魔王軍入隊


 ぞろぞろと会議室へとやってきた魔王軍幹部の面々。


 ガルエルやエリスとは何度も顔を合わせているが、エルと呼ばれた少年や魔王と喧嘩している大男はこの世界に来て初めて見る。


「お、このガキンチョが魔王様が言ってた子供か?随分と細い腕をしてんな。もっと飯を食え!!」

「辞めろザリウス。ノアが怖がるだろうが」


 ニカッと笑って俺の前に立つザリウスと呼ばれた男は、ガルエルに頭を叩かれると少しシュンとした顔でガルエルを見る。


 魔王軍の面々は基本的に子供に滅茶苦茶優しい。


 彼もその例に漏れず、子供のことはかなり好きで休暇が取れた日には孤児の子供達と遊んであげる程に面倒見がいい人である。


 人気投票第十位。プレイヤーからは“もふもふオッサン”と呼ばれる彼こそが、魔王軍幹部“六柱”の1人【破断】ザリウスだ。


 もふもふオッサンと呼ばれる理由は簡単で、彼は魔王軍の中でも異質な見た目をしているからだ。


 獣の要素が強く、その見た目は二足歩行する狼。


 赤ずきんの物語に出てくる悪いオオカミの様な見た目をしており、その毛並みはとても綺麗な漆黒でありながら物凄くもふもふそうなのだ。


 ザリウスに遊んでもらう子供たちもそのモフモフな毛並みが好きらしく、よくもふもふさせてもらっているシーンが流れていたものである。


 ちなみに、子供達の為に毛並みの手入れだけは毎日しっかりとやっているサブストーリーがあるので、毛並みをモフられるのは好きなのだろう。


 ロリ魔王にモフられることだけは断固拒否しているが。


「ノアくん。彼が魔王軍幹部の1人、ザリウスです。見た目はガルエルと同じく怖い人ですが、とても心優しく子供好きな人なんですよ。毛並みはとてもモフモフで、よく子供たちにモフモフさせています」

「確かに触ったら気持ちよさそうな毛並みだね。よろしく、もふも────じゃなくてザリウスさん」

「おう!!よろしくな!!何か困ったことがあったら俺に言うといい。大抵のことなら手伝ってやるよ」


 俺が手を差し出すと、その手を握り返して優しく頭を撫でてくれるザリウス。


 兄貴肌な一面もあり、面倒見もいいから男性人気も高かったキャラなだけはある。


 そして、ても獣のような手をしているが、握手をしただけでモフモフさがよく分かった。


 うわぁ、ちょっと抱きしめてくれないかなぁ........俺は男に抱かれる趣味は無いが、このモフモフを全身で味わってみたい。


 仲良くなったら頼んでみようと思っていると、ザリウスの隣からとても可愛い顔をした少年が頭を下げてきた。


「初めましてノアさん。僕はエル。一応魔王軍幹部をやってます。気軽にエルと呼んでください」

「初めまして。エルさん。よろしくね」


 少年........少、年?


 ゲームの設定で性別を知っているから少年と言っているが、どう見ても見た目が女の子である。


 しかも、そこら辺の女の子よりも段違いに可愛い。


 流石は人気投票第四位。プレイヤーから“性癖クラッシャー”“新たな扉を開く鍵”“最強の男の娘”とまで言われた【軍師】エルだ。


 俺よりも細い腕は絹のように滑らかであり、抱きしめてしまえば折れてしまいそうな体。


 紫色で男にしては長めの髪と、宝石のように輝く青い目はあまりにも眩しすぎる。


 そりゃ、“男でもいいや”となるわけだ。


 こんなに可愛ければ性別なんて関係ない。可愛いこそ正義!!キュートisジャスティス!!


 ヘルオブエデンで最も多くの同人誌(意味深)が作られ、数多くのファンを抱えているのも理解できる。


 こいつ、男人気ももちろんのこと、女人気も死ぬほど高いんだよな。


 でも、ちょっと性格がひん曲がっているところがあるので、魔王やガルエル、そしてシスターマリアよりも順位が低い。


 というか、序盤で退場する癖に順位が高いシスターマリアやこんなにもポンコツなのに人気のある魔王達がおかしいのだ。


 このゲームに出てくる奴らのキャラが濃すぎるよ。


 尚、ノリは結構いい。毎回“僕に振らないでください”とか言いつつも、ちゃんと乗ってくれる空気の読めるやつだ。


 まぁ、エルも魔王の扱いは雑なんだけど。


「あ、ノアくん。一応先に言っておくけど、僕は男だからね........」

「え?うん。わかってるよ」

「本当?!魔王様以来だよ!!僕を初めて見て男だって気づいてくれたの!!」


 嬉しそうな笑顔を見せながら、俺の手を握るエル。


 うん。ごめん。俺、カンニングしてるから性別は分かってるんだよね........あと近づき過ぎないで。変な気を起こしそうで怖いから。


 なぜアランと言いエルと言い、こんなにも俺と距離が近いのだろうか。


 このゲーム、ノアがBL展開をするゲームじゃないんですけど。


「ちなみに、エルはその見た目から数多くの男性陣からアプローチを貰ってきたんですよ。未だに愛の花束が送られることもあるんだとか」

「それはすごいね。モテモテじゃん」

「エリス?!僕の恋愛対象は女の子なんだけど?!」

「その見た目で男を自称するのは無理がありますよ。頑張って女の子として生きましょう」

「無理無理無理!!僕は男なんだって!!」


 全力で首を横に振りながら、エリスの提案を拒否するエル。


 そうえばサブストーリーでエルが男から愛の告白をされて困ると言うのがあったなぁ........プレイヤー達はその展開に怒るどころか“分かる”“お前も今日から同志だ”“愛に性別とか関係ないよな”とか言って寧ろその勇気を褒めてたっけ。


 魔王軍の中でもエルを女の子扱いするのは鉄板のネタであり、女装大会が開かれた時はぶっちぎりで優勝してその日1日“プリンセス”と呼ばれたりしていた。


 可愛い。


 これで魔王軍幹部全員と出会えたなと思っていると、魔王が手をパンパンと叩いて注目を集めさせる。


 全員ここに集まったのは、会議をするため。


 交流会もいいが、会議がメインなのである。


「そろそろ席に着けー。会議を始めるぞー」


 学校の教師が“授業を始めるぞ”と言うテンションで皆を席に座らせる魔王。


 俺は、魔王が用意してくれた席に座るように言われたので大人しくそこに座っておく。


 なんで魔王の隣に座らされてるんだよとは思ったが、今回俺を連れてきたのは魔王なのだ。


 当然、魔王の横に座るのが自然な流れだろう。


「コホン。今回集まって貰ったのは、新たな仲間を紹介するためじゃ。とは言っても既に紹介は終えておるから、名前だけ言おう。ノア。お主、魔王軍に入れ」

「........え?」


 思わぬ言葉に驚き声を上げる俺。


 なんのために連れてこられたのか分からなかったが、どうやら魔王は俺を魔王軍に入れようとしているらしい。


 しかも、態々幹部を全員集めた場での宣言とは。


 しかし、これはチャンスだ。


 魔王軍に入りたいと思っていたし、魔王軍に入ればやれる事は増える。


 給料が入ればシスターマリア達の生活を支えられるし、実践を積むことだってできる。


 元々俺が魔王に頼むつもりだったのだ。この提案を断る理由はない。


 が、もちろん反対する者も現れる。子供好きのガルエルとか、エリスとか。


「待てよ。魔王様。ノアはまだ子供だ。戦場に立つべきではない」

「それはそうですね。子供をできる限り戦場に立たせないというのが、魔王軍の方針なのでは無いですか?」

戦場に立たせぬと言うだけであって、特例はある。それで言えばエリス。お主も同じじゃろ?」

「........しかし─────」

「ゴタゴタ言うなエリス、ガルエル。問題はノアの意思だろう?俺はどちらでもいいぜ。ノアだって一人の男なんだ。彼の意志を尊重してやれ」

「........同意」

「僕もそう思います」

「私もザリウスの意見に賛成ですかね。結局は本人次第ですし、魔王様の推薦です。我々がとやかく言う権利はないかと」


 四対二。


 結局は俺の意思次第か。ならば答えは決まっている。


 俺は、魔王に“どうする?”と聞かれるよりも早く答えを出した。


「やる。俺はやるべき事があるからね」

「くははははははっ!!それでこそ男よ!!妾の見込んだ男はこうでなくてはな!!」


 こうして、俺は魔王軍に所属することが決まった。


 次は、配属先がどこになるのか。それも重要だな。

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