召喚魔法
さて、乱数の女神様に媚びを売り始めた翌日。
教会の掃除の手伝いを始めた俺は、その日の手伝いを終えると自分の性能を確かめる為に孤児院の広場に足を運んでいた。
この小さな村は、田舎らしく土地が余りまくっている。そのお陰で、子供たちが遊ぶ場所をしっかりと確保出来ているのだ。
近くには弱いモンスターが出てくる森もあるし、正しくチュートリアル向けに作られたご都合的な村と言えるだろう。
「みんな今日も騒いでるな。自分の職業で何が出来るのかを試している」
開けた遊び場は、木の棒をもって剣士の真似事をする子供や魔法を使おうと頑張っている子供達で溢れている。
そして、それを見守る年上の孤児の子供達。自分達も同じ経験があるのか、どこか懐かしそうにその様子を眺めながら怪我をしたりしないように見守っていた。
「ん、ノアか。お前も自分の職業を確かめに来たのか?」
「そうだよブラット兄さん。俺の職業は召喚術士らしいから、適当に何か召喚してみようと思って」
「ほー、召喚術士か。結構珍しい職業だと本で読んだな。なんでも、極めればドラゴンすらも召喚できるそうじゃないか」
「あはは。俺には無理だよ。精々スライム辺りが精一杯さ」
「分からんぞ?ノアは他の子と違って頭がいいからな。誰にも教わらず文字を覚えるし、知らん間に文字が書けるようになってる。お前程頭が良ければ、ドラゴンすらも召喚したとしてもおかしくは無いさ」
そう言いながら俺の頭を優しく撫でるのは、ブラットという少年。
青い髪と赤い目。この世界がゲームの世界のためか、想像以上にイケメンの面倒見のいいお兄さんである。
でも、ゲーム本編では名前すら出てきたことがなかったはずなので、モブキャラなのだろう。
結構いいキャラしてるんだけどね。
「ブラット兄さんの職業はなんだっけ?」
「俺は弓使いだな。将来は、狩りをしながらこの村で過ごすつもりだよ。俺が肉を取れるようになれば、みんながもっと腹いっぱいに飯が食えるようになる」
「それはいいね。お肉を取ってこれるようになれば、兄さんは一躍この孤児院のヒーローだよ」
「ハハハ。かもな。でも、俺よりももっとヒーローらしい奴がいるだろう?伝説の勇者様がこの孤児院で生まれたんだからな」
ブラットはそう言うと、俺よりも年上の子供とチャンバラをする勇者様ことアランに目を向ける。
相手は確か7歳の職業剣士だったかな?“俺は騎士になるんだ!!”と言って、毎日剣を振るう頑張り屋さんだ。
名前はリオード。彼もモブキャラのひとりだ。
「見ろよ。既にリオードの剣を見て避けてやがる。生意気な奴だが、実力は本物だな」
「剣っていうか、木の棒だけどね。どちらにせよ、アランはすごいや」
勇者の基礎ステータスは相当高い。年齢による体格差を覆せるほどには、剣士と勇者の基礎ステータスの差があるのだ。
出来ればステータスとか確認したいのだが、この世界はゲームを元にして作られた現実。
“ステータスオープン”なんて言葉ひとつで、自分のステータスを見られる訳では無い。
ここが、ゲームと現実の違いだな。自分のレベルすら確認できないのは、ちょっともどかしくも思う。
そんなゲームと現実の違いはまだまだあるのだろう。メインストーリーが大きく動くのは5年後の10歳になってから。
今はゆっくり自分の出来ることを確かめつつ、色々と検証すればいい。
そう思いつつ、アランとリオードの戦いを見ていると、アランがリオードの持っていた木の棒を弾き飛ばして先端を突きつけていた。
「お、勝負ありだ。アランの勝ちだな」
「さすがは勇者。俺には無理だね」
「だろうな。俺にも無理だ。さて、職業の確認をするんだろう?見せてくれよ。召喚魔法がどんなものなのか、俺も気になるんだ」
「いいよ」
召喚魔法を見たことがないのか、年相応な期待をもって俺を見るブラット。
ブラットは孤児院の中では年長者ではあるが、まだ10歳の子供だ。
ちなみに、この世界では15歳から大人として扱われる。酒を飲んだり自己責任の自由が得られるのは、15歳からだ。
「何から見たい?」
「何が使えるんだ?」
「俺が使えるのは全部で五つ。2つは動物を召喚する魔法で、1つは剣を召喚する魔法。そして残り二つはモンスターを召喚する魔法だよ」
「へぇ、モンスターか。ちょっと見て見たい気もするが、ここで召喚すると騒ぎになるよな。1番安全そうな剣から見せてくれよ」
流石は年少者のまとめ役。ちゃんとそこら辺は考えてるんだな。
ノアの使える魔法は全部で五つ。最初から彼の使える魔法は全て習得済みだ。
【サモン:ラット】【サモン:バード】【サモン:ソード】【サモン:スライム】【サモン:スケルトン】の5つがノアの使える攻撃手段の全てであり、これを駆使して魔王を倒す。
倒せるのかって?
気合いで倒すんだよ。
終盤のインフレが激しいこのゲームでは、終盤のザコ敵のHPが100万とか普通に行く。
ゲームとしては爽快感を味わって欲しいのだろうが、ノアに限って言えばいい迷惑だ。
ゲームシステム上どんな攻撃だろうがダメージが1は入るのだが、ザコ敵を100万回殴るとか頭沸いてんだろ。
どれだけ手際よくダメージを与えたとしても、最低でも1時間は戦闘をする羽目になる。
お陰でノア単騎攻略は“魔王を倒す前にプレイヤーが過労死する”とか言われるのだ。
理論上最強(笑)の力はダテじゃない。
この攻撃力の無さと、それ以外はほぼ完璧な性能が相まって皆に愛されるネタキャラとして君臨していたんだよな。
昔ノア単騎攻略を難易度普通でやったけど、ガチの苦行だったなぁ........でも、終わったあとの達成感は凄かったよ。
「それじゃ、召喚するから少し離れててね」
「おう。楽しみにしてるぜ」
念の為ブラットを離れさせ、俺はこの世界に来てから初めての魔法を使う。
この世界の召喚魔法は、召喚と言うよりも自分の魔力でその物を作ると言った方が正しいらしい(公式ガイドブックより)。
魔力が体から僅かに抜け落ちる感覚を味わいながら、よくある普通の剣をイメージするとあっという間に剣が出来上がった。
鉄の重さを感じる良き剣。西洋風の両刃が着いた剣だ。
大きさは俺が使う想定をしているのか少し小さめ。剣と言うよりは少し長めのナイフにも見える。
ここでもゲームと現実の違いが出てるっぽいな。
「おぉ!!スゲェなノア。召喚魔法は本当にこんな剣を作れるのか!!触ってもいい?」
「一応本物だから気をつけてねブラット兄さん。普通に切れるから」
「おう。分かった。これで怪我をしたら、俺とノアがシスターマリアに怒られちまうからな」
シスターマリアは、怒った時はマジで怖いから怒られたくない。
普段優しい人ほど、怒った時は怖いと聞くが全くもってその通りだ。
ブラットは地面に落ちた剣を手に取ると、ペタペタと触りながら軽く振ったり地面に突き刺したりして剣で遊ぶ。
10歳児の子供が刃物を持っているのは恐ろしいと言えば恐ろしいが、ブラット兄さんならば問題ないだろう。
この世界では割と当たり前だしな。
慣れるのが大変だよ。元々がゲームの世界だからか、微妙に日本の文化や道具がありつつも基本は中世ヨーロッパの世界観。
価値観も日本とは少々違うので、この世界に来てすぐの頃はかなり違和感を覚えたものだ。
今でも違和感を覚える時は多いけど。
「んー、この前衛兵のおっちゃんが見せてくれた剣と全く同じだな。大きさを除けば、本物だ」
「そう?ならモンスター相手にも使えそうだね。残念ながら召喚魔法で出した物は破損すると魔力となって消えちゃうから、溶かして鉄として売るとかはできないけど。あ、でも剣としてなら売れるのかな?いや、対策されてそうだな」
「........ノア、よくそんな方法が思いつくな。やっぱりお前は頭がいいよ」
そう言って頭を撫でてくれるブラット兄さん。
前世は一人っ子だったから兄がいたらこんな感じだったのだろうか。
そう思っていると、俺達のやり取りを見ていたのかアランが俺の前にやってきて木の棒を突きつけてきた。
なんだ?いきなり。
「ノア。僕と勝負しろ」
「え、嫌だけど」
なんでいきなり勝負を持ちかけられてんの?
今日はここまで。一章でが終わるまでは、毎日二話更新したいと思います。
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