黒幕発見
ガルエルとエリスを上手く引き込んでから一ヶ月以上が経過した。
アランがこの村を離れてから早半年以上。
未だこの街は平和であるが、この仮初の平和がいつまで続くかは分からない。
「にぃに?大丈夫?」
「どうしたニーナ。本を読んでいる時だけは大人しくて静かだと言うのに、今日は珍しいな」
アランが居ない日常にも慣れ、また甘えてくるニーナに本を読んであげているとニーナは心配そうにこちらを見つめる。
俺の中で、ニーナはまず間違いなく原作ストーリーで魔王軍側陣営として出てきた“人間を恨む少女”と確定していた。
ニーナの職業は“暗殺者”。
同じ種族、名前で、同じ職業と言うだけなのでもしかしたら違うかもしれないが、成長するにつれて徐々に原作ストーリーに出てきた“ニーナ”に似てきている。
髪の色が違うが、この世界では髪の色を染めるアイテムだってある。
何らかの理由で髪色を黒にすることぐらいは、簡単に想像ができた。
「エリスって人がこの村に来てから、にぃには常に何かを警戒してる。アランが居なくなってから村の周囲を警戒していたのは知ってるけど、ココ最近はそれに輪をかけて酷い」
相変わらず6歳児とは思えない観察眼と言葉遣いだ。
ニーナと同年代の子供達は、この村に見習いシスターとしてやってきたエリスに遊んで欲しくてワイワイしていると言うのに。
この村が襲われる想定でこの村に来たエリスは、どこから持ってきたのかシスター服を身にまとい、堂々とこの村の正面から潜入してこの村で暮らしている。
恐らくアランについての情報収集も兼ねているのだろう。神父様に上手く取り入ると、先ずは孤児院の子供たちとの仲を深めていた。
心優しきこの村の人々は人間であるエリスの正体が魔王国最高幹部だとは欠片も疑わず、子供たちに好かれるエリスを見て心を開いている。
“子供は純粋なので仲良くなりやすいです。そして、子供達を堕とせば自然と大人達も堕ちます”と本人は笑いながら言っていた。
エリスは原作ストーリーでも情報収集をする為に、様々な人と仲良くなっては情報を集める。
ひょんな事からその正体がバレ、アランと戦うこととなるのだが、密偵が本職の彼女からすればこの村の人々はいいカモなのだろう。
この村に来て一ヶ月もすれば、当たり前のようにこの村の一員として馴染んでいた。
が、未だに襲撃が来ない。
あと一ヶ月もすれば、エリスとガルエルは帰還。代わりの者が来てくれるらしいが、その引継ぎの間に襲撃されてしまえば俺一人で全てを守る必要が出てくる。
見えない不確定要素に、俺は僅かながも焦りを感じていた。
「ニーナはよく見てるな。でも、それは気の所為さ。俺はいつも通りだよ」
「それは嘘。シスターマリアも心配してる。にぃにが聞いて欲しくなさそうだから聞かないけど、無理なら私やシスターマリアを頼るべき」
「あはは。まだ6歳児のニーナが手伝うことは無いさ。あるとすれば、俺の膝の上から降りて欲しい。そろそろ痺れてきた」
「む........仕方がないね」
ニーナはそう言うと、俺の膝の上から降りて本を畳む。
ちなみに、今回読んでいた本は“思想の在り方と歴史の動き”とかいう小難しい本であった。
本当に理解してる?お兄ちゃん、ニーナが将来どんな大人になるのか凄く心配だよ。
俺の膝から降りたニーナは、チラリを俺を見ると何も言わずにトテトテと歩いて部屋の外に出ていく。
あの顔は、“聞きたいけど聞かない”そう思っているに違いない。
「6歳児にしては優秀すぎる。そして、俺の思っている通り原作に出てくるニーナなら、恐らく襲撃の生き残りなんだろうな。で、真実を知ったから人間を恨んだ。有りそうな話だ」
原作ストーリーに出てくるニーナが人を恨むようになったのは、襲撃者達がリバース王国の人間だと知ったから。
どうやって生き残ったのか、どのようにして魔王軍に入ったのかの経緯は分からないが、恐らく原作のニーナはこの村の出身なのだろう。
俺の仮説が合っていれば、今回の襲撃者がリバース王国の犬である可能性はさらに高くなる。
お兄ちゃん思いのニーナに感謝し、この襲撃イベントが無事に終わればニーナをいっぱい可愛がってやろうと思いつつ、俺は自分の考えをつぶやく。
俺は口に出すことで、考えが纏まるのだ。
「村を丸々ひとつ崩壊させれるだけの力があると考えると、職業は召喚術士かテイマーだろうな。アランのセリフに“モンスターが壊したような跡”と書いてあった記憶があるし、人がモンスターを使える職業は基本その二つだけだ」
そして、モンスターを使う職業ということは、襲撃者はそう何十人も居ないだろう。
モンスターを召喚する召喚術士も、野生のモンスターを使役するテイマーも1人で割となんでも出来るオールラウンダーな職業だ。
特に、相手の数が多い場合に数を用意出来るという点から4人パーティーが固定のこのゲームでは、かなり貴重な戦力となる。
レベルがそれなりに高い召喚術士やテイマーがこの村を襲うのであれば、多くとも5~6人。少なければ1~2の襲撃になるだろう。
「流石にドラゴンレベルのモンスターが出てくるとは思えないが、ゲーム中盤に出てくるモンスターが押し寄せてくる可能性は考えないとな」
そう呟いたその時、山の中を監視するために高速で視界を切りかえていた俺の目に、不審な影が1つ。
ガルエルのような巨大な影ではない。
あからさまに“僕黒幕ですよ”と言わんばかりの黒いローブを身にまとい、フードを被った小さな影が素早く山の中を移動していた。
俺は、即座に監視していた動物たちに指示を出して見失わないように追跡をさせる。
装備は........クソッ、ローブの中に装備しているのか、何を着ているか分からんな。
「だが、まず間違いなく奴が犯人だ。エリスに伝えないと」
俺は山の中で蠢く影を監視しつつ、エリスを探す。
万が一村の中から襲撃を仕掛けられても対応できるように、俺はこっそり村の中にも動物を放っていた。
アランがいたら無理だっただろうな。アイツ、まず間違いなく俺の召喚物に気づくだろうし、シスターマリアにチクリそうだし。
俺はアランは今頃学園生活かと思いつつ、エリスを見つけると動物を動かして敵が来たことを伝える。
タイミングが良かったのか、エリスは1人で村の中を歩いていた。
「........襲撃ですか?」
「ピー、ピピッ!!」
「襲撃者らしき者を確認という訳ですね」
「ピー!!」
「了解しました。私も警戒態勢に入ります。もし、来るなら皆が寝静まった夜に襲撃を仕掛けてくるでしょう。ノアくんもそれを念頭に置いておいてください」
「ピッ!!」
ゲームでは出来なかった、召喚物での会話。
動物が人の言葉を話せる訳では無いので、鳴き方と回数で予め決めていた内容を伝えるのが精一杯だが、それでもかなり使える。
使い方次第では、戦争の在り方を大きく変えそうだな。
戦争の勝敗が指示や情報の鮮度で決まることも珍しくはない。
そんな中で、ほぼノータイムで指示を伝えられるこの方法はかなり便利なのかもしれん。
一応、遠くの人と話せるアイテムとかもあるのだが、アレ設定では滅茶苦茶コストがかかるらしいからなぁ。
「さて、この村を襲撃し、アランを闇堕ちさせようとするやつの顔を拝みに行きますか。ごめんなさいシスターマリア。乱数の女神様。俺はまた夜更かしをする悪い子になるけど、この村を守るためだから大目に見てくれよ?」
俺はそう言うと、今晩は寝れないだろうからという事で昼寝を少しとる事にするのだった。
更新遅れました。ごめんなさい。
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