やるべき事を明確に
アランがこの村を旅立ち王立学園へと向かってから1週間後、俺は10歳となりまだこの村で過ごしていた。
アランの幼少期編は終わり、次は少年編へと向かう。
アランはこの世界の主人公であり、アラン中心に世界は回る。
俺は5年以上もずっと一緒にいた親友がいない日常になれないながらも、普段通りの生活を過ごす。
ゲーム二週目なら俺も自由に移動できるのだが、話の流れ的にこの世界は一週目の世界。
アランが中心となって進むこの物語では、俺の自由がかなり制限されてしまっていた。
「にぃに。ご本読んで」
「自分で読めるだろ?それに、ニーナが持ってくる本は難しすぎる。もっと分かりやすいのにしてくれよ」
「自分で読めるけど、にぃにに読んで欲しい。それと、今回は難しくないよ」
相変わらず俺にベッタリな妹分、ニーナはそう言いながら本を俺に押し付ける。
アランの事を“好きじゃない”と言い切るニーナであったが、アランがこの村を出てからは少々寂しそうであった。
なんやかんやアランにも心は開いてたからな。頭を撫でさせるの事は絶対にさせ無かったけど。
「........“何故生物は死を恐れるのか”、か。また哲学的な本を持ってきやがって。こんな訳の分からん本ばかり読んでるニーナの未来が心配だよ」
「私の将来はにぃにやシスターマリアを守る事。その為に、知識は必要」
「それには同意するが、生物が死を恐れることを知って何になるんだよ」
「拷問に使えそう。本能的恐怖を与える手段とかあったら楽しくない?」
おいこの子本当に6歳の子供か?
6歳の子供が、拷問の手段を考えるために本を読むとか世も末だよ。
実はニーナには魔王としての才能があるのでは?と思いつつ、俺は結局ニーナに押し切られて本を読んであげることになった。
お兄ちゃん心配だよ。こんな歳から拷問とか口にするニーナの将来が。
ニーナはまだ選定の儀を終えていない。もう少しすれば、ニーナの職業が分かるだろう。
本来なら5歳になった時に行うのだが、選定の儀を行う日付の関係上6歳でやる事になっている。
ここら辺は融通効くんだな。女神様。
魔王軍陣営で出てくる人間を恨む少女“ニーナ”と、この頭のネジが緩んだ将来が不安な“ニーナ”。
同一人物かはまだ分からないが、職業が同じなら同一人物と考えた方がいいかもしれん。
そんのことを思いながらも、俺はニーナを膝の上に乗せて本を読んであげる。
「────つまり、死とはエデン神からの加護が失われると言うこと。それは、エデン神によって創成された我々生物にとって本能的に恐れを成す事なのである」
「ほー、エデン神様の加護が失われるから、生物は死を恐れるんだね」
「この著者はそう解釈したみたいだな。拷問に役立ちそうか?」
「全く。でも、恐怖する理由は何となく理解した」
俺は結論以外の部分は理解できなかったんだけど、この子本当に6歳の子供か?(2回目)
6歳児と言えば、小学校に入ったばかりの年齢である。
そもそも本を読むことも難しく、言葉もまだ拙いはずなのだがニーナは優秀がすぎるな。
俺は前世のアドバンテージがあるから言葉に関しては苦労しなかったが、ニーナやアランはゼロから全てを学んだはずだ。
そう考えると、ニーナもアランも神童と呼ばれてもおかしくない頭のデキをしている。
真の天才とはまさにこう言うこのことを言うのだろう........拷問の話をしてるけど。
「にぃに、にぃには何か将来の夢はあるの?」
「ん?急にどうした?」
「にぃに、アランにぃが居なくなってから少し寂しそう。そういう時は、新たな目標を立てるべきと本に書いてあった」
コイツ本当に6歳児か?(3回目)
普段から俺の近くをうろちょろしているニーナの事だ。主人公たるアランが居なくなって、俺が少し寂しいなと思っていたのを察していたのだろう。
流石に察しがいい。
でも、その解決案まで出してくるのは予想外。
6歳児に落ち込んだ心の建て直し方でアドバイスを貰うとは思わなかったぞ。
俺は妹分に心配されていた事実に笑いながら、ニーナの頭を優しく撫でる。
ピンク髪が静かに揺れる中で、ニーナは嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「俺は大丈夫さ。むしろ、アランがホームシックを起こしてないか不安だよ」
「ほーむしっく?」
「親や自分の家を恋しく思う事さ。アランはこの村の事が好きだっただろう? 今頃夜中に泣いてるかもな」
「アランにぃなら有り得そう。特にノアにぃにが居なくて、寂しさのあまり泣いてそう」
「だろう?あのアランなら有り得るな」
村を出て1週間。この村はかなり辺境にあるので、王都に行くまではかなり時間がかかる。
まだ王都へ向かう途中だろうな。アランは元気にしているだろうか。
俺はそう思いつつ、そろそろ本格的に対策とやるべきことを明確に決めておかなければと心に決める。
幼少期編は正直やることも余りなくて暇だったが、ここからは色々な事が起こる。
先ずはこの村の壊滅。
アランが闇堕ちする理由にもなった、魔王軍の襲来だ。
俺はこれを何とかしなくてはならない。
ノアはその性能上レベルを上げる意味が殆ど無いので、“レベルを上げて強くなって魔王軍を撃退する”なんて事が出来ない。
しかも襲撃される時期も分かってない。
これは大きな問題点だ。いつ襲撃されるか分かっていれば、その前日辺りに避難をさせることも出来なくは無いというのに。
分かっているのは、アランが一年生を終えた時には既に村は滅んでいたと言うこと。
報告が来た時期から逆算するに、早ければ半年後、遅くとも1年以内だろう。
それまでに何かしらの対策を立てなければ、この村は滅ぶ。
幸い、俺も10歳になり、割と自由に行動できるようになってきた。最初にやるべき事は、山の中に監視体制を築く事だな。
「いや、そもそも魔王軍が来るとは決まってないな........」
「?」
俺の知る魔王軍と言うのは、悪逆非道の限りを尽くし人間を蹂躙するような奴ではない。
彼らは様々な理由から国を追い出され、逃げ出してきた元人間だ。
この世界では体内に魔石と呼ばれる魔力が具現化したような石を持つ人間が一定確率で生まれるらしく、その特徴がモンスターと似ているため“魔人族”と呼ばれて迫害されている。
普通の人間よりも力が強く、何より普通の人と見た目が違う。
人間とは、自分と違う存在を排除したがるものだ。
それが、自分よりも強く生命を脅かすものであるなら尚更。
そんな魔人族達の受け皿となったのが、魔王国。
魔王と呼ばれる魔の王は各地に散らばる魔人族を集め、国を作り魔人達の楽園を築き上げたのだ。
その後、色々とあって人間と戦争をする事になるのだが、魔王国は売られた喧嘩を仕方がなく買っただけ。
どちらが悪かと問われれば、それはまず間違いなく人間側だろう。
「だから、村が滅んだ考察で“魔王軍がやった訳じゃない”って考察が一定数あったんだよな。基本、面白くて良い奴が多かったし」
「........zzzzzz」
あら、ずっと頭を撫でてたらニーナが寝てしまった。
この寝顔を見ていると、年相応の可愛い子供なんだけどなぁ........
俺はニーナが起きないように気をつけながら、そのモチモチの頬っぺたを突く。
可愛い。
「だから、とある考察が話題になった。実は勇者に魔王軍へ恨みを向けさせるために、王国の連中が村を襲ったんじゃないかって」
正直、この考察が1番可能性が高いと思っている。
自分達の地位が脅かされれば、たとえ実の娘であろうと殺す奴がこの国のトップなのだ。
そして、その国王に仕える貴族の殆ども。
魔王軍よりも王国の方が悪役らしい悪役であったヘルオブエデンのストーリーならば、国が勇者に魔王軍を恨ませるために村を襲ったとしてもおかしくは無い。
ならばどのようにしてこの村を守るのか。
「やっぱり、この村の人々全員を魔王領側に逃がすしかないよな........」
魔王軍とリバース王国。どちらが信用できるかと言われれば、それは間違いなく魔王軍である。
彼らは元々迫害されてきた過去があるので、裏切りなどは絶対にしない。
確か、サブストーリーで魔王軍の幹部がこの村の近くにまで来る事があったはずだ。
時間軸から考えても彼女達はそろそろここに来る。
先ずは、魔王軍から探すとしよう。
俺はやるべき事を決めると、俺のは膝の上で眠るニーナの頭をもう一度優しく撫でるのだった。
俺が目指す終着点は、アランと魔王軍のハッピーエンド。やるべき事が決まったのであれば、ネタキャラなりに頑張るとしよう。
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