魔王軍幹部“六柱”
魔王に連れられてやってきたのは、魔王国が会議をする場として設けてある“円卓会議室”であった。
メインストーリーやサブストーリーでよく出てくるこの場所は、よくコメディの現場となる。
幹部の一人であるおじいちゃんに孫が生まれたからと言って、皆でお祝いパーティーを開く場所となったり、時には魔王が“焼肉食いたい”とか言い出して焼肉会場になったりと、ロクな使われ方をしてない。
円卓会議室君は怒っていいよ。会議のための場所なのに、メインストーリーでもサブストーリーでも片手で数える程しかちゃんとした使われ方をしてないんだから。
そんな円卓会議室だが、俺は1度この魔王城観光ツアーで見たことがある。
その時の感動は言葉では言い表せないものであった。ここで魔王幹部達が焼肉したりパーティーしたりしていたと思うと、少々同情してしまったが。
部屋の中にポツンと置いてある大きな円卓。
本来ならば、その円卓を囲んで会議が開かれるはずだと言うのに土足で乗られる上に三回ぐらい壊されてるからな........
「ふむ。まだ誰も来てないでは無いか。魔王たる妾が一番乗りとは、随分とたるんだ幹部共だな!!今月は減給にするべきだとは思わぬか?」
「王が王なら、その配下に付く者達も似たようなものになるんでしょ」
「くははははははっ!!言うでは無いか!!」
一国の王相手にタメ口&煽りを入れても笑い飛ばすだけで罰を下さない魔王。
これが人間の国だったら即処刑ものなんだけど、生憎この国の王はそんな事を気にしない。
王としてどうなんだとは思うが、そんな人でも無ければこの国の王は務まらないのだろう。
何せ、子供との遊びでムキになるロリ魔王様だからね。
そんなことを思いながら、ゲームの中に出てきた場所をしっかりと目に焼き付けていると、円卓会議室の扉が開かれる。
「おや?私が一番乗りだと思いましたが、珍しく魔王様が一番乗りとは。いやはや。明日は矢の雨が降りそうですな」
「くはは。相変わらず馬鹿げたことを言うジジイじゃのぉ。妾が一番乗りな事がそんなにも不思議か?」
「えぇ、もちろん。何せ、私の記憶にある限り魔王様が予定時刻に会議場にいる事なんて片手で数える程しかありませんからな」
「年で記憶があやふやになっておるじゃろ。妾が遅刻せずに会議に来たのは、これで8回目じゃ」
「いや、胸を張って言うことでは無いのですがね?なぜ既に何回開かれたかも分からない会議に、僅か八回しか時間通りに来れないのですか」
「こう見えても忙しいからな!!それはさておき、紹介しようグリード。こやつが妾が言っておった“面白いやつ”じゃ。ノア、この白髪頭のジジィが魔王軍幹部の一人、グリードじゃ。気安く“クソジジィ”と呼ぶがいい」
いや、呼ばねぇよ?
呼んだとしてもこの人の場合許してくれるだろうが、流石に初対面の人に“クソジジィ”呼ばわりするほど俺は非常識ではない。
人気投票第九位にして、プレイヤーからは“爆裂おじいちゃん”“
【破壊者】グリード。
その老いた見た目からは想像もつかないほど素早く、アホみたいに強いのがこのグリードと言うキャラクターである。
まぁ、ゲームではハメ技を使って完封される悲しき人なのだが、それは置いておくとして。
お爺さんとは思えないほどに真っ直ぐ伸びた背筋と、オールバックの白髪。目は細すぎて空いているのか閉じているのか分からず、その身に漂う雰囲気も“優しいお爺さん”である。
事実、滅茶苦茶優しい。
魔王軍の中(ゲームの人気投票ではなくストーリーの話)でも人気が高く、下手をしたら魔王よりも人望があるレベルで面倒見もいい人なのだ。
しかし、戦闘になるとその優しさは鬼へと変わる。
手当り次第近場にあるものを全て破壊し、敵軍を爆弾に変えてぶん投げる鬼神と化す。
それが、魔王軍の中でも最も古株の御仁。グリードなのだ。
「ほう。この子が可哀想にも魔王様に目をつけられた子供ですか。初めましてノア君。私はグリード。魔王軍幹部ではありますが、気軽に“グリ爺”とでも呼んでください。あ、後飴ちゃん食べます?」
「ノアです。よろしくグリ爺」
態々俺の目線に合わせてしゃがみ、優しい笑顔で自己紹介をしてくれるグリード。
そして、俺は飴を受け取ると口の中に放り込んだ。
ん、これガルエルがくれた飴と同じだな。
魔王やエリスも飴を常備していたし、もしかして魔王軍の標準装備に飴でもあるのか?
俺はゲームをやっているだけでは見えなかった設定について考えつつ、口の中で飴を転がす。
微妙に現代日本の様な設定も入ってるから、甘味や食べ物は美味しいんだよな。この世界。
なのに街並みは中世ヨーロッパ。何故かハンバーガーとか売ってるから、違和感が凄いんだよ。
始まりの村はそんなこと無かったのに。
「フッフッフ。実に可愛くていい子ですね。昔の我が子を思い出しますよ」
「おー、そういえばお主にも子がおったな。どうじゃ?最近は」
「既に自立して店を持っていますよ。まだ結婚はしていませんが、パートナーも見つけたようでして。この前家に帰ってきた時に、私と妻に惚気話をずっとしてきたのを見るに、関係は良好そうですね」
「ほう。では、お主に孫ができる日もそう遠くは無いのかもしれんな。それまでに死ぬなよ?」
「えぇもちろん。孫を可愛がって、息子が“もう甘やかさないでくれ”と言うまで甘やかすのが私の夢ですからね。頑張っておじいちゃんっ子にしますよ」
「くははははははっ!!お主の息子も大変そうだな!!こんなジジィの元に生まれたら苦労が耐えんわ!!」
まだ見ぬ孫を全力で甘やかす宣言をするグリードを見て、実に楽しそうに笑う魔王。
そうえば、サブストーリーでそれは現実になっていたな。孫を甘やかしすぎて、暫く会うの禁止!!と言われるぐらいには甘やかしていた記憶がある。
欲しいものは全部買ってあげるし、何をしても怒らない。
子供からしたら夢のようなおじいちゃんだろう。それが本人のためになるかはともかく、子供は自分に甘い人が好きなのだ。
魔王とグリードが話していると、バン!!と乱暴に円卓会議室の扉が開かれる。
そちらに目を向けると、残りの魔王軍幹部の面々が揃っていた。
「アン?魔王様がもう居るなんて、これは幻覚かァ?明日は傘を持ち歩かねぇといけねぇな」
「ちょ、失礼だよザリウス。おはようございます魔王様」
「本当ですね。魔王様が既にいるなんて有り得ません。誰ですか貴方」
「魔王様がいるわけねぇもんな........お、ノアじゃないか。なんだ?魔王様に連れてこられたのか?」
「........」
ぞろぞろと部屋に入ってくる魔王軍幹部達。
ガルエルやエリス、そしてレオナは普段通りの格好。そして、相変わらず魔王に対して敬意の欠片も感じられない。
「揃いも揃ってお主らは妾をなんだと思っておるのだ?妾だってちゃんと時間通りに来る時は来るぞ」
「普通は時間通りに来るもんなんだよ。なんなら、5分前には集まるもんなの!!毎回1人だけ遅刻しでるやつが胸を張るな。バカかおめェは」
「馬鹿とはなんじゃバカとは。馬鹿という方が馬鹿なんじゃぞ!!」
「その返しが既に馬鹿なんだよ。馬鹿と言われたくなけりゃせめて時間通りに会議に来るこったな。全く、この遅刻魔のせいで俺達がどれだけの時間を無駄にしてると思ってんだ」
「そうですね。これは給料を上げてもらわねば割に合わないかと........そう思いますよね?エル」
「え、僕?!そんなキラーパス送ってこないでよ。でも、給料は上げて欲しいかな」
ワイワイと騒がしくなる円卓会議室。
この世界に転生してから11年弱。遂に、このゲームのメインキャラとまで言われた魔王軍“六柱”の面々を目にすることが出来た俺は、感動のあまり涙を流しそうになっていたのだった。
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