配属先


 ヌルッと魔王軍に入ることが決定した俺。入隊が決まれば次に決めるのは配属先。


 本来であれば新兵として訓練を積んでから配属先が決まるのだが、今回は特例として先に配属先を決めようと言うことになった。


 魔王が何を考えているのかは知らないが、どうも俺をかなり特別扱いしてくれている。


 普段から何かと雑に扱われがちな魔王だが、人を見る目はかなりある。


 不器用な優しさを持つアランを一目見て、“心優しき青年”と呼ぶぐらいには観察眼に優れているのだ。


 魔王は一体俺の何を見て、ここまで特別扱いするのだろうか。


 その真相を聞きたくもあるが、きっと聞いたとしても適当にはぐらかされる。


 そう思った俺は、何も聞かない事にした。


「では、ノアをぜひウチにという人!!」


 魔王がそう聞くと、バッとガルエルとエリスが手を上げる。


 この二人は俺が魔王軍に所属するのを反対していた。恐らく、俺を確保してできる限り危険な目に遭わせないような仕事を振ろうとするのだろう。


 特にガルエルは少し顔が怖い。目が“絶対に確保する”と言う意志を感じられた。


 ガルエルは子供が笑って過ごせる世界を作りたいと言うのが夢だ。子供が戦争に参加する様な事は、絶対にさせたくないのだろう。


 ゲームの中では敵役(悪役)として出てくる癖に、あまにりにも綺麗すぎる夢だ。


 だからこそ、人気投票では二位に躍り出たんだろうな。


 我先にと手を挙げた二人を見て、魔王は苦笑する。


 2人が手を挙げたのは、予想通りだったのだろう。


「ふむ。お主らが手を上げるのは見え見えだな。多方、後方の安全な部隊に所属させるつもりなのだろう?」

「悪いか?」

「悪いですか?」

「いや、別に悪いとは言っておらぬよ。じゃが、こやつが望む場所ではない。子供はできる限り戦争に巻き込まない。妾も同じ考えではあるが........物事には何事も例外と言うのが存在するものだ。悪いが、二人の部下には出来ぬな」

「........」


 魔王の言葉を聞いて、今にも殴りかかりそうな顔をするガルエル。


 余程俺を戦場に出したくないと言うのが分かるが、今後の事を考えると俺は戦場に出ていた方がいい。


 アランもいずれ戦場に出てくる。その時、俺がアランを止めつつ上手く立ち回らなければならないのだ。


 アランを殺さず、魔王軍も殺させず。


 今後起こりうる戦争のことを考えると、最低限の実戦経験が必要である。


 経験があるか無いか。これはかなり大きな差なのだ。


「そんな目で見てもダメじゃぞガルエル。これは決定事項だ。あまり怖い顔をすると、ノアに嫌われるぞ?」

「........ノア。本当に戦場へと出るのか?」

「悪いけど、俺もやるべき事があるからね。ガルエル、分かって欲しい」


 険しい目で俺を睨みつけるガルエル。正直その圧はあまりにも怖く重たかったが、ガルエルやここにいる皆を守る為にはここで引き下がっては行けないと思い静かにガルエルの目を見つめ返した。


 俺は理論上最強のネタキャラ。ガチの強キャラ相手だろうが、理論値を出せば勝てるのが俺である。


 例えここで戦うとしても、俺は引き下がらないぞ。そのために毎日家の掃除と庭の手入れしてるんだからな。


 あぁ、乱数の女神様。大事な時は俺を助けてくれよ。


 毎回いえを掃除して綺麗にしても魔王が荒らしに来るけど、それに耐えてきたんだからら。


 と言うか、ロリ魔王。お前マジでいい加減にしろよ。庭の雑草を抜いてる時に邪魔してくるんじゃねぇ。鬼ごっこするのは自由だが、俺が居ないところに逃げろよバカが。


 ガルエルよりも段々魔王に腹が立ってきた俺であったが、その怒りが爆発する前にガルエルが大きく溜息を吐いて天を見る。


 どうやら、引き下がってくれたようだ。


「はぁぁぁ........そんな顔されたら、私も何も言えねぇな。昔のエリスを見ている気分になったぜ」

「私、あんなに可愛い顔してたんですか?いやぁ、照れますね」

「褒めてねぇよ。エリスはいいのか?」

「ノアくんが本気なら止められませんよ。何せ、たった一人で魔王軍幹部と知りながら接触してくるような子ですよ?私としては戦場に出て欲しくないので反対しますが........気持ちは分からなくもないですしね」


 エリスは割とすんなり引き下がったようだ。


 エリスの過去はあまり明らかになっていない。確か、12の時に魔王軍に入ったことしか書かれてなかったな。


 それ以前に何があったのか。どのようなことがあって魔王軍に入ったのか。そこら辺は、全て闇の中である。


「ふむ!!これでガルエルも大人しくなったな。ところでノアよ。お主、途中から妾に怒りを向けておらんかったか?」

「気のせいだよ気の所為。決して“掃除中の場所を荒らしに来んな”とか思ってないから」

「思っておるでは無いか。別にいいじゃろ?掃除したとしてもどうせ汚れる」


 それ、真面目に言ってる?1発殴ってもいいかな?


「ノアくん。殴っていいですよ。それはもう助走をつけて思いっきり。掃除の大変さを分からないこの哀れな魔王様に、一撃叩き込んであげてください」


 本気でこの魔王の顔面に拳を叩き込みたくなっていると、グリードが援護をしてくれる。


 よし、許可が出たな。歯ァ食いしばれロリ魔王。


 俺は、相手が女だろうが容赦なく顔を殴る男女平等主義者だぞ。


「ちょ、待て待て待て!!悪かった!!妾が悪かったから、その握りしめた拳を下ろせ!!今まででいちばん怖い顔になっておるぞ!!」

「言っても分からない子には身体で教えるしかないって、シスターマリアも言ってたからな。殴っても許されるだろう?」

「あの母なる君がそう言っていたのか?!えぇい、我が子になんて教育をしておるのだあの者は!!」


 シスターマリア、あまりにもイタズラがすぎる子にはちゃんとおしりペンペンとかで罰を与えていたからな。


 しかも、おしりが真っ赤になるまでしっかりと叩くから滅茶苦茶痛そうであった。


 それを見て、子供達は“悪いことをするのはやめよう”となるぐらいには。


 にっこりと笑いながら握りこぶしを構える俺と、ジリジリと下がりながら距離をとる魔王。


 そして、それを楽しそうに眺める魔王軍幹部の面々。


 王を殴っても許されるのが、この魔王国である。


「は、配属先!!配属先の話をしようではないか!!ノアよ、どこがいいとかあるか?」

「その前に1発殴らせろ魔王様。話を逸らしても無駄だぞ」

「ちょ、お主らも楽しそうに見てないで助けぬか!!我魔王ぞ?この国で一番偉い王様ぞ?」


 本格的に逃げ始めた魔王と、それを追いかける俺。


 足の速さは俺の方が上なのだが、魔王はその小さい体を使ってヒョイヒョイと避けながら逃げ回る。


 足止め用の魔法まで使ってくるんじゃねぇ!!スキルが発動するじゃねぇか!!


「大抵こういう時は魔王様が悪いからな。下々の怒りを身に染みて感じてくれよ」

「ハッハッハ。ザリウス殿の言う通りですな。こういう時は魔王様が悪いので大人しく殴られやがって下さい」

「いいぞノア!!やっちまえ!!私らの分まで殴ってやれ!!」

「すこしお手伝いしましょう。なに、偉大なる魔王様ならこのぐらいのハンデはくれますよね」

「み、みんなダメだよ。魔王様の顔を殴るなんて。ノアくん、お尻に思いっきりキックにしよう?」

「........が、頑張れ」

「お主ら後で覚えておけよぉぉぉぉ!!」


 全幹部達から裏切られた魔王。


 日頃の行いが悪いから、こういう時に誰も助けてくれないんだよ!!


 それにしても、今レオナが“頑張れ”って言ってくれた?なんとかこのノリに混ざろうと、勇気を出して応援してくれたぞ!!


 こうして、俺は魔王の頭にゲンコツを叩き込むまで追いかけ回すのであった。


 フー、スッとしたぜ。

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