こんなところで何してる!?
『グリペン!? 知らんぞあんなの!』
フェイは、未知との遭遇とばかりに困惑している。
この国では見慣れない相手なのは、明らかだった。
「確認するけどストーム、この国の戦闘機はF-16だけ、だったよな?」
「そうだよ! グリペンなんていないよ!」
「じゃあ、あれはどこから来たんだ?」
だとしたら、あの戦闘機は何者なのか。
まさか、外国軍のものなのか。
だが、JAS39グリペンは、世界的にはそれほど普及していない戦闘機である。しかもスルーズ諸島と関わりがありそうな国で、となると、思い当たる節は全くない。
仮に外国軍機だとしても、赤と黒の目立つカラーは、とても軍用とは言い難いものである。
『タイガーアイ、アイツに苦情言ったれ! 安全基準違反やで!』
『それが……別の管制官が呼びかけているのですが、応答していないんです!』
どうやら向こうも、手を焼いているらしい。
ツルギ達にとって、目の前のグリペンはまさに『所属不明機』であった。
そうこうしている内に、反転したグリペンが再び後方に回り込んでくる。
すると。
『そこの2機! 暇そうなら、このグリペンの相手をしてもらおうか!』
突然、グリペンのパイロットと思われる相手から、宣戦布告された。
先程と同じ、魔女を思わせる声。
それを聞いたフェイは、得体の知れないものを感じ取ったのか明らかに動揺している。
『こ、こちらレインボー。それは、ウチらに向けて言うてるんですか?』
『他にいるなら言って見ろ、レインボーとやら!』
『いきなり何言うてるんですか!? ウチらはまだ慣熟飛行中で模擬戦なんてできまへん!』
『戦場でもそんな言い訳するつもりか!? 甘すぎるんだよ!』
だが、相手は聞く耳を持たない。
グリペンが、後方から突っ込んでくる。
『Lock! Lock!』
突然、コックピット内に警報が響く。
レーダー照射を受けている、という意味のものだ。
所謂、ロックオンである。それは、相手にとっては明確にこちらへ銃を向けているという意思表示だ。
つまり──相手はやる気だ。
「──っ!」
とにかく、事故を避けるためにも、回避するしかない。
ストームは、反射的に操縦桿を左へ傾けた。
左へ急旋回したストーム・ツルギ機は、グリペンの突撃を間一髪で回避した。
グリペンはそのまま、上昇に転じていく。
それは、空に戻ってもまだ眼下の獲物を追う鳥のようだった。
突然の急旋回で息が全部吐き出されそうになったツルギであったが、不思議と冷静だった。
『おいおいおいおい、どうしたらええんや!?』
「ちょっとだけ僕に話させて!」
ややパニック気味のフェイに代わり、ツルギが無線を引き受ける。
ひとつだけ、確かめたい事があるからだ。
『グリペンへ! あなたはまさか、スカーレット・アイアンズですか!?』
『──その声は!? ツルギ!?』
相手が驚いている。
自分の名前を出した時点で、イエスと答えたのと同義であった。
『パイロットをあきらめたはずのお前が、こんなところで何してる!?』
「それはこっちの台詞だよ!」
今度はストームが言い返した。
再び、相手が驚く。
『その声は──ストームとかいうガキか!? よりによって、あの時の2人か……!』
相手が舌打ちをしたのがわかった。
直後、赤いグリペンがストーム・ツルギのF-16の右隣に並んだ。
コックピットに座るパイロットは、黒いヘルメットを被っていた。
これを見たツルギとストームは、相手がかつての因縁の相手──スカーレット・アイアンズだと確信した。
それは、向こうもきっと同じだろう。
『しかも同じ機体に一緒に、だと……?』
「そうだよ! あたしはツルギの夢も叶えてあげるために一緒に飛んでるの! 悪い?」
『気に入らんな……痛い目見ておきながら、まだのうのうと戦闘機に乗ってるとは──気に入らんなあっ!』
スカーレットの声に、荒々しい感情が宿る。
『なら今度こそ、貴様らの甘っちょろい夢を粉々に砕いてやってもいいんだぞ!』
「また、そういう事する気なら──っ!」
夢という言葉に反応したのか、ストームも受けて立とうとした。
操縦桿を握る手に、力が入る。
「ダメだストーム!」
だが、ツルギはそれを制止した。
はっと我に返ったストームは、操縦を思い止まった。
代わりにツルギが、冷静に返答する。
「何が遭ったのかは知りませんが、撃ちたければ好きに撃てばいいです。それで気が済んだら帰ってください」
ここで挑発に乗ったら、それこそあの時の二の舞になってしまう。
それに気付いてくれたから、ストームも思い止まったのだろう。
どうせ相手は模擬戦をしていただけだから非武装だ。「撃たれた」ところで死ぬ事はない。
なら、相手の好きにさせようとツルギは思ったのだ。
『何だと──っ!』
それが、スカーレットを逆上させたらしい。
グリペンが加速し、ストーム・ツルギのF-16の前へ出る。
『そんな減らず口を叩いた事を、後悔させてやる!』
そのまま、目の前を左へ横切るように軽く旋回。
グリペンの小さなエンジンノズルが、こちらに向いていたのがはっきり見えた。
途端、機体が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「エンジン排気──!」
ストームが言った通り。
グリペンの排気が、機体を直撃したのだ。
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