いざ、魔王国へ
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彼女こそがこのヘルオブエデンのラスボスであり、アラン達との戦いの最後を締めくくる魔王。
公式ファンブックにもその情報があまりなく、種族や年齢は不明の存在。
それが、彼女であった。
ぶっちゃけそれはどうでもいい。問題は、なぜ彼女が今ここに居るのかだ。
魔王は設定上、魔王国から離れられない。
魔王国はこの大陸の中心部に存在し、様々な国と戦争状態にある。
そして、国を守るために魔王はとある結界を作動させているのだ。霧が濃く、入念な準備をしなければ迷ってしまう結界を。
これはおそらく、勇者が主人公のRPGゲームをやったことがある人達が1度は思った“魔王って勇者が生まれた瞬間に殺せば勝ちじゃね?”というクソつまらないマジレスを回避するために作られた設定だと思っている。
まぁ、実際俺も某有名ドラゴンなRPGをやった時に思ったしね。
そんな訳で、魔王はメインストーリーの中でも最後の方しかアランと関わりを持たない訳だが........今は違う。
アレは本物の魔王だ。なぜ設定上は出て来れないはずの魔王が、こんなところにいる?
その疑問は、ガルエルが解消してくれた。
「おい、魔王様。アンタ勝手に国を出てきてよかったのか?守りがやべぇだろ」
「くははは!!問題ない!!必要な魔力は皆に補ってもらっているのでな!!とは言えど、長時間外にはおれんが。ちなみに、あと15分が限界だぞ」
「バカかアンタは........いや馬鹿だろ。後で絶対怒られるぞ。爺さんや防衛隊の隊長達に」
「怒られるでしょうね。何やってるんですか魔王様 」
「いや、妾もたまには外の世界を散歩したいじゃないか!!30分だけしか外に出られないとしても、出たいでは無いか!!妾、このまま行くと引きこもりぞ?魔王国から1歩も出られな引きこもりになるぞ?“お外怖い”とか言う魔王をお主らも見たくはなかろう!!」
「引きこもりの規模がデケェよ。その理論で行けば、ウチの国の大部分は引きこもりじゃねぇか」
魔力を他者に負担させ、国をでてきただと?
確かにそう言う魔法の使い方もある。リバース王国の都市では、多くに人が魔力を出し合って守りの結界を築いていると言う設定があるから。
なるほど、人間が使えて魔王国が使えないという道理は無い。
時間も30分と短いようだし、その間は兵も動かせないとなれば最低限のバランスは取れているだろう。
これが設定の裏事情なのか、現実の世界となってしまったが故の改変なのかは分からないが少なくとも魔王がアランを即殺しに行くのは無理そうだ。
王都の結界はかなり頑丈で、その中では転移系魔法や飛行系魔法が使えない。
空も飛べず、テレポートも無理。更には滅茶苦茶頑丈な結界を壊すには時間もかかる。
となれば、活動時間が30分しかない魔王でも厳しいものがある。
良かった。アランを殺されることは無さそうだ。
ガルエル達と話し終えたのか、魔王はこちらに視線を戻すとニッと笑って問いかける。
それは、悪魔の問いかけにも近く今の村人からすれば絶望の言葉にも聞こえたかもしれ無い。
ただ1人、俺を除いて。
「さて、諸君。“今”結論を出してもらおう。可愛い子供達諸共リバース王国に殺され地獄へと落ちるか、妾達と共に魔王国へと行き普通に暮らすか。お主らは今、滅多にない幸運を目の前にしているということを理解することだな」
「「「「........」」」」
村人たちは答えない。
魔王国のことを知らないから。魔人族のことを知らないから。
魔王もそれは分かっているのだろう。彼女は小さく溜息を着くと、シスターマリアに抱きしめられる俺を指差した。
「母の胸の中で今にも泣きそうな勇敢な英雄のお陰で、今お主らが生きている。お主らはその英雄の決断に泥を塗るつもりか?彼に恩を感じているのであれば、選択肢は1つだろうに」
「........ま、魔王国に行けば本当に我々の命を保証して下されるのですか?」
「もちろんだとも。犯罪者とかならばともかく、善き人を無造作に殺すほど妾も愚かでは無いのでな。だが、働ける者は働いてもらうぞ。戦場に出ずとも、働き口は腐るほどあるのでな」
神父様はその言葉を聞いても尚、迷っていた。
無理もない。相手は敵国。口だけではなんとでも言えるが、実際のところは何も保証されていないのだから。
だが、彼はエデン神に使える聖職者。自分の責任からは逃げなかった。
「........分かった。行こう。ここで明日を迎えたとしても、我々の元に朝日が登らない時は近い。ならば、新天地を求めてみよう。今を生かしてくれた、ノア少年の為にも」
神父様はここで俺に判断を委ねることもできたはずだ。しかし、子供に重荷を背負わせたくはなかったのだろう。
最後は自分が決断をし、責任をもって皆を連れていく。
実に神父様らしい正義感である。だから俺はこの村の人達を嫌いになれないのだ。
まぁ、魔王国に裏切られたら皆死ぬから責任もクソもないんですけどね。
「くははは。良き判断だ。では、皆の衆を集めて来い。私が自ら魔王国へと招待してやるとしよう。その方が何かと手間が省けるしな」
「分かりました」
魔王の言葉によって動き始める大人達。
これで避難も完了したな。後はちゃんと約束が果たされれば、一先ずは俺の肩の荷も降りる。
そんなことを考えていると、魔王が俺の目の前に降りてきた。
シスターマリアの腕に力が入り、俺をさらに抱きしめる。
「くはは。そう警戒するな。子供たちの母よ。妾は少々、そこの面白い少年と話がしたいだけなのでな」
「........ノアくん」
「大丈夫だよシスターマリア。魔王様は優しい人だから。ちょっと馬鹿だけど」
「お??急に殴られたぞ?妾、まだ出会ってまもない子供に殴られたぞ?エリス、何か言ってやれ!!魔王たる妾が虐められておる!!」
「ノアくんは良く人のことを見てますね。そうなんですよ。魔王様、本当にやらないと行けない時が来ないとずっと馬鹿なんですよ。この前なんて子供達に混ざって鬼ごっこしてた癖に、負けたくないからって本気で逃げ回っていたんですよ?馬鹿というか、大人気ないですよね」
確かにそれは大人気ない。
というか、子供達に混じって鬼ごっこする魔王とか本当に魔王か?こいつ。
「おーい、エリス?お主まで妾を殴ってどうする?もっとこう、魔王たる威厳ある話をだな........」
「普段の行いの結果だ魔王様。魔王様の残念エピソードの方が武勇伝よりも多いんだよ。後酒癖とかも悪いし」
「ガルエル?!お主まで妾を殴りに来るとは酷すぎないか?!うわーん!!母よ!!みなが妾を虐めるぞ!!」
割とガチ泣きしながらシスターマリアの背中に隠れる魔王。
これには、普段何事があってもあまり動じないシスターマリアも困惑するしかない。
「あ、あの。魔王様?」
「グスッ........妾も頑張ってるもん。ちょっと失敗するぐらいいいでは無いか」
「えぇと........」
“どうしよう助けて”と言わんばかりにガルエル達を見るシスターマリア。
ガルエルとエリスは肩をすくめると、魔王様を素早く捕まえて頭を撫でてやっていた。
「ほーらよしよし。魔王様も頑張ってるもんな。大丈夫。普段が残念すぎるだけで、魔王様もやる時はやってくれるって知ってるからな」
「そうですよ魔王様。みな、魔王様のことを親しく思っているからこうして軽口を叩けるのですよ」
「本当か?“うわコイツまた泣いてるよめんどくせぇ”とか思ってないか?」
「思ってる」
「思ってますね」
「うわーん!!お主ら嫌いじゃぁ!!」
また泣き出しながら暴れる魔王様と、それを楽しそうに見ながら魔王様をあやすガルエル達。
魔王のくせに配下からかなり雑な扱いを受けていたのも、彼女が人気になれた理由なのかもしれないな。何せ、シリアスになると滅茶苦茶かっこよくなるから。
「........魔王様って大変なんですね」
「う、うん。そうだね?」
あまりに雑に扱われる魔王を見て、シスターマリアも少し同情してしまう。
ハッ!!実はこうして不憫さをアピールすることで、人の心を開こうとさせる魔王なりの人心掌握術なのでは?!
と馬鹿なことを考えながら、俺達は魔王国へと消えるのだった。
さて、最初の難関はクリアした。あとは、原作の知識を使いつつそのストーリーをぶっ壊し続けるだけだ。
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