むしろナイスミドルです!
ムスペル飛行場は、小さな飛行場である。
1本しかない滑走路の長さは、2300m。小型の旅客機しか離着陸できない長さである。
まさに、田舎の飛行場と言った趣である。
この飛行場こそが、ストーム達第1435飛行班の学び舎なのだ。
「起立」
たった4人しかいない小さな教室に、オフィーリア教官の号令が響く。
ツルギ以外の3人がすぐさま起立すると、オフィーリア教官が中に入ってくる。
もちろんツルギは起立したくてもできないので、姿勢を正す事しかできない。
オフィーリアも、そこはわかっているので指摘はしない。
「着席」
再度の号令で、3人が着席する。
教壇についたオフィーリアは、早速話し始める。
「おはよう。今日からいよいよ、このムスペル飛行場での授業を開始するわ。もう確認しているとは思うけど、今日は午前中が座学、午後が実習飛行の予定。実習飛行は、安全に実習を行えるよう、今後一週間はこの飛行場と周辺空域に慣れてもらう慣熟飛行という形になるわ。そんなあなた達に、最初に教えておきたい事があるの。それが、これよ」
オフィーリアは、黒板の右側に貼られている張り紙を指した。
それは『TEN OF R.T.I.AF RULES FOR AIR FIGHTING』と題されており、さらに10の英文が続けて書かれている。
「『スルーズ諸島空軍空戦十箇条』。我が軍における空中戦の心構えよ。空中戦はもちろん、通常のフライトにも活かせるものだから、しっかり覚えておくように」
1:索敵を怠るな。敵はどこから来るかわからない。
2:射撃時は何も考えるな。落ち着いて狙いを定めろ。
3:戦闘中は30秒以上まっすぐ飛ぶな。
4:一度見つけた敵は、絶対に見失うな。
5:深追いはするな。すぐに別の敵が来る。
6:いつでも出撃できるよう、体調は万全にしておけ。
7:即断せよ。迷いは大きな隙を生む。
8:チームワークを忘れるな。1人きりでは戦えない。
9:空では何が起こるかわからない。片時も油断するな。
10:自分を信じろ。仲間を信じろ。勝利を信じろ。あきらめるな!
朝礼を終えてからは、早速座学が始まった。
オフィーリア教官自らが教鞭を振るう授業を、4人は真剣に聞く。
とは言っても、授業内容は決して簡単なものではないし、集中力には個々人で限界があるというもの。
集中力が切れて度々ウトウトしそうになったフェイは、サハラにこっそりと注意される。
そしてツルギは、慣れない異国での授業という事もあり、ついて行くだけでも大変で、何度かストームにフォローしてもらった。
もちろん、体を動かす体育の授業もある。
小さな飛行場を、ランニングで何度も周回するのだ。
とはいえツルギは足を動かせないので、専用の車いすを用意してもらった。
両腕の力だけで車いすを走らせるのは、ツルギにとって慣れない運動であったが、ストームが併走しながら応援してくれた。
そんな2人の様子を微笑ましく見ながら、フェイとサハラが後に続く。
そして午後になったら、いよいよ実習飛行の時間だ。
* * *
ここは、格納庫の中。
実習飛行を始める前に、ツルギ達はこれから搭乗するF-16Bについて説明を受ける事になっていた。
予備機として保管されている機体の前に立ち、張り切った様子で説明を担当するのは、
「はい、今回はこのシロハが、F-16Bについて説明させていただきます」
シロハであった。
どうやらこれも、彼女の授業の一環らしい。
故に、横からオフィーリア教官が、採点役として静かに見守っている。
「さて突然ですが、クイズです。このF-16Bは、いつ造られたものでしょーか? はい、そこのお兄ちゃん!」
開始早々、シロハがツルギに名指しで質問を投げかけてきた。
「え!? 僕!?」
「ヒントは、機体のどこかに書いてあります」
とはいえ、指された以上は答えなければならない。
ツルギは与えられたヒントを手がかりに、答えを探る。
機体をさっと素早く観察したツルギは、垂直尾翼に手がかりを見つけた。
それは──
「1992年?」
「せいかーい!」
正解を言い当てた事に、シロハは嬉しそうだ。
「おおー、すごーいツルギ!」
ストームが、自分の事のように喜んで拍手する。
「この機体がいつ造られたのかは、
シロハが言う通り、垂直尾翼の根本──バインドルーンの紋章の下に、「92-1018」という番号が書かれている。
これが、個々の機体ごとに振られる、
「この番号の最初の2桁が、製造年の下2桁なんです。つまり、この018号機は、1992年製という訳です」
「ちなみに、その018の前の1は何なんや?」
フェイが、試すように手を挙げて質問する。
「いい質問ですねー。これは、機種の区分を示す番号です。1番は戦闘機を意味しますので、実質F-16専用ですね。つまり、全部合わせると『1992年製のF-16戦闘機018号機』って感じの意味になりますね」
「おお、やるなあ……」
シロハの滑らかな説明に、手を下ろしたフェイも感心してしまう。
一方のツルギは、航空自衛隊とほぼ同じでよかった、と胸を撫で下ろした。
シロハは、さらに説明を続ける。
「話を戻しますが、この018号機はもうすぐ30歳という事になります。20を越えたらほぼ旧式になる飛行機の世界では、立派な壮年ですね。ですが、決してオンボロなんかじゃありません! むしろナイスミドルです!」
シロハの力強い宣言に、ツルギ達4人は揃って目を見開いた。
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