勇者闇落ちルート回避作戦


 何とか魔王軍最高幹部の2人を説得(?)出来たことに安心つつ、俺は一旦村に帰ることになった。


 アランの様な俺の周りをずっと付けて回るストーカーが居なくなったお陰で、多少の自由は増えたがあまり村から離れすぎるとシスターマリア辺りにバレて怒られる。


 シスターマリアに怒られる事だけは本当に勘弁願いたいので、俺が村から出られるのはシスターマリアが仕事をしている時だけだ。


 そして翌日。最早日課となっている教会の掃除を終えた俺は、ニーナに口止めをさせてから再び山の中へと入っていった。


 いやー、ご機嫌ななめのニーナを諭すのは疲れるね。


 ニーナ、まだ6歳なのに滅茶苦茶賢くて鋭いから、誤魔化すのが大変であった。


 これは帰ってきてからいっぱい構ってやらないと、シスターマリアに告げ口される。


 全く、兄を脅す妹なんてロクなもんじゃない。


「お、来たなノア。おはよう。いや、もう昼過ぎだからこんにちはか?」

「基本、その日に初めてあった人には“おはよう”と言いますよ。ガルエルさん。おはようございますノアくん。昨日は寝れましたか?」

「ガルエルの顔を思い出したら怖くて寝れなかった」

「ぐふっ........そ、そうか。今度から仮面でも被るとしよう」

「あはは。冗談だよガルエル」


 軽い冗談を言ったら想像以上にダメージを受けてしまったガルエルを見て、ちょっと申し訳なく思いつつ俺はガルエル達が拠点にしている洞窟へと案内される。


 昨日この山に来たばかりの二人を監視していたが、特に何かを画策するようなことは無かった。


 やはり、村を襲ったのは魔王軍の者では無い第三者という可能性が高いだろう。


 もしかしたら、俺が監視していることを知って不自然な動きを見せてないだけかもしれないが。


「それでは、簡単な作戦会議でもしましょう。ノアくんの話によれば、この村は何者かによって襲われるそうです。村が襲われる想定で、話を進めましょう」


 洞窟の中に入ると、早速エリスが作戦会議を始める。


 しかし、エリスはあまりこちらを信頼していないようだ。


 それもそうだわな。俺たちが出会ったのは昨日が初めて。


 いくらお人好しと言われる魔王軍の連中でも、昨日の今日で出会ったばかりの人間を信頼出来る訳など無い。


 まぁ、ガルエルは俺が子供ということでほぼ無条件に信じているっぽいけどね。


 そこが彼女のいいところでもあり、悪い所でもある。


 原作ストーリーでは、その性格を付いてリバース王国が奴隷の少年兵を使っていたのだから。


「村が襲われるとして、それを助ける方法を考えなきゃならん。が、魔王領に来てもらうのが1番手っ取り早いか?魔王様は基本来る者拒まずだから、簡単に受け入れてくれると思うぞ」

「それは私も同じ考えですが、村の人々からすれば私達は敵です。皆が皆ノアくんのように無警戒で魔王軍の人と仲良くできるわけじゃありません。逆の立場になって考えてくださいガルエルさん。敵対している国の人が急に来て、“ウチの国に避難しましょう”と言って素直に従いますか?」

「従うわけが無いわな。むしろ、攫いに来たと思うのが自然だ」

「でしょうね。ですから、私達はまず村の人々の信頼を得なければなりません。が、信頼とはそう易々と築き上げられるものではありません。ですから、私達は恩を売るのです」


 おーい、一応その村の人間がここにいるんですけど。


 いや、俺も同じことを考えていたから突っ込まないが、もう少し言葉の選び方と言うのがあるだろう。


 それだけ俺が信頼されているのか?いや、エリスって確か少し抜けてるところもあるみたいな設定があったから、素なんだろうな。


 俺はそう思いつつも静かにエリスの話を聞き続けた。


「まず、事態が起こるまで私達は待機します。と言っても、そこまで長い間待機はできないので二ヶ月間にしましょう。それまでに襲撃がなければ、1度私達は返って引継ぎの者を寄越します。いいですね?ノアくん」

「むしろ、二ヶ月も滞在してくれることに驚きだよ。一日二日で帰ると思ってたから」

「魔王様には既に報告していますし、“ん?仕事は何とかしとくから、二ヶ月ぐらいはいいぞ!!休暇だと思って楽しんで来るがいい!!”と言われまして。一応、これも仕事なんですがね」


 流石はギャグキャラ達が集う魔王軍を纏める魔王様。ノリが軽い。


 最高幹部である二人を二ヶ月も放置できる辺り、戦線や経済は問題ないのだろう。


 この余裕こそが魔王軍の強さ。どんな時でも余裕を持つ。それは、意外と大切なことである。


 ........単純にノリで決めた可能性も否めないけど。


「で、襲撃が起きた場合は私達が正義のヒーローのように助けに入り、信頼をゲット。そして村の人々を説得して魔王国に連れていくというわけか。確かにそれなら、次の襲撃の可能性も考えなくていいから楽だな」

「そうですね。もし襲撃があったとして、その襲撃者が魔王軍でないとすると相手は恐らく身内です。ノアくんを前にして言うのアレですが、リバース王国が絡んでいるでしょう」

「だな。リバース王国は汚い手を平気で使ってくる。戦争ならば多少そういう事もあるが........奴らはやりすぎだ。魔王様もかなり怒っていたな」


 これで決定的だな。


 この村を襲ってアランに魔王軍への恨みを植え付けたのは、リバース王国の仕業だ。


 かなり説得力のある考察だったし支持する人も多かったが、公式からはっきりとした情報は出てなかったからな。


 俺は、ゲームの中では闇の中に包まれていた真実を知ることが出来て少し嬉しく思っていると、ガルエルが俺の頭を優しく撫でる。


 その手の温もりは、シスターマリアに頭を撫でられた時のような安心感があった。


「ま、私らが何とかしてやるからノアはこの山の中の監視を頑張ってくれ。襲撃があれば、私達が助けてやる」

「ありがとうガルエル」

「魔王様の指示ですからね。仕事はキッチリこなしますよ。安心してくださいノアくん。この村に居る人々、誰一人として殺させることなく守り通してあげます。敵国の村人を守るなんて、どうかしていますがね」

「ハッハッハ!!そりゃそうだな!!だが、ほとんどの人達にとってはこんなクソッタレた戦争なんざどうでもいいんだよ。メンツを気にすんのは上の連中だけ。下に生きるやつは、自分が生きられるかどうかだけを考える。が、戦場で死ぬのは下の連中だ。魔王国はそんな人々を救いたいのさ」


 本当に敵役として出てきたのが悲しいほどに優しい。


 魔王軍サイドではこう言うキャラばかりが出てくるから、人気投票ではTOP10のほぼ全てが魔王軍サイドのキャラで埋め尽くされるんだよ。


 ノアとシスターマリア以外、人間サイドでTOP10に入ってるやつ居ないしな。


 簡単な作戦会議も終わり、エリスはパンと一度手を叩く。


「さて、作戦会議はこの辺にしましょう。ガルエルさんは山の中で待機を。私は人間なのでノアくんと共に村に行きます。できる限り信頼を得てから助けた方が、魔王国へと連れていく説得も簡単ですしね」

「おう、頼んだぞエリス。私は山の中でも見回ってるわ。この見た目だから、村には入れねぇだろうしな」


 ガルエルはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって背筋を伸ばし体をほぐす。


 俺とエリスもそれに続き、立ち上がると各々やるべき事に向けて動き始めた。


「ノアくん。村で一番の権力を持つのは誰ですか?その人から信頼を得ていこうと思うのですが........」

「なら神父様だね。村長よりも発言力があるし、あの人魔人族に対して偏見がないよ。敬虔なるエデン教信者だから」

「それはいいことを聞きました。では、見習いシスターとして雇ってもらいましょうかね?」


 こうして、俺の“勇者闇堕ちルート回避作戦”は順調な滑り出して始まった。

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