襲撃イベント 3


 リバース王国に仕えるテイマー“ザレド”は、今回の仕事が想像以上に苦戦していることに毒を吐いた。


「クソッ!!なんでこんな事に!!」


 この国の希望となる勇者の故郷を襲い、魔王軍が襲撃したかのように見せかける。


 誰がどう聞いても顔を歪めるような仕事の内容だ。


 当然、王宮に使えるザレドも心の中では“そんな事やる必要があるのか?”と思っていた。


 が、しかし、彼はリバース王国に仕える軍人であり、何かと対応が不遇なテイマーという職業を持ちながらも順当に評価を貰った身。


 王家に反抗すれば自分の首は物理的に飛ぶだろうし、家族も王都に居るから逃げられない。


 結局の所、彼に拒否権など無かった。


 そして、彼は勇者の生れ故郷である村へと向かい、簡単な偵察を終えると山の中にブラックウルフ達を放つ。


 あとは夜を待ち、夜闇に紛れて村を破壊するだけのはずであった。


 それなのに─────


「なんでこんなにスケルトンとスライムが居るんだ?!しかも、上から剣が降り注いできてやがる!!」


 ザレドは周囲から迫ってくるスケルトンに剣を振るいつつ、何とかしてモンスター達の包囲網を抜けようとする。


 しかし、それを許す程相手も甘くない。


 相手はネタキャラとは言えど、召喚速度とその数だけは作中最強クラスなのだ。


 絶え間無く現れ続けるスケルトン達に行手を阻まれ、更には上から剣が降ってくる。


 流石にここまでされればザレドも相手が召喚術士だとは分かっていたが、人数も場所も分からないのであれば手の打ちようがない。


「っつ!!痛えな........!!」


 降り注ぐ剣の雨が、ザレドの体力をジワジワと削っていく。


 あまりにも陰湿な攻撃に痺れを切らしたザレドは、着ていた鎧を傘のように頭上に持ってくると、残る力を振り絞って突破を試みた。


「どけ!!邪魔すんじゃねぇよ!!」


 片手が塞がってしまっているが、所詮相手は雑魚のモンスター。


 軍で訓練を受けてきたザレドにとっては恐るるに足らない........訳が無い。


 数とは力だ。どれほど弱いモンスターであろうが、最低限の力を持っている場合は数が正義となる。


「ゴホッ!!ぶっ!!ガッ!!」


 スケルトン達はザレドを止めようと拳をふるい、避けきれなかった拳がザレドの体にめり込む。


 大したダメージは無い。だが、何度も何度殴られ続ければ徐々に痛みを伴い始まる。


 雨粒が長年降り注ぎ石に穴を開けるように、体への痛みは蓄積し続ける。


「........っもう無理だ。突破できねぇ」


 そして、痛みと終わりの見えない戦いに絶望し、心が折れる。


 彼はそれでも何とか生き残ろうと鎧を被って丸まると、スライムやスケルトン達の攻撃をその身に受け続けるのであった。




【サモン:スライム】

 スライムと呼ばれるモンスターを召喚する魔法。粘液の塊であるスライムは、斬撃に弱く打撃に強い為、打撃系の敵に対してタンク役で出されることが多い。とは言っても、所詮は序盤の雑魚モンスターなのである程度レベルが高い相手になると、瞬殺されるが。




 襲撃者を逃がすまいと召喚魔法で戦っていると、ぞわりと背中が寒くなる。


 ふと後ろを振り返るが、そこには護衛用に出していたスライムとスケルトンが居るだけ。


 この寒気は嫌な予感がする。


 具体的には、シスターマリア辺りに怒られそうな気がする。


 村の大人達に一切相談せず、勝手に魔王軍を村の中に引き込んだ挙句この襲撃中に勝手に抜け出して単独行動。


 子供が危険なことをするのを最も嫌うシスターマリアの事だ。まず間違いなく怒っているに決まっている。


「ニーナ辺りが上手く誤魔化してくれねぇかなぁ........」


 俺は、むしろニーナもこれを機にシスターマリアにチクってそうだと思いつつ、今は目の前の敵に集中する。


 最初は威勢の良かった襲撃者も、無限に湧いて出てくるモンスター達や降り注ぐ剣の雨に撃たれて既に満身創痍。


 今となっては、降り注ぐ剣を何とかして耐えようと来ていた防具を傘のようにしていた。


 でも、それだとスライムやスケルトンの攻撃をもろに喰らうよね。ダメだよ。装備を外すのは“死”に直結するのだ。


 最弱と名高いスライムやスケルトンだが、体当をすれば痛いし拳を握って殴る事だってできる。


 俺は雨を振らせながらモンスター達に指示を出すと、襲撃者を大量のモンスターでリンチさせる。


「っうぐ!!ごふっ、あふっ!!」


 滅茶苦茶卑怯な戦法だが、これが召喚術士の戦い方。


 ゲームでは“強えな”としか思ってなかったが、かなり卑怯で強い戦い方だな。


 召喚術士が召喚したモンスターは、術者を倒すか術者の意志によってしか消えることは無い。


 そして、安全な距離から一方的に攻撃を仕掛け続けられる術者を補足し倒すことは容易ではない。


 ゲームでもそうだったが、これこそがノアの強みだ。相手の攻撃が届かないところから、一方的な物量でなぎ倒す。


 降り注ぐ剣と迫り来るモンスターにボコボコにされた襲撃者は、遂に抵抗をやめて蹲り始めた。


 が、ここで追撃をやめてはならない。


 俺は火力面では最弱なのだ。とにかくスケルトンやスライムに殴らせてダメージを稼ぎつつ、相手を動かさないようにしなければ隙を突いて逃げられる。


「一方的だったな........村を守る必要がなかったってのもあるが、やっぱりこの戦い方は強えよ」


 唯一命の危険を感じたのは、ブラックウルフからの奇襲。


 しかし、それも乱数の女神様のご加護によって避けることが出来た。


 55%恐るべし。このスキルがなかったら今頃俺は頭から血を流すか、ブラックウルフにバリバリと食われてあの世行きだったぜ。


「今度お供え物しておこう。乱数の女神様って何が好きなんだろな........」


 俺はそう呟きながら村の中で騒がしくなっている方に視線を向ける。


 そこでは、魔王軍の最高幹部であるガルエルとエリスがブラックウルフ相手に大暴れしていた。


 序盤の難関として多くのプレイヤーを屠ってきたあのブラックウルフが、そこら辺の紙屑同然の様に殺されている。


 巨大な剣を振るえば一撃でブラックウルフの体が引き裂かれ、いつの間にかメイド服に戻っているエリスが歩けばブラックウルフがサイコロステーキに早変わり。


 最早、ブラックウルフの方が逃げる側に回り始めているが、それを逃がしてやるほど2人は甘くない。


 ブラックウルフはあっという間に殲滅され、襲撃イベントは始まってから30分で全てのカタがついてしまった。


「凄いな。アランはあんな奴らと戦おうとしてるんだぞ?馬鹿げてやがる」


 俺は1人そう呟くと、2人に向かって大きく手を振る。


 ガルエルとエリスは俺に気づくと、ひとっ飛びで俺の場所まで飛んできた。


 一応、そこそこ高い家の屋根の上なんですけどね。流石はファンタジー。屋根の上に登るぐらいは訳無いという事か。


「無事だったかノア。村人の保護及び、襲撃してきたブラックウルフは全て始末したぞ」

「私の探知にも引っかかって居ませんので、おそらく大丈夫かと。それで、ノアくんの方はどうでしたか?」

「今、山の中でブラックウルフをけしかけて来た奴を足止めしてる。殺しては無いから、情報が色々と得られると思うよ」

「やるじゃないか。流石はにぃにだな」


 ガルエルはそう言うと、ニッと笑って優しく頭を撫でてくれる。


 少し血の匂いが混ざっている気がするが、俺は気の所為だなと無理やり自分を誤魔化した。


 ところで、なんでニーナの呼び方で呼ぶんだよ。


「ニーナに会ったのか?」

「おう。私を恐れない変わった子だったぞ。可愛かったけど。あー、あとノア。悪いけど後で怒られてくれ」

「シスターマリアさんがものすごく怒ってました。それはもう黒いオーラを纏って。なにかのスキルなんですかね?」

「いや、幻覚だよ........」


 俺はちょっと帰りたくねぇと思いつつ、ガルエル達と一緒に捕まえた襲撃者の元へと行くのだった。


 さて、この襲撃イベントも終わらせるとしようか。

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