乱数の女神には媚を売れ


 さて、ゲームをやっていたらそのゲームに転生し、その転生先は主人公ではなくネタキャラだった訳だが、俺が最初にやるべき事は既に決まっている。


 アランが勇者だと確定し、この世界がヘルオブエデンと分かった時点で俺は最初にやる事を決めていた。


 レベルを上げること?


 否。


 武技や魔法を覚える事?


 否。


 自分の性能を確かめる事?


 否!!


 答えは簡単。乱数の女神に媚びを売る為に常日頃から善行を積む事である。


 正確には、とある装備品を獲得する為に教会のお手伝いを頑張ることだ。


「え?教会のお手伝いをしたい?相変わらずノア君は変わってますね」

「日頃からお世話になっているから、お手伝い出来ないかな?シスターマリア」


 選定の儀を終えた翌日、俺は早速乱数の女神に媚びを売るための準備を始めた。


 ノアはレベル上げや魔法、武技を覚える必要が無い。何故ならば、職業を得た時点でその魔法や武技等の覚えられるものを全て覚えてしまっているから。


 更には、レベルを上げてもあんまり意味が無い。


 多少はステータスは上がるが、ノアの強みを生かせるステータスは既にカンストしているのだ。


 それが魔力MPと速度と詠唱時間。


 魔力とは、魔法を使う際に消費するエネルギー。召喚魔法もこの魔力を消費する。


 ノアの魔力は無限に等しく、どう考えてもゲームバランスを崩すとしか思えないが、魔力が無限だろうがこのネタキャラの攻撃力はクソザコナメクジ。


 運営の“多少ぶっ壊れ性能でもええやろ”と言うのが、見て取れる。


 次に、速度。


 ヘルオブエデンの戦闘は準ターン制であり、速度がかなり重要になってくる。


 速度によって移動できるマスの数が増えるのだ。


 例えば速度1のキャラが移動すると1マスしか移動できないが、速度2のキャラが移動する際は二マス移動できる。


 更に、行動順は速度に依存するので速度が速ければ速いほど行動できる順番は速まる。


 その為、速度の遅いキャラ(主に盾を持つタンクキャラ)にも速度系の装備やアイテムを持たせるのが基本とされている。


 そりゃ、相手よりも早く行動、攻撃出来ればそれだけで有利になるからな。


 そして、最後の詠唱時間。


 これは、魔法を使うキャラが主に重視されるステータスだ。


 魔法を使う際は詠唱が必要となり、魔法によっては数ターン動けなくなる事もザラ。


 中にはターン消費無しで打てる魔法もあるが、そのような魔法は大抵威力が低く使い物にならない。


 敵に魔法を当てたい場合は、魔法の射程圏内に入った上で魔法を詠唱し、魔力を消費する必要がある。


 もちろん、詠唱中に射程圏外に逃げられれば魔法は当たらない。


 それだけ苦労した分、火力は高いけど。


 で、俺はこの三つはどのキャラよりも優れており既にカンスト状態から始まる。


 これで攻撃力もあれば完全なぶっ壊れなんだけどなぁ........


 まぁ、そんな訳で俺はレベル上げが必要では無いのだ。レベルを上げる必要がないから“理論上はレベル1でも魔王を倒せる”なんて言われるんだな。


「ノア君は真面目ですね。普通の子は自分達の職業がどのようなものなのか、またどんな力を持っているのか知りたくて遊んでいると言うのに」

「俺には必要ないよ。それよりも、俺はこの職業を授けて下さった女神様に感謝したいんだ」


 正確には、乱数の女神様に媚びを売ってニブイチを毎回引きたい。


 そんな俺の熱心な心が届いたのか、シスターマリアは少し悩むと俺の頭を優しく撫でる。


 その手の優しさに、思わず涙が出てきてしまいそうだ。


 ヘルオブエデン全ユーザーが心の底から望んだ“俺達のママ”のナデナデ。これは素晴らしいな。


 俺の推しキャラは別にいるが、シスターマリアにも惚れそうである。


「分かりました。ノア君がそこまで言うなら、神父様に聞いてきましょう。敬虔な信徒こそ、女神様の加護が与えられるのです」

「う、うん?よく分かんないけど、俺頑張るよ」


 一応シスターマリアも、神を信仰する者。ネタで神を信仰する俺には分からない言葉を言うと、神父の所へと行ってしまった。


 さて、ノア単騎で魔王に挑む時の必須アイテム“幸運のネックレス”を取りに行くとするか。




【ヘルオブエデン】

 主人公が転生した世界であり、そこそこ有名なゲーム。戦闘システムに関しては素晴らしいと称される一方で、ストーリーがあまりにも酷い為“ゲームシステムに金を使いすぎて、三流シナリオライターを雇った”とまで言われる始末(ストーリー分岐は多い)。

 ゲーム本編をクリアし2週目からが本番と言われるゲームでもあり、ノア単騎攻略等勇者をパーティーに入れずにゲームを進めたい場合は1度ゲームクリアしなければならない。また、DLCも豊富で、やり込み要素が多く根強い人気がある。




 という訳で昨日ぶりにやって来ました、教会。


 この世界の宗教は“エデン神”一神教のみなので、宗教戦争などは起こらない。


 女神の像と思わしき女の人の像をポケーっと見ていると、今日からお世話になる神父がニコニコと胡散臭い笑みを浮かべてやってきた。


「ハッハッハ。君か。昨日の今日で教会の手伝いをしたいという変わり者は」

「おはようございます神父様」

「おはよう。ノア少年。教会のお手伝いがしたいんだって?5歳児の子供とは到底思えないな!!」


 昨日とガッカリとした目とは打って変わり、人の良さそうな雰囲気を身に纏う神父。


 彼の名前は確かエボランだったかな?アランの幼少期時代をプレイしている時に、ちょくちょく話しかけてくるお爺さんだ。


 白い神父服に身を包み、その胸には金の十字架。


 何故ゲームの教会は必ず十字架を掲げるんだ?........新たなシンボルを考えるのが面倒なのか。


「全く、シスターマリアから話が来た時は驚いたよ。選定の儀を終えた子供が、次の日に教会の手伝いをしたいなんて初めての体験だ。実に興味深い子だな」

「ありがとうございます?」

「ハッハッハ!!褒めては無いのだがね!!」


 この神父こんなキャラだったか?


 序盤も序盤の幼少期時代はチュートリアルの側面も強いし、ストーリは読み飛ばしてたからあまり記憶が無いんだよ。


 大まかなストーリーさえ知ってれば問題なかったし。


「頑張り屋さんのノア少年には、先ずこの部屋を掃除してもらうとするかな。あぁ、もちろん私や他のシスター達も一緒にな」

「分かりました」

「それと........昨日は済まなかった。聡明な君ならば気づいていただろう?私が君の職業を召喚術士と知ってガッカリしてしまったのを」

「えぇ........と言うか、頭を上げてください」


 自覚はしていたのか。そして、それを俺が見抜いていた事も。


 素直に頭を下げた神父に驚きつつも、俺は神父の頭をあげさせる。


 5歳児に頭を下げる神父の姿を他の人に見られ勘違いでも起こされたら、俺の立場が悪くなる。


 俺は乱数の女神様のご機嫌を取りたいのだ。いい子にしてないと罰(50%の確率を外す)が下る。


 乱数の女神様最高!!バンザイ!!


「一介の聖職者として、常に誰であろうと平等であることこそが絶対だ。それを歪めてしまった自分が恥ずかしいよ。もう65年も生きていると言うのにな」

「間違いは誰にでもありますよ。問題は、それを反省し次に生かせるかです」

「........ノア少年?君本当に5歳児か?まるで大人と話している感覚になるな」


 やべ、5歳児にしては賢すぎたか。


 適当なことを言って誤魔化しておこう。


「本に書いてあったことを言っただけです」

「ほう!!その年でもう文字が読めるのか。ノア少年は賢いな」


 ........うんまぁ、ごまかし成功か?


 ちなみに、この世界の文字は全て日本語だ。日本で作られたゲームだし、当たり前とえば当たり前ではある。


 いやー助かるね。高校の頃、英語の成績が悪すぎて留年しかけた俺にとって、未知なる言語を習得するのは難易度が高いだろうし。


「いい言葉だな。私も胸に刻んでおこう」

「俺もそうしておきます」

「さて、そろそろ皆が来る時間だ。一緒に掃除をするとしよう。シスターマリアも来るから、彼女に色々と教えてもらうといい」


 こうして、俺の“善行を積んで乱数の女神様に気に入られる作戦”は始まるのだった。







 今日はお昼頃にもう一つ更新します。

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