崩壊の序章
※時間軸はノアが魔王軍幹部と出会う数日前ぐらい。
ノアがリバース王国から村を守っていた頃。勇者であるアランは王都へと無事に辿り着き国王との謁見を済ませた後、早速学園へ入学した。
道中で盗賊に襲われていた馬車を助けていたこともあり、アランの入学は少し遅れてしまったがこれはメインストーリーでも同じ展開である。
この世界で生まれ落ちたアランは、人殺しに対して然程抵抗感を持っていなかった。
王への謁見では、特に問題事もなし。しかし、ノアに様々なことを言われていたアランは何となく察してしまった。
この王はダメだと。
アランの前では優しく威厳のある姿をしていたが、その目の奥ではアランを道具として使い潰す気満々の魂胆が見て取れる。
メインストーリーではアランは他人に興味を殆ど持たず、王のその目に気づけなかったが、今回は違う。
王が勇者を見定めるのではなく、勇者が王を見定めるのだ。
そして、勇者の目には王たる器の存在では無いとハッキリと写し出されていた。
「─────と、言うわけで今日から勇者様のアランがクラスメイトとなる。皆、仲良くするように」
「アランです。よろしくお願いします」
親友に言われた通り、できる限り穏やかに、にこやかに挨拶をするアラン。
クラスメイトとなる少年少女達は、そのあまりにも眩しすぎるイケメンな顔に少しだけザワつく。
特に少女達からの受けは抜群で、中には既に一目惚れしている子までいた。
この場にノアがいたとしたら、“これが主人公。意図せずハーレム作れるんだなー”と感心していた事だろう。
アランの席は1番後ろの席と決められ、教師が出ていく。
その後、アランは転校生が学校に来たかの如く質問攻めにされていた。
「勇者ってすげーんだろ?なんかやって見てくれよ!!」
「名前はアランというのですね。私はシュバルツ公爵家の娘、ヒストリアですわ。以後お見知り置きを」
「俺はガンツ!!よろしくな!!」
「あ、えぇとよろしく」
メインストーリーでは、アランの自己紹介が“ふん。アランだ”だけだったらうえに仏頂面だったのでこんなにも人が集まることは無かった。
が、今のアランはノアによって性格が大きく変えられてしまっている。
アランは、たった一言でクラスメイト達から好かれる存在となったのだ。
ガ、あまりにもグイグイと来られる為にアランも対応に困る。
“こんな時ノアが居てくれれば”そんな考えが脳裏をよぎるが、アランは今1人なのだ。
ノアとの思い出が詰まったブレスレットを強く握りしめながら、アランはできる限りの質問に答え続ける。
「おい、そこら辺にしておけよ。アランくんが困ってるだろ?」
と、ここでアランに救いの手が差し伸べられる。
アランの隣で傍観していた少年。彼は、その手に持っていた本を閉じると、アランの前に立つ。
「なんだよエルベス。別にいいだろ?」
「質問するなとは言ってない。アランくんを困らせる量で質問をするなと言ってるんだ。アランくんだって一気に10個も20個も質問されても対応できないのは分かっているだろう?」
「それがどうした?こいつは平民だろ。俺たち貴族様の言うことにはハイハイ答えればいいんだよ」
少年少女の中からそんな声が上がる。そして、彼らの視線は後ろに向けられた。
アランもその声の主に目を向けると、でっぷりと太ったオークのような少年がズカズカと前へやってくる。
更には取り巻きが何人も。物語ではありがちな、典型的な“やられ役”であった。
(ノアが言ってたっけ。皆が皆、村の人達のようにいい人たちじゃないって)
明らかにアランを見下す目線。一体その脂肪で何が出来るというのか。
アランは“ノアは間違ったことを言わないな”と思いつつ、事の行く末を見届ける。
メインストーリーでは、あまりにも素っ気ない態度を取るアランにエルベスは興味を示さない。だが、この世界では少なくともアランの前に立って堂々と彼を守っていた。
「その発言は頂けないな。デッブ。ここの学生たちの身分は皆平等だ。たとえ王族であろうとね」
「はん!!そんなの建前に決まってるだろ?皆その身分にあった態度と行動をしているのさ!!こいつは平民、俺達は貴族。貴族が平民に気を使って意味があるのか?」
「その点で言えば僕と君は対等だね。同じ公爵家だし。そして僕も彼に命令する権利があると?」
「そうだ」
「なら、アランくん。僕の手下になってよ」
「「........は?」」
誰もがその場で固まる。だが、頭の回転が早いアランだけはエルベスの言いたい事を理解して即座に首を縦に振った。
彼が善意で言っているのはわかっている。少なくとも、この目の前の肥えた豚の配下になるよりはマシだろう。
「分かった。君の手下になろう」
「わぁ、それは嬉しいな。で、デッブ。お前は僕の手下に命令するのか?それはつまり、僕の庇護下にある者に命令をするという事になる。当然、僕には彼を守る義務があるわけだね。それが貴族だから。僕とやり合うかい?入学して早々僕に負けた君が?」
「........クッ、クソ!!行くぞ!!」
エルベスとデッブは、同じ公爵家と呼ばれる王家の次に偉い家系の貴族。
そして、アランに命令をする場合彼を庇護するエルベスが出てくる。デッブとエルベスは家柄だけは同格。
つまり、デッブはエルベスの庇護下にあるアランに絡むとエルベスとやり合う羽目になるのである。
もしも格を決めたいのであれば決闘をするしかないが、エルベスは幼い頃から貴族としての在り方を叩き込まれ、アランほどでは無いが同年代の子供の中では強い。
一度戦闘の授業でボコボコに負けているデッブからすれば、唾を履いて尻尾を巻くしか無かった。
「ほら、みんなも散った散った!!もう授業が始まるぞ!!」
エルベスの一言で正気に戻ったクラスメイト達は、各々の席に戻る。
そして、席に座ったエルベスにアランは話しかけた。
「助かったよ。ありがとう。君がいなかった、困ってるところだった」
「なに、気にするな。平民を守るのは貴族の役目さ。とは言っても、いずれは僕がアランくんに守られる側の立場になるだろうけどね」
「あはは........」
アランは勇者。いずれ魔王国との戦争で最前線に立つだろう。
その時アランが背中に背負うのは、リバース王国の人々だ。その中にはもちろん、エルベスのような貴族達も多くいる。
「自己紹介がまだだったな。僕はエルベス・レジスト。レジスト公爵家の三男だ。よろしく」
「さっきも紹介されたけど、僕はアラン。ただの勇者さ。よろしくお願いするよ。エルベス様」
「ハハハ。この学園じゃ生徒は皆平等だよ。“様”なんていらないさ」
「でも、僕は一応エルベス様の手下だよ?」
「分かってるくせによく言うよ。あの状況で何が正解なのか一瞬で理解出来るあたり、この学園でやっていけそうで何よりだ。気をつけるといい。この国の貴族は僕のようなやつの方が稀だ。みな、平民はそこら辺の道具と勘違いしている。暫くは僕の傍から離れるなよ?でないと、嫌がらせを受けるだろうからね」
「助かるよ。エルベスは優しいんだね」
「まぁな!!」
こうして、本来ならばデッブと決闘までした挙句嫌がらせまでされるようになるはずだったイベントは、関わるはずのないエルベスと友人になるという結果で幕を閉じる。
そして、彼との出会いはリバース王国の運命を大きく変える第1歩となるのだった。
それから数ヶ月後、アランの元に一通の手紙が届く。
それは、“故郷の村が魔王軍に襲撃され村人全員が攫われた”と言う報告であった。
コレにて第一章はお終いです。沢山のコメント、応援ありがとうございます。本来ならば、ここからは一日一投稿するつもりでしたが、ストックがまだまだあるので第二章が終わるまでは二話投稿したいと思います。
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