推しキャラ降臨


 魔王が子供たちの輪の中に混ざって、クオリティーの高い人形劇で騒ぎまくっていた翌日。


 魔王は、本当に子供達を連れて魔王城観光ツアーを開催していた。


 保護者にはシスターマリアと神父様。そして、ギリギリ成人に達していない年長組が初めて見る大きな城にはしゃぐ子供達の面倒を見る。


 俺は年長組ではなかったが、ニーナの面倒を見させられていた。


 ま、ニーナは大人しい子なので特に手もかからないが。


 魔王城の内部はゲームで見た通りであり、このゲームのファンであった俺からしてもとても楽しいものであった。


 途中すれ違う魔人族の人々も、未知なるものに目を輝かせる子供達にはとても優しく、中には少しだけ遊んであげる人もいる。


 筋肉ムキムキの牛の角が生えた如何にも“軍人です”と言わんばかりの見た目の怖いおっちゃんとか、物凄く優しい顔をしながらその腕に子供達をぶら下げて遊んでいたものだ。


 流石に俺はその輪の中には混ざらなかったが。


「ここが我が魔王城の謁見場だ。凄く広いだろう?本来ならば特別な時にしか入れんが、お主らの為に、態々昨日管理人の許可を取りに行ったのでな!!」

「わー!!凄い凄い!!ひろーい!!」

「ねーねー、魔王さま、あの椅子は何?」

「うむ!!あそこに妾が座るのだ。座ってみたいか?特別に座らせてやるぞ!!」

「ほんと?座りたい!!」


 魔王はどうやら昨日の間に子供達とずいぶん仲良くなったらしく、まるで友だちが自分の家に遊びに来たかのように城の中を案内していた。


 シスターマリアは何となく魔王の性格が分かり始め、ニコニコとその様子を眺めていたが、未だに魔王を信用していいのか分からない神父様は顔を青くしながら子供達を見守る。


 昨日の今日で心を開けるのは、子供ぐらいだ。神父様が魔王に気安く話しかけられるようになるのは、もっと先の話だろう。


 キャッキャとはしゃぐ子供たちと、その中に混ざりながら楽しそうに子供達を魔法を使って魔王の椅子に座らせる魔王。


 そんな楽しそうな子供たちの笑い声が聞こえる傍らで、ニーナは退屈そうに欠伸をした。


「ニーナは座ってこなくていいのか?」

「別に興味無い。それよりも、さっき見た図書館の方が興味ある」

「あぁ、ニーナは本を読むのが好きだったもんな」

「時間が無くてお気に入りの本を全部もって来れなかったのは残念。持ってこれたのは三冊だけ」

「........ちなみに、なんの本を持ってきたんだ?」

「“人の幸福はどのようにして生まれるのか”と“人と精神”と“正義と悪”の三冊。読む度に深く考えさせられるから、好き」


 うーん、それ、俺がニーナに何度か読み聞かせてあげた本ですね。


 どれも哲学的話が多く、少々思想が強い話も混ざっていた記憶がある。


 特に“人と精神”は読んでいて“あれ?この本書いたヤツは共産主義者か独裁主義者なのか?”と思うほどである。


 そんな本を気に入って読んでいるとか、お兄ちゃんニーナの未来が心配だよ。


 大丈夫だよね?急に俺の事を“同志”とか呼ばないよね?


 そんな可愛い妹の未来を心配していると、カツンカツンと、部屋の外から足音が聞こえてくる。


 足音の数は複数。後ろを振り返ると、そこにはガルエルとエリスが居た。


「おー、やってるな。城の中でも話が広がってたぞ。魔王様が子供達を引き連れて観光してるってな」

「皆さん、元気のいい子供を見られて楽しかったと言ってましたね」

「ガルエル、エリス。おはよう」

「おう。おはようノア。お前はあの椅子に座らなくてもいいのか?滅多にないぜ?あの椅子に座れる機会は」

「ちょっと座ってもみたいけど、座ったらダメな気がするからね。純粋な心を持つ子供だけが、あの椅子に座る権利があるんだよ」

「ハッハッハ!!聞いたかエリス。その理論で行けば、魔王様はあの椅子に座れないぞ!!」

「確かにそうですね。見た目は子供なのでヨシとしますが、純粋な心を持っているとは思えませんね........」


 俺はそういう意味で言った訳では無いのだが、ガルエルは言葉の通りに捉えてしまったようだ。


 確かにその理論で行けば、魔王があの椅子に座ることは出来ない。


 だって、イタズラするし、戦争でも割と汚い手は使うしな。


 あくまでも敵国の一般市民は傷つけないと言うだけであって、戦場に出ればそんな綺麗事は言えなくなる。


 時として火攻めを行い、夜襲を仕掛けるように指示を出す魔王が純粋な心を持っているとは言い難かった。


「それにしてもまぁ、楽しそうに遊んでんな。魔王様。あれじゃ、どっちが遊んでもらっているのか分かりゃしねぇ」

「そうですね。楽しそうなので何も言いませんけれども。貴方もそう思いませんか?レオナ」

「.......そうだな」


 謁見の間の柱の影から出てきたのは、レオナと呼ばれた


 両目は黒い布で覆い隠され、その布の中心には目の形をした模様が刻まれている。


 漆黒の闇の中で煌めく炎のように混ざりあった黒と赤の長髪を、ポニーテールに纏めている。服は、髪と合わせているのか黒をメインとして赤いラインが入った服。


 そして、何より目を引くのが明らかに動きにくいだろと言いたくなるほどにまで大きい大量の剣を収納出来る特殊な鞘。


 腰に付けるのが難しいので、エナメルバッグのように肩にかけて持ち歩いているのがわかる。


 しかも、2つも。


 彼女の戦い方は、剣士としてかなり特殊なのだ。


 本物だ........!!本物のレオナが話している。


 俺の推しキャラでもあり、人気投票第七位。


 普段は少々強い口調とノリの悪さから魔王軍の中でも恐れられる存在ではあるが、実はただ単に恥ずかしいだけで心の中では皆とノリを合わせたいと思っているコミュ障!!


 しかも、サブストーリーではぬいぐるみがいっぱいある部屋で1人反省会をするギャップ!!


 魔王軍幹部で唯一、直属の部隊(一応持ってはいるが命令権が無い)を持たず単独で暴れ回る【無限剣聖】レオナ。


 俺が憧れ好きになったキャラが、そこにはいた。


「それで、なぜ私を態々連れてきた?子供の面倒は見られんぞ」

「分かってるわかってる。お前は圧を感じて私以上に怖いからな。私達が昨日話していたノアを見せてやろうと思って」

「ノアくん。彼女は魔王軍幹部であり“六柱”の1人、レオナです。見た目も口調も硬い人ですが、優しい人なので安心してくださいね。あれ、六柱って知ってましたっけ?」

「知ってるよ。魔王国の最高幹部で、六人いるから六柱。今は戦争中だから、軍の力が強くて全員軍人なんでしょ?」

「........よく知ってますね。やはりノアくんは謎が多い子です」


 ちなみに、魔王国が平和だった時代では軍人の他にも内政を行う人が最高幹部になっていたりする。


 魔王国は良くも悪くも魔王が絶対的な権力を握っているため、権力争いなども起きることも無く、幹部の座も割と好き勝手に魔王が変えたりするのだ。


 最高幹部の大変さを知ってもらうために、サブストーリーで“最高幹部を体験してみよう!!”とかいう企画を出し、一日だけ幹部を変えるとかやってたしな。


 その最高権力を持つ魔王様、今子供達に混ざって遊んでいるけど。


 そんなことはどうでもいい。あのロリ魔王の事よりも、今は目の前にいるレオナに集中するのだ。


 俺の推しキャラ。最後は悲惨な最後を迎えるが、今こうして俺の前に立っている。


 それだけでも感動モノだと言うのに、俺と話してくれる?


 最高じゃないか!!


 推しキャラが自分と会話してくれる。ファンにとって、こんなにも嬉しい日はない。


 俺は、レオナの第一声がどんな言葉なのかワクワクしながら彼女を見つめるのであった。

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