なんか勇者に好かれてる
へぇ、ゲームではミスと表示されていただけだったが、現実ではこんな感じになるのか。
俺はアランとの勝負に運良く勝ったあと、自分のスキルである
アランの攻撃は、確実に当たるはずだった。
しかし、俺すらも意図しない足の滑りによってそれを避けてしまう。
避けられると思ってなかったアランは僅かに硬直し、俺はその隙を突いて木の棒を当てることが出来たのだ。
今回は木の棒を身体に当てた時点で勝敗が決まるルールだったので勝てたが、殺し合いなら攻撃力が無さすぎて大したダメージにもならずに反撃を食らっていたな。
ルールと運に助けられた形となる。
「やっぱり、ゲームの世界とは違うよなぁ........射程範囲内の攻撃も普通に避けられるし、固定で1ダメージが入るとも限らない。もしかして、この世界はノア殺しな世界なんじゃないか?」
アランと戦って気づいたのは、射程範囲内に居ようが本人の技量しだいで攻撃を受け流したり避ける事が出来てしまう事。
現実なのだから当たり前の話なのだが、ゲームの中では最強だったノアに関して言えばかなりの問題点となる。
基本、物量でゴリ押し戦法しか使えないこのネタキャラの攻撃が、必ずしも相手にダメージを通すとは限らないのだ。
ノアが理論上最強な理由は、その回避力と機動力。そして、物量による手数の多さ。
システム上ダメージが1でも通るのであれば勝てるが、現実はそう甘くはない。
こんな所でもゲームと現実の差が出てくるのかと思いつつも、一先ずノアのスキルが問題なく使える事にホッとした。
「........僕の負けだ」
「運が良かっただけさ。また戦ったら、次はアランが勝つよ」
「ならば、明日も戦え」
「嫌だよ。俺、教会の手伝いもあるし」
そう何度も最強の勇者様を相手にしたくない。後、怪我をしたりさせたりしたらシスターマリアに怒られる。
シスターに怒られる=乱数の女神様が“この子悪い子”と思う=二分の一の確率を外して死ぬ。
そんな事にはなりたくない。
俺は乱数の女神様のご機嫌を取るためならば、聖者にでも悪魔にでもなってやるぞ。
と、そんなことを思いつつアランの誘いを断ると、アランは目に見えてシュンとした。
やはり、友達と遊びたかっただけなんだな。アランは作中を通して友人となってくれるキャラが少ない。
メインヒロイン(王女)やサブヒロイン(少年時代に出てくる大魔導師)はそもそも友人ではないし、彼が心の友と感じて仲良くなったのはとある薄汚い騎士ただ1人。
ほかは、アランのことを最初から勇者として見たり、彼を利用しようと目論む腐った権力者ばかりであった。
この性格と口調だから、孤児院にも友人と呼べるやつは居らず孤立していたらしいからな(公式ガイドブックより)。
なら、少しの間だけでも俺が友人として接してやってもいいかもしれない。アランは友人が少ないのを嘆いていたし、この孤児院を離れるまでは仲良くしてやろう。
でも、戦うのはナシだ。俺は勝ち逃げする主義なんでな!!
「教会の手伝い........?あぁ、確か、掃除を手伝ってたらしいな」
「そうだよ。この力をさずけてくださった女神様に感謝をしないとな」
「........胡散臭い顔だな。ノア、お前は女神様を信じるような性格では無いと思ったが?」
「いやいや、そんなことは無いさ。俺は女神様を信じているよ」
正確には、乱数の女神様を信じてる。
いい事してれば、きっと乱数の女神様は俺に微笑みかけてくれるはずだ。
「........ふん」
アレンは鼻を鳴らすとどこかへと言ってしまう。
まずはあの態度と性格を直させるところから始めてみるか。上手く行けば、あの嫌われ勇者の性格を直せるかもしれない。
「なんだアイツ。負けて悔しかったのか?」
「さぁね。でも、嫌な感じじゃないよ」
「そうか。ところでノア、お前動物も召喚できるんだよな?見せてくれよ」
「いいよ。ブラット兄さん」
こうして、その日はちょっとしたイベントこそあったものの、自分の能力や魔法について色々と確認することが出来たのだった。
【
それぞれのキャラクターが持っている特殊能力。一定の条件を満たすと発動可能。似たようなスキルを持つキャラはいたとしても、その効果が全く同じとはならない。
ノアのようにネタみたいな能力もあれば、必殺技となりうる強い力を持ったスキルもある。
この世界では、スキルについてあまり知られておらず、職業から与えられた一種の魔法や技だと認識されている。
翌朝。俺は朝食を食べ終えると、教会へと足を運んでいた。
今日も今日とてお掃除お掃除。
小さな積み重ねが、乱数の女神様に愛される秘訣だとあの動画投稿者は語っていたからな。
実は、“幸運のネックレス”はこんな面倒な方法を取らずとも教会から盗む事も可能である。
しかし、盗んだ物は縁起が悪いとして、多くの乱数信者は正規のルートでこのネックレスを手に入れていた。
時間はかかるが、別にRTAをしている訳では無い。
乱数の女神様に気に入られたいのであれば、できる限りいい子にしておくべきなのだ。
「お、今日も来たね。おはようノア少年」
「おはようございます。神父様」
「うむ。実にいい挨拶だ。エデン様は挨拶とかを重視するお方だからな。しっかりと挨拶ができるのは、偉いぞ」
そう言いつつ、俺の頭を撫でてくれる神父。
手伝いを始めてまだ三日。神父とはそれなりに話す様になっていた。
ゲーム本編でも殆ど関わることの無いキャラではあったが、こうして話してみると意外と気さくなお爺さんであり、エデン教について色々と教えてくれる。
このゲームのファンであった俺からしたら、知らない裏設定なども聞けたので結構楽しかった。
「少しは慣れてきたかね?」
「はい。床を掃除するのはだいぶ慣れてきました」
「それは良かった。この教会に務める聖職者達だけではどうしても人手が足りなくてな。ノア少年が手伝ってくれて助かるよ」
お世辞でもそう言ってくれるのは嬉しいが、5歳児の掃除なんて危なっかしくて目が離せないんじゃないかな。
掃除中もずっと視線を感じるし。
とは言えだ。“もう来なくていよ”とは言われない辺り、俺は最低限の役には立っているのだろう。
今日も頑張るかと気合を入れていると、教会の扉が開かれる。
視線を向けると、そこにはシスターマリアと何故かアランが居た。
「お?勇者の子じゃないか。アラン少年........だったかな?」
「はい。神父様。どうやら、アランくんも教会のお手伝いをしたいと言うので、連れてきました」
「ほう!!アラン少年も掃除を手伝いに来たのか!!いやぁ、ありがたいな。これでこの教会にも自慢話が生まれるぞ!!かの英雄たる勇者様が直々に掃除をしてくれた教会としてな!!」
ガハハ。と笑いながら、手伝ってくれる子供が増えたのが嬉しいのか純粋に喜ぶ神父。
ゲームの中でのセリフでも似たようなセリフを言っていた気がするな。
アランは神父に1度頭を下げたあと、俺の目の前までやってきてドヤ顔をする。
金髪蒼眼ショタのドヤ顔は、正直ちょっと可愛かった。
「コレで掃除を早く終わらせれば、ノアと勝負できるな。僕と勝負しろ」
「え、その為だけに来たの?」
「当たり前だろう?ノアの手伝いをして余った時間を僕に使え」
なんかセリフがヤンデレっぽくて怖いんだけど。やめて?男のヤンデレに需要は無いんだ。
少なくとも、男の俺には。
俺はそう思いつつも、アランはそこまでして俺と遊びたいのかと思う。
アラン、孤児院でもちょっと浮いてるからな。友達として見ている奴と近い方が気も楽なのだろう。
よし、そこまで言うなら掃除が終わったあとに遊んでやるとしよう。次いでに、アランを使って色々と試してみたいこともあるしな。
後、話し方や口足らずな所も直させるとしよう。
「分かったけど、先ずはその命令口調を直すんだな。あと話し方もどこか圧を感じる。もっと優しい声を出すんだ」
「........うっ、分かっ、いや、頑張る」
「ハハハ。その意気だ。頑張れ」
言われて直ぐに直そうと頑張るアランを見て、俺は思わず少し笑ってしまうのだった。
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