ハッピーエンドが好きなんだ
アランと共に過ごす期間も残りわずかだと思いつつ、楽しい日常を過ごす事数ヶ月。
遂に、メインストーリーが大きく動き始める時が訪れていた。
明日、アランは昨日この村にやってきた騎士達に連れられて村を出て王立学園へと入学する。
それは、ヘルオブエデンのチュートリアルが終了する事を意味した。
画面越しにこの世界を見ていた時は僅か15分足らずの出来事であるが、現実となると10年の歳月。
長いようで短かったが、ゲームをやっていた時よりは確実に長い。
「勇者様の幸福を祈って!!乾杯!!」
「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」
この村の村長が音頭を取りつつ、ジュースや酒の入った木のコップをカンカンと合わせる村の人々。
今日はアランが魔王を討伐する為の第一歩を踏み出す事を祝う宴会が開かれている。
これはゲームにもあったイベントであるのだが、原作の無愛想なアランの時は正直盛り上がりに欠けていた記憶があるな。
“頑張れよ”とか“世界を救うんだ”とか応援されているのに、“ふん”としか返さない奴が宴会の主役なんだから、盛り上がりたくても盛り上がれない。
が、この世界のアランは違う。
ネタキャラたる俺とガッツリ関わってしまい、勇者らしい口調と性格に変わったアランは楽しそうに村の皆と話していた。
「頑張れよアラン。お前が活躍してくれれば、俺達も鼻が高いってもんだぜ」
「そうそう。国を救った勇者様と一緒になって飲んだって言う自慢話ができるしな!!」
「あはは。期待に応えられるように頑張るよ。でも、その前に5年間は王立学園で色々と学ぶ必要があるけどね」
「その五年間でさらに強くなると考えると、いよいよノアも勝てなくなるかもしれんな!!そうは思わないか?ノア」
既に酒を何杯も飲んだのか、若干出来上がっているおっちゃん達。
この世界での成人は15歳であり、酒が飲める年齢になるのもその歳からなので俺や子供たちはジュースを飲んでいる。
「そうだな。少なくとも真正面から戦ったら勝てなくなるだろうね」
「そんなことは無いと思うけどなー。だって最後の最後まで僕と互角の勝負をしてきたノアの事だよ?きっと僕が成長した時は、ノアも信じられないぐらい成長してるさ」
「買い被りすぎだ。勇者様と真正面からやり合って勝てる召喚術士が存在するなら、今頃召喚術士が勇者として崇められてるよ」
今後、さらに強くなるであろうアランと戦っても俺では勝てないだろう。
持久戦に持込れば勝てるだろうが、真正面から挑んでも勝ち目はない。
理論上最強なんて言われるノアだが、所詮はネタキャラなのだ。
ネタキャラには、ネタキャラと言われる所以がある。
「それにしても王都か........僕はこの村から出たことがないから、どんな場所なのか楽しみだなぁ」
「きっと、この村とは比較にならないほど人で溢れかえった場所さ。この村では見たことも無いような大きな店や、豪華な衣装に身を纏ったお貴族様なんかを見ることができるぞ」
「よく知ってるね」
「あくまで本で読んだだけだ。事実かどうかは知らんよ」
ゲームで嫌という程見たけど、それを言う訳にも行かないので適当に誤魔化す。
アランの旅路はここから始まるのだ。
そして、その旅路に俺はついていけない。
そもそも王立学園に入れるのはアランだけだし、俺はこの後起こるシスターマリアを含めたこの村の危機に対処しなくてはならないのだから。
アランが魔王軍を恨む理由になったとある事件。
1年後、この村は魔王軍に襲われて壊滅し、村の人々は全員死んでしまう。
アランはそれを王国からの知らせで知り、1度故郷に帰ってくる。
そして、そこで血に塗れたシスターマリアのロザリオを見つけて怒りを魔王軍に向けるのだ。
平和的なゲームかと思ってプレイを続けている中で起こるこのイベントは、多くのプレイヤーを絶望の縁にたたき落とす。
そして、この事件をきっかけに勇者は闇堕ちして魔王軍絶対殺すマンになってしまうのだ。
その後も胸糞悪いストーリー展開が続けられ、挙句の果てには魔王軍の方がいい人なのでは?と言われるほど。
なぜヘイトを人間側に向けさせたんだこのゲームは。とネットで書かれて批判されるぐらいには、このゲームのメインストーリーは終わってる。
そして、エンディングもクソ。
無事に魔王を倒した勇者一行だったが、勇者の人気と力を恐れた国王と貴族が結託しメインヒロインの王女(国王からすれば自分の娘)を殺害。その罪を勇者パーティーになすり付け、勇者アランは王女を殺した罪人として国を追われる立場となり他の大陸に逃げるのだ。
誰がこんなストーリーを望んでいるんだ。
俺も初めてこのゲームをプレイしていた時は、ストーリーの酷さにストレスが溜まったね。
その後、
「ノアも一緒に来れたら楽しいんだけどね........王立学園に入れるのは勇者だけだと言われちゃったよ」
「........お前、まさか俺を王立学園に連れて行けないか騎士に聞いたのか?」
「うん。だってノアと一緒に戦えたらすごく心強いから。僕の事を1番知っているのはノアだし、ノアのお陰で僕は孤立せずに済んだからね」
「生憎、俺は勇者御一行様の中に入れる様な器じゃねぇよ。この俺が品行方正に見えるか?」
「ん?見えるよ。いつも大人には礼儀正しいし、教会の手伝いも毎日してるじゃないか。子供たちの面倒もよく見てるし、あのニーナが物凄く懐くほどにね。みんな言ってるよ?ノアは良い奴だって」
........俺としては乱数の女神様に媚びを売っているだけだったのだが、傍から見たら確かに真面目な良い奴に見えるわな。
乱数の女神様に微笑んでもらう為にいい子ちゃんを演じてきたが、確かに俺が“女神様に媚びを売るぜ!!”と内心思っていることを知らなければ良い奴に見える。
で、乱数の女神様に好かれるよりもアランに好かれてしまった訳か。
辞めろよ?俺にそっちの気は無いからな........いや、アランぐらいイケメンならワンチャン........無いわ。俺はアブノーマルな性癖を持ってないんだよ。
そんな事を思いつつ、俺はアランの肩に手を置く。
そして、盛り上がる宴会の中でアランにだけ聞こえるように小さく呟いた。
俺は今後のストーリーを知っている。原作のアランもこの世界のアランも根は真面目で良い奴だ。
コイツは人を信じやすいし、騙されやすい。
だからこそ、この村を離れる前に釘を刺しておく。
「アラン。目に映るものだけが真実だとは限らない。綺麗な花の棘には毒があるように、この国の上に立つ奴らの正義にも毒がある。疑え。そして、流されるな。信じるな。人類皆が、この村の人々のように優しくは無い」
「きゅ、急にどうしたんだい?そんなに真面目な顔をして」
「いいかアラン。この村の人達は何としても俺が守ってやる。だから、自分の中にある正義を貫け。その正義を利用されるな。いいな」
普段はヘラヘラとしているような奴が、本気の目で語ったからだろうか。
アランは俺が冗談でこの言葉を言っている訳では無いと察すると、優しい表情からゲームで見た時のような鋭い目をして静かに頷く。
「ノアがそこまで言うって事は、何かあるんだね。分かった。僕は僕の正義に従って、この剣を振るう事を1番の親友たる君に誓うよ」
いや、別に俺に誓わなくてもいいんだけど。
俺は真面目な顔で俺に誓いを立てるアランの姿が少し面白く、思わず吹き出してしまうのだった。
「ぶっふ!!似合わないぞアラン」
「んなっ........!!ノアに合わせて真面目にやったというのに!!」
できる限りはサポートしてやる。だが、この
だから、バットエンドに進んでくれるなよアラン。俺はハッピーエンドが好きなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます