リバース王国の裏切り
村に放たれた30体ものブラックウルフは無事に処理され、原作ストーリーではサラッと流された襲撃イベントが幕を閉じる。
僅か30分足らずの出来事ではあったが、体感かなり長い時間を感じたな。
集中力もかなり使ったし、疲労感が凄い。
何気にここまで長い間戦闘を続けた経験がないので、精神的に少々キツかった。
なるほど。ゲームと現実のいちばん大きな違いはコレか。
ゲームの中にもスタミナという概念はあったが、操作するプレイヤーが実際に体を動かして疲れることなどない。
あるとするならば、何時間もぶっ続けでゲームをやって疲れる事ぐらいだ。
しかし、殺し合いを演じるこの戦場の中では、精神的にも肉体的にも疲れる。
アランとのお遊びでは、命のやり取りが無かったしそこまで長い時間戦う事など無かった。
頭では理解しているつもりだったが、実際にやってみると想像以上にキツイな。
このゲームと現実の差を、なんとしてでも埋める手段を探すか経験を積んで慣れるしか無さそうだ。
「で、コイツがその襲撃者か。たった一人で来るあたり、この村に勇者以外の脅威は無いと理解しているんだろうな」
「少なくとも、私達が知っている顔ではありませんね。ですが、その装備に刻まれた紋章は間違いなくリバース王国王家の紋章。どうやら、一番最悪の予想が当たっていたようです」
疲れた体に鞭を打ち、山の中を昇ってきた俺達は捕らえた襲撃者の元へとやってきた。
スケルトンやスライムにリンチされているその様子を見たガルエル達は、若干引きつつも襲撃者を縛り上げる。
そして、ボロボロのローブを取ると襲撃者が誰であったのかその正体が分かった。
リバース王国王家の紋章である金の鷲が刻まれたその防具。コイツは王家直属の軍人であり、おそらく暗部の者だ。
メインストーリーでもちょくちょく出てくる王家直属の暗部。コイツらは、王家の命令であればどんな事でもやる言わば王家の犬であり、メインストーリーでコイツらが出てくると大抵ロクな事がない。
「っく........まさか、魔王軍の手先が入り込んでいたとは........」
「どんな命令だった?誰に命令された?」
「フハハ、俺が言うと思うか?あばよ魔王軍のクズ共」
ガルエルがそう聞くと、襲撃者は自分の舌を噛み切って自殺を図る。
情報を抜かれる前に、自ら命を絶って情報を与えないようにしたかったのだろう。
だがしかし、ここにはエリスが居る。
“魔王よりやってる事が魔王”とまで言われる彼女のスキルが、自殺を許すはずもない。
舌を噛み切る直前、襲撃者の身体がピタッと止まる。
「
“
対象を完全に操るスキルであり、スキルに掛かった者は問答無用でエリスの手駒となる。
あまりに強力すぎるため発動条件が定められており、発動条件は対象の体力が半分以下である事。
俺が殺さないように気を配りながら襲撃者を痛めつけたこともあって、既に条件を達成している。
つまり、彼に選択の余地は無かったのだ。
虚ろな瞳がこちらを見つめ、襲撃者はエリスの従順なるしもべとなる。
「命令の内容と、誰に命令されたかを言いなさい」
「........はい。“勇者が生まれた村を魔王軍が襲撃したかのように装いつつ、村を襲え”と言う命令が、王家から下されました。おそらくは国王陛下かその取り巻きの貴族からの指示かと」
襲撃者からの言葉を聞いて、俺はやはり考察スレは正しかったのかと目を閉じる。
可能性は高かったしそれ前提で動いていたが、こうして実際に本人の口から語られると怒りが湧いてくる。
アランを闇落ちさせる為だけに、態々ニーナやシスターマリアを殺そうとしただと?
ふざけるのも大概にしろよクソ国家。さっさと魔王国に滅ぼされてしまえ。
「胸糞悪い話だな。つまり、私たちが襲撃したかのように装って、勇者に魔王軍への恨みを持たせようとしたって事だろう?その為に子供にすら手をかけようとするとは、相変わらずリバース王国は屑だな」
「とくに貴族や王家は救いようが無いですね。己が民をなんだと思っているのでしょうか。魔王国で同じようなことを誰かがやったら、魔王様が本気で怒りますよ」
「そりゃもうカンカンに怒るだろうさ。さて、こいつを連れて行って村の人々に説明させよう。王家直属の軍人が自らの口で真実を語れば、彼らは自分たちが王国から裏切られた事がよく分かるはずだ」
「そうすれば、スムーズに魔王国に案内出来るかもしれないですね。移動の手段も一応確保してありますし、早めに行動しましょう。ノアくん、大丈夫ですか?」
怒りに満ちた俺を見て、心配してくれるエリス。
俺は大きく息を吸って呼吸を整えると、首を縦に振った。
「もう大丈夫。リバース王国が、ここまで民のことを考えないクソッタレだとは思わなかっただけだよ」
「くはは。子供にすらクソッタレと言われる時点で、この国は終わってるな。民を守るべき王家が、民を殺そうと動いたんだ。安心しろノア。リバース王国のその傲慢な考えは、いつの日かその身に降り注ぐ。断頭台の上に登る日を、心待ちにしておけ........いや、子供に人が死ぬ様を見せるのはダメだな」
「何言ってるんですか。ガルエルさん。ダメに決まってますよ........あれ?でも私達、この襲撃者を捕まえるためにノアくんに戦わせてますよね?」
「あ、それもそうだったな。ならセーフか?」
「いや、どちらにしろアウトですよ」
んな事どっちでもいいよ。
こんな所でもいつも通り会話をするガルエルとエリスを見て、俺は少しだけ笑う。
やはり、画面越して見ていた彼女たちは変わってない。
「あはは」
「お、あの笑わないノアが笑ったぞ」
「ノアくんもこうして見ると一人の少年ですね。可愛い笑顔ですよ」
こうして、襲撃イベントは村の家が壊れる被害こそあったものの誰1人として死ぬことなく、終わりを迎えるのだった。
さて、次は村人たちの説得か。
........シスターマリアに滅茶苦茶怒られそうだよなぁ。
【
エリスの持つスキル。触れた対象のHPが半分以下の場合、相手の自由を奪い操ることが出来る。魔力抵抗と呼ばれるステータスが高かったり、レベル差が大きいと防がれてしまう事もあるが、一般人が相手であればほぼ100%操れる。
モンスターにもこの力を使うことは可能。運が良ければ、ドラゴンなんかも支配下に置けるだろう。
ノアのいる村から遠く離れたとある空の上。
そこには、背中から羽を生やした小さな子供が手を望遠鏡のようにして村の様子を見ていた。
「くははははははっ!!やはりリバース王国はクソだな。勇者を戦闘用兵器に仕立て上げるために生まれ故郷を襲わせるとは。人の心とかないのかのぉ?」
少女はそう言うと、ニッと笑う。
その笑顔は、何も知らない人から見れば、とても可愛らしく魅力的に映るだろう。
だが、彼女を知るものは戦慄する。
彼女の口だけが笑っている時は、本気でキレている時だ。
「あの豚共が、妾が直接乗り込んで全てを壊してやろうか?いや、それをすると魔王国の意識が無駄になる。それに、あまり暴れすぎると奴らに目をつけられるからなぁ........結界もあるし。全く、面倒な立ち位置よ。それにしても、面白い男を見つけたな。報告では聞いていたが、実際に見るとなお面白い。是非とも我が魔王国に来てもらわねばな。妾の勘が言っている。あの少年は、この世界を変えてくれるだろうと」
そう呟いた少女は、指をパチンと鳴らすとその場から消えるのだった。
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