人気投票八位と二位


 割となぁなぁでこの世界を生きてきた俺だったが、10歳になって明確な終着点を決めた。


 目指すは魔王軍とアランのハッピーエンド。


 このヘルオブエデンのメインストーリーのぶち壊しである。


 別に世界が平和になって欲しい訳では無いが、少なくとも俺が画面越しで見ていたお気に入りキャラクター達には死んで欲しくない。


 そして、この村の人々にも死んで欲しくはない。


 このクソみたいな国で、優しき心を持った人達を俺は気に入っているのだから。


 幸い、俺にはストーリーをぶち壊して好き勝手できるだけの力がある。


“理論上は最強のネタキャラ”とまで言われ、ユーザー達から愛されてきたノアの性能は伊達では無いのだ。


 そんな訳で、先ずはメインストーリーでサラッと殺されるこの村の人々及びシスターマリアを生かす事から始めようと考えた俺は、山の中に大量のネズミと鳥を放って監視を続けていた。


 寝る時はともかく、起きている時は常に召喚した動物達と視界を共有し山の中を見張る。


 この村は山に囲まれているのでその全てを監視し続けるのは難しいが、何度も何度も視界を切り替えて監視し続けるのだ。


 全ては魔王軍とアランのハッピーエンドの為。


 それが俺のハッピーエンドとなる。


「今日も異変は無さそうだな。襲撃があるとすれば、山の中からしか考えられない。真正面から突撃して来るようなバカを、魔王軍もリバース王国も使うとか考えにくいからな」


 監視を始めてから、すでに五ヶ月が経過している。


 サブストーリーの時系列から考えてそろそろ出てきてもいい頃だとは思うのだが、如何せん山の中は広すぎて全てを見ることが出来る訳では無いのだ。


 ゲームと違い、常に放った動物や魔物の視界を見られるわけじゃないのは、本当に不便だな。


 理解はしているが、ゲームと現実の違いは大きい。


 そんな事を思いつつ、視界を何度も何度も切りかえながら山の中を監視していたその時、この村の人では無い者の影が俺の視界に映った。


「来た!!やっぱりストーリー通りに動いてきたか!!」


 一人は高身長で竜の様な尻尾が生えた褐色肌の女。


 もう1人は、メイド服に身を包んだ人間と見た目の変わらない女の子である。


 俺はこの2人を知っている。そして、この2人を待っていた。


 彼女達は魔王軍の幹部であり、戦時中の魔王軍を指揮する六柱の一角。


 その男勝りな口調と面倒見のいい姉御肌から、人気投票では第二位を獲得した竜人の魔人族ガルエル。


 あまりの人気ぶりにDLCでは彼女専用のストーリーまで用意され、ユーザー達からは“お姉様”“男よりイケメンの姉御”と呼ばれている。


 そして、その隣にいるメイド服の女の子は人気投票第八位のエリス。


 その戦い方があまりにもえげつないので、ユーザーからは“真の魔王”“魔王より魔王らしい事をしてるやべーやつ”なんて言われている。


 サブストーリーで彼女たちがこの村を訪れる回があったのだが、ここに来てようやくやってきたか。


「ここからは賭けか。戦うつもりは無い。上手く交渉出来ればいいけど........」


 ゲームの中で彼女達は相当なお人好しである。争いも好まないし、本来ならば戦争もしたくないと口にするほど。


 出会って即殺されるなんてことは無いだろうが、問題は交渉事が上手く行くかどうか。


 それに、アランの性格が俺によって変わってしまったように、この世界の2人がゲームの中と同じ性格だとは限らない。


「乱数の女神様に祈るしかないか........あ、でもこっそり山の中に1人ではいるのは悪い事だよな。しまった、乱数の女神様に嫌われるかもしれんぞ。今度ゴミ拾いとかしておこう」


 俺は乱数の女神様に嫌われるのでは?と思いつつ、“いや、これは村の人々を守るためだからセーフ。きっと許してくれる”と勝手に都合よく頭の中で書き換えながら村をこっそりと出ていくのだった。




【魔人族】

 魔王国に多く住む人々の種族。人間から生まれるが、普通の人間に比べ、高い魔力と身体能力を有し寿命も長い。体内に魔石と呼ばれる魔力の塊が存在し、それを破壊されると死に至る。また、見た目も人とは少し異なることが多く獣の耳や竜の尻尾等を持っている。

 このような特徴がモンスターに似ている為、人間からは魔の子として恐れられ迫害されることも多い。




 魔王国の最高幹部“六柱”。


 彼らは魔王国に忠誠を誓い、魔王国の平和のために戦う戦士でもある。


 そんな六柱の内の2人は、“リバース王国で新たな勇者が生まれた”という情報を聞きつけてその生まれ故郷の偵察に来ていた。


「情報を手にしたのが遅すぎたな。勇者は既に王都へと旅立ったらしい。全く、とんだ無駄足だとは思わないか?」

「ガルエルさん。気を抜きすぎですよ。それに、勇者の故郷を調べるだけでも情報になります。人柄や性格、その力などは幼少期から現れますから、聞き込みをすれば多少は有益な情報が持って帰れるでしょう」

「かー、真面目だねぇ。ま、私はこの姿だから村には入れんし、そこら辺はエリスに任せるさ。もし襲われたりしたら叫べよ?私が助けてやる」

「ご心配には及びませんよ。仮にも魔王国の最高幹部である私が、騎士団長でもないそこら辺の人間に負けることはありませんから」


 魔王国最高幹部であるガルエルとエリス。


 彼女達は自分達の気配を殺しつつ、山の中から村を見下ろす。


 勇者が生まれた村は、遠目で見ている限りとても平和そうであった。


「和やかな村だな。どこの世界もこの村のように平和であったなら、このクソくだらない戦争も起きなかっただろうに」

「人は常に何かを欲するものです。過去には、神にすらなり変わろうとする罰当たりな人間だって居ましたしね。食料を確保出来れば次は寝床、寝床が確保出来れば次は快適さを、快適さを確保出来れば次は力を、力を得たのであれば次は権力を。それがこの世界に生きる者の“欲”ですよ」

「難しい話をすんな。頭が痛くなる。私はただ、子供が笑って暮らせる世界になって欲しいだけさ。それが夢物語だとも知っているがな」

「やはり、ガルエルさんは優しいですね。その夢物語の為に剣を振るうのですから」

「ケッ........」


 ガルエルは小さく舌打ちをすると、僅かに顔を赤らめながらそっぽを向く。


 その様子を見てエリスは心の中で“可愛い”と思っていると、山の中から視線を感じた。


 ガルエルもその視線に気づいたようで、素早く切り替えると視線の方向に目を向ける。


「誰か見てやがるな。バレたか?」

「明らかにこちらを意識していますね。しかし居場所が分からない。かなりの使い手ですよ」

「王国の監視者か?だとしたらここで始末しないと不味いな」

「その可能性は無いでしょう。視線は急に現れましたし、何より殺気を感じません。あくまでも私たちを“見ている”だけです」

「だからこそ面倒なんだろ?私たちを見ているだけの存在。厄介だ」


 撤退するかどうかを悩んでいると、さらに後ろから視線を感じる。


 その視線は先程よりも明らかにこちらを意識しており、殺気こそ感じないもののガルエル達を的確に捉えていた。


「........っ。迷子か?少年、大丈夫かい?」


 ガルエルが反射的にそちらに振り向くと、そこには10歳ぐらいの小さな少年が。


 少々長めの黒髪を縛りながら、お世辞にもきれいな服とは言えない服を身にまとった少年がそこには立っていた。


 ガルエルは思わず攻撃してしまいそうになってしまった自分を責めつつ、できる限り優しい笑顔を浮かべて少年を怖がらせないように目線を合わせる。


 ガルエルはその体の大きさと目つきの鋭さから、初対面の子供に怖がられやすいのを自覚していた。


 子供に泣かれた時の精神ダメージは大きい。“出来れば泣かないでくれ”とガルエルは思っていたが、少年は泣き出すよりもさらに予想外の事を口にした。


「こちらに敵意はない。話を聞いてくれないか?」


 両手を上げ、“戦う気は無い”とアピールする少年。


 この出会いは、今後魔王国の運命を大きく変えることとなるのだが、ガルエル達がそれを知る由もない。

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