コミュ障幹部


 遂に現れた俺の推しキャラ【無限剣聖】レオナ。


 目は黒い布でおおわれ、口元も服で覆われているため殆ど顔が見えないが、彼女がその目隠しを外した時の姿はとてもカッコよくて美しい。


 厨二チックなその服と相まって、そのカッコ良さは異常だ。


 出来れば外して綺麗な目を見てみたいとは思うが、初対面で求める事では無いよな。


「........」

「........」


 顔を見合せ無言の時間が流れる。俺達の耳に聞こえるのは、魔王と子供達が遊ぶ声だけであり、異様な空気が流れていた。


 お互いに間合いを見極めるような、どこが剣を合わせられる間合いなのか。


 そんな探り合いが、今この時行われている。


「「........」」


 レオナはコミュ障、初手を間違えて近づきすぎるとあっという間に距離を取られる。


 だからと言って遠すぎると、今後歩みよるのは難しい。


 だが、このまま睨み合いを続ける訳にも行かない。俺は静かにぺこりと頭を下げると、無難な挨拶から会話を始めた。


「ノアです。よろしく」

「........魔王軍六柱が一角、レオナだ。よろしく」


 ここで握手のひとつも出来ればいいのだが、サブストーリーでガルエルと初めて会った際に握手を求められて困っている描写があったのを俺は知っている。


 だから、俺は手を出さなかった。


 ものすごく。ものすごーーく、握手したがったが我慢だ。


 今はまだその段階にすら立てていない。できる限り相手が答えやすく、会話が続けられるようなことを言わなければ........!!


「レオナさんは子供が好き?」

「........嫌いでは無い」


 うーん、この話題はダメだな。会話が続く気がしない。


 次だ次。次は、もっとレオナに身近な物を聞くとしよう。


「それは良かった。ところで、凄い武器だね。剣がいっぱい入ってる」

「........私の戦い方は少々特殊なんだ。数多くの剣を地面に突き刺して戦う。そのためにも、常に持ち歩いているのさ」


 先程よりも饒舌に語るレオナ。


 この話題なら行けそうだな。設定でも、彼女は自分の戦い方に拘りと誇りを持っているとか書いてあったっけ。そして、その話になると少し饒舌になるとか。


 俺はできる限りレオナの設定を思い出しながら、できる限り会話が続くように仕向ける。


 先ずは相手が得意な事から話題を作る。


 彼女はコミュ障設定ではあるが、魔王軍のノリについて行きたいと思うような人なのだ。


 ガチのコミュ障では無い。突破口はそこにある。


「地面に剣を突き刺して戦うってどんな風に?」

「........そうだな。私は幾つもの剣を地面に突き刺し、状況に合わせてその剣を引き抜いて使うんだ。時として剣を投げ近くにある剣を補充し、時として無限の剣筋を描く。だからか、皆は【無限剣聖】などと言う恥ずかしい名を私に着けたんだ」

「いいじゃねぇかレオナ。かっこいいだろ?」

「........ふざけるな。この名前のどこがかっこいいんだ?そもそも私は剣聖の極地に達した覚えは無い」

「かー!!真面目だねぇ。1対1の戦いならまず負けず、魔王様を除いた魔王軍の中でも一番強いとまで言われるお前さんが、剣の極地に立っていないとしたら私達なんて石ころじゃないか」


 ガルエルはそう言うと、レオナの肩をポンポンと叩く。


 レオナは僅かに眉を潜めたが、アレは内心喜んでるんだろうなぁ........レオナは魔王軍の人達の事大好きだし。


「........もういい。顔合わせは済んだから私は帰るぞ」

「あ、おい!!」


 レオナはそう言うと、背中を見せてさっさと謁見の間から出ていく。


 ガルエルは止めようと手を出したが、スルッと避けられてどこかへと消えてしまった。


 うーん。途中でガルエルが入ってきてしまったが、初対面にしては上場の滑り出しなのではないだろうか。


「すいませんノアくん。レオナは決して悪い人では無いのですが、少々人と話すのが苦手でして........」

「気にしてないからいいよ。俺としては楽しかったし」

「そうですか?ならいいのですが........」


 苦笑いを浮かべながら謝ってくるエリスと、推しキャラと話せて内心滅茶苦茶テンションが上がっている俺。


 やっぱりカッコイイし、面白いな。レオナは。


 この後も魔王城見学会は続いたが、俺はその日一日中機嫌が良かった。




【魔王城】

 魔王国の首都に聳え立つ大きな城。魔王国建国時にはもっと小さかったのだが、魔王がノリで“増設!!”と言って勝手に作り替えまくった結果滅茶苦茶大きくなっている。

 外観はおぞましさを感じると言うよりは、黒と白を上手く合わせて綺麗に仕上がっており、魔王の拘りが感じられる。尚、魔王の家はこの魔王城の庭にポツンとある小さな小屋。ほかの幹部や部下も部屋を与えられているが、大体自分の家を持っている。何故かって?魔王がイタズラしに来るから、休むに休めないのだ。




 魔王軍最高幹部の一人レオナは、早足で自分の家に帰ると鍵を閉めてベッドに飛び込む。


 ここは魔王城から少し離れた一軒家。レオナが1人で住む、小さな一軒家である。


(やばばばば!!どうしよう。子供相手に素っ気ない態度を取っちゃったよ!!絶対“変なやつ”と思われて嫌われちゃうよ!!)


 レオナは人と上手く話せない。


 日常生活に支障をきたす程の酷いものでは無いが、彼女はコミュ障と言われるぐらいにはコミュニケーションが下手であった。


 ベッドに置かれているお気に入りのクマのぬいぐるみを抱き抱えると、レオナは1人反省会を始める。


 誰かと話した時は、いつも1人で今日行われた会話を反省するのが彼女のルーティーン。残念な事に、その反省が次に活かされた試しは無いのだが。


「ノアくん........だったけ?あの子、かなり気を使って話してくれてたよなぁ.......私の方が大人なんだから、しっかりと話題を振ってあげないといけなかったのに」


 レオナはそう言うと、今日であった少し変わった少年の顔を思い出す。


 魔王城で日課の鍛錬をし、少し休憩を取っている時にガルエル達に呼び出された。“魔王様が一昨日連れてきた子供達と一緒に魔王城を案内してる。見に来ないか?”と。


 最初は断った。


 レオナは子供おろか、魔王軍の皆にも少々恐れられている。ほとんど分からない顔と、不器用な会話。そして、強者故の圧。


 もし、子供たちの前に出たら泣かれてしまう。


 子供が好きなレオナにとって、子供達と話すよりも泣かれる方が辛かった。


 が、珍しくガルエルとエリスが“あって欲しい奴がいる”と背中を押してまで行かせようとするので、仕方がなく行くことにしたのだ。


 そして出会ったのが、ノアという少年。


 なんでも、1人でガルエルたちと交渉をし、生き残る権利を獲得したのだ。


 しかも、たった一人でリバース王国の暗部の1人を取り押さえているのだとか。


「ノア君。凄く不思議だったな。魔力量は魔王様並にあるけど、ガルエル達のような強さを感じない。召喚術士だとは聞いたけど、すごく歪な感じだった」


 レオナは布で両目を隠しているが、目が見えない訳では無い。


 寧ろその逆、のだ。


 そして、その目が捉えたノアは、あまりにも歪で不可思議な存在である。


 あれほどの魔力を持っていながら、強者たる圧を感じない。しかしながら、その場で斬りかかっても殺せる気がしない。


 チグハグな矛盾。


 レオナはネタキャラノアの性能を的確に見抜いていた。


「今度会った時はもっと上手く話さないと........!!その為にも、“会話デッキ”を組まなきゃ」


 会話デッキ。それは、レオナが頑張って会話をするために作る“話題”。その日の天気や、体調。相手の服装など、当たり障りのない会話ができるようにしっかりと話題を考えて会話をシュミレーションするのである。


 正しくコミュ障の悲しき努力。微妙にコミュニケーションが取れるから、尚のこと痛ましく感じてしまう。


「えっと先ずは─────」


 こうして、魔王軍幹部の会話シュミレーションが今日も始まるのであった。もちろん、シュミレーション相手はぬいぐるみのクマで。

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