次にやるべき事


 魔王国に来てから、今日で一ヶ月。


 様々なことがあったものの村人達は徐々に魔王国に慣れ始め、ようやく落ち着いた生活が送れるようになり始めていた。


 最初は魔王が顔を出しに来る度にビクビクと震えていた村人達も、子供達と遊ぶ(遊んでもらう)魔王を見て“噂ほど怖い人では無いのかもしれない”と思い始め今では少しだけならば大人達とも会話する魔王の姿を見る事が出来る。


 子供たちは言わずもがな。


 魔王がやってくると子供達は集まり、魔法を使って!!だの鬼ごっこしよう!!だの遊びに誘ってくる。


 魔王も魔王で、子供たちと遊ぶのは楽しいのか、ずっと笑っていたな。


 この前なんて魔王国の子供達を引き連れて遊んでいたものだ。


 本当に魔王か?と思われるが、このロリ魔王はそう言う存在である。


 ガルエルとエリスの2人も、今は暇なのかよくこの場所を訪れてくれた。


 ガルエルは未だに子供たちのトラウマを抉るのか、少し恐れられていてかなり凹んでいたが。


「アランは今頃学園で何をやってるんだろうな?時期的に初めてダンジョンに潜る頃か?本格的なレベル上げが始まるのは手紙が来る前だから、そろそろだと思うんだが........」


 そんな村人たちが徐々に魔王国に慣れていく中、俺は次のやるべきことを考えていた。


 一先ず、シスターマリア達を救ってアラン闇落ちルートは回避した。


 俺達が村から消えたことを魔王軍の襲撃と言い張る可能性も考え、村に訪れたアランが必ず訪れるであろう場所に手紙ととあるものを隠してあるし、村に召喚したままの動物達に監視をさせている。


 アランが訪れた時に誘導し、上手く真実を伝えられるはずだ。


 流石に寝ている時に来られると困るが。


 アランの元に手紙が来るのは大体秋頃。俺がストーリーをねじ曲げているので、それよりも早いかもしれないし遅いかもしれない。


 ストーリー通りに動かないとこういう事があるんだなと思いつつ、俺は次の目標を立てる。


「先ずは魔王軍に入らないと始まらない。この場所にいても行動が制限されるだけだし、出来れば実践を積んでレベルだけでは測れない経験をしておきたいな」


 先ずやるべき事は“魔王軍への入隊”だ。


 これに関してはおそらく上手くいく。できる限り子供を戦わせない方針を取っている魔王軍だが、彼らは情に脆い。更に、偵察や諜報でも役に立てる上に直接戦争に出ないという条件を付けたりすればなんとかなるだろう。


 戦闘に関しても、魔王軍に入れば多少のことは学べる。


 俺の魔法の使い方や戦略の幅を向上させる為にも、魔王軍に入るというのは絶対条件だ。


「アランと魔王軍が接敵するのは2年後。それまでは力を貯える時期だな。魔王軍は他国とも戦争をしているけど、大きな損害を負った描写は無いし一先ずは介入する必要が無い。でも、既にストーリー通りに物語が進んでない事を考えると、アランの状況を調べたいな........しまった。召喚した動物でも連れて行かせればよかった」


 流石に今すぐにアランが戦場に投入されることは無いだろう。


 リバース王国としても、一騎当千の戦力は大切に育てたいはずだ。未だに至らない事が多いアランを捨て駒にする程、リバース王国も馬鹿ではない。


 学園を卒業してある程度の力をつけるまでは、時間がある。


「アランが本格的に戦場に出てくるのは五年後の15歳から。それまでにできる限りリバース王国の闇を見せる手段がいるな。アランには辛い思いをさせてしまうだろうが.......王国に不信感を植え付けるとなるとそれが一番だし」


 メインストーリーの学園編でも、様々なイベントが開催される。


 学園らしいイベントから、胸糞悪いイベントまで。


 1年目は村の消滅。二年目は魔王軍との接敵。三年目は貴族の闇。四年目は王家の闇。五年目は民衆の期待を背負うことになる。


 もちろん、その間には水着イベントだったり学園祭なんかもあるが、闇落ちしたアランは全く楽しんでなかったな........


 元学生として、友人として、アランには人生で1度きりの学生人生を楽しいんて欲しい。が、その間にできる限りリバース王国への不信感を植え付けなければならない。


 そして、魔王国と本格的に戦い始めてから三年後のとあるイベントで勝負を決めたい。


「困ったな。アランが良い奴になり過ぎたせいで、ガッツリ悲しませるような事をしたくないぞ。主人公め。こんな所でもモブキャラを困らせるのか」


 俺はメインストーリーとはまるで違うアランを思い出し、1人でクスリと笑う。


 誰もが近寄り難い雰囲気を出し“ふん”が口癖だったあの勇者様が、“ノア、ノア!!”と言いながら俺の隣で心のそこから笑うようになるやつに変わってしまったのだ。


 元々嫌いな奴では無かったが、10年近くも一緒にいると情が湧く。


 できる限り嫌な思いはさせずにハッピーエンドに向かわせたいと思うのは、この世界をゲームの世界だとまだどこかで思ってしまうプレイヤーの傲慢だろうか?


「ともかく、先ずは魔王軍に入らないとな。話はそれからだ」


 俺はそう決めると、座っていたベッドから立ち上がる。


 そして、扉を開けるとゴン!!と何かに当たった音がした。


「ゴフッ!!」

「........何やってんだ魔王様」


 僅かに赤くなったおデコを擦りながら、涙目でこちらを見てくる魔王。


 その手にはよく分からん道具を持っており、恐らく何らかのイタズラをしてやろうと試みていたのだろう。


 そりゃ、幹部達は与えられた魔王城の部屋を使いたがらない訳だ。


 こんな魔王が住む魔王の城に寝泊まりしていたら、心が休まる時なんてないだろうに。


「酷いでは無いか!!普通扉を開ける時、そこに人が居ないか確認するべきだろう?!」

「この家の構造が悪い。扉の開閉を逆向きに設計してたら起こらなかった悲劇だな」

「なぬ?!妾が善意で住まわせているこの家に文句を言うとは、なんという恩知らず!!ノアはもっと妾を崇めるべきだぞ!!ほら!!崇めよ!!」

「少なくとも、人の部屋の前でコソコソしながらイタズラを試みる奴に払う敬意は無いね。で、なんの用なの魔王様。イタズラだけが目的じゃないんでしょ?」


 ノリがいいだけでは魔王は勤まらない。子供達の不安を紛らわせる為に毎日遊びに来たり、村人達の困り事を聞いたりして友好を深めている魔王のことだ。


 イタズラがしたいだけでここに来るわけもないだろう。


 いや、半分ぐらいは“楽しそうだから”でやってるとは思うが。


 俺に問われた魔王は、ゆっくりと立ち上がっておしりの埃をはらうとニッと笑って俺に指を突きつける。


「今日、魔王軍の幹部が全員集まる。お主も来いノアよ。既に聖なる母には許可をとってあるのでな」


 聖なる母。つまり、シスターマリアには話を通してあるのか。


 態々シスターマリアに話を通している辺り、真面目に俺をその会議とやらに連れていきたいみたいだな。


 一体何が目的だ?


 俺の紹介?いや、それなら別に幹部が集まる会議でなくても問題ない。


 俺はこの魔王が何を企んでいるのか頭をフル回転させたが、結局のところ“拒否権はない”という結論に至った。


 俺も魔王軍幹部を生で見てみたいし、魔王軍幹部が集まるという事はレオナをまた見ることが出来る。


 今度は上手く話せるといいなと思いつつ、俺は首を縦に振った。


「分かった。ニーナに出かける旨を伝えたら行くよ」

「........なぜニーナに?」

「勝手にどこかに消えると、ニーナが拗ねるんだよ。まだ6歳だから、兄のような存在に遊んでもらいたいんだろうな。探して居ないとわかるとものすごく拗ねる」

「あの聡明なニーナも可愛いところがあるのだな。この前本を読んでおったので“何を読んでおるのだ? ”と聞いたら、“人間と感情”とか言う哲学的な本を読んでおったぞ........あのぐらいの歳の子は、英雄譚や冒険譚、もしくは姫と王子の物語を読むのではないかの?」


 あの魔王ですら困惑するほんのチョイスを選ぶとは、さすがはニーナである。


 と言うか、その本俺知らないんだけどいつ手に入れたの?


「俺はニーナの将来が心配だよ」

「妾も心配じゃな........まだ“ノアのお嫁さんになる”と言ってる方が可愛げがある」


 六歳ながら哲学的な本を読み続けるニーナに、俺も魔王も将来を心配するしかないのだった。

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