹部を軍団長としていくつかの部隊にわけられる。
今回俺が入る第四魔王軍の場合、レオナ(代理のミャル)を頂点として第一から第五までの大隊が存在し、そのひとつの大隊に5~6の中隊。さらにその中に7~10の小隊が存在している。そして更に小隊の中に7~10の分隊が存在し、全てを合わせて軍団となる。
一分隊は大体4~5人程度のため、軍団の数は凡そ一万人規模となるのだ。
自衛隊で言えば約一個師団。それが6つで総勢約六万人が魔王国を守る兵士となる。
だから、モブの分隊長が報告に来る時クソ長い自己紹介が入るんだよな。
“第二魔王軍団、第三大隊、第六中隊、第八小隊、第七分隊長であります!!”とか言うセリフが来た時は長すぎて覚えらんねぇよと思ったものだ。
流石に毎回こうでは無いと言う設定は読んだが、正式な場での自己紹介はこんな感じである。
で、俺はどうなるのかと言うと、これらからは完全に独立した別部隊(1人)となるらしい。
完全に特例中の特例だ。
「困ったことがあったら、私に言ってくれればいいニャるよ。主に、レオナ軍団長の事とか」
「そうだな。困ったら俺達大隊長を頼るといい。今日ここにいない奴も多いが、俺から話を通しておくよ。何せレオナ軍団長は恐ろしいからな........怖い思いもするだろうが、基本部下思いのいいひとだから仲良くしてやってくれ。出来れば、あの圧と会話のしにくさを何とかしてくれ」
余程俺が心配なのか、レオナに聞こえない声量で耳打ちをしてくる第四魔王軍の兵士達。
どんだけ恐れられてんだよレオナは。
確かにゲームの中でも、こんな感じの扱いだったけどさ。
「........おい」
「「........(ビクッ)!!」」
静かに声を上げたレオナに対し、一瞬体が硬直する大隊長とミャル。
カツカツと歩いてくるレオナに冷や汗をダラダラ垂らしていた二人だが、レオナは二人の間をすり抜けると俺の前に立ってモゴモゴとした後決意を決めて話しかけてきた。
「........今日はいい天気だな」
「........え?あぁ、そうですね?」
この状況で天気の話?会話初心者の方ですか?
多分、俺と話すために頑張ってデッキ(事前の話題)を考えてきたのだろう。だが、あまりにもタイミングが悪すぎる。
あまりにも不自由な会話をし始める自分達の団長を見て、その場に居た兵士達は皆再び頭を抱えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます