とりあえず、ベッド行こう

「はあ、何か調子狂うなあ……」


 気を遣われちゃうなんて、とツルギはため息をつく。


「じゃあ、あたしが直してあげる」


 と。

 ストームは両手でツルギの顔を自らへ向ける。

 至近距離で、2人の目が合った。


「え──」


 透き通った青い瞳に見入られてしまうツルギ。

 それも束の間、ストームは目を閉じ、ツルギと唇を重ね合わせた。


「ん……っ、んん……」


 艶やかな吐息を漏らしながら、ストームはツルギの唇を吸っていく。

 それだけでツルギは、頭が真っ白になってしまう。

 妹に気遣われた気まずさを、一瞬で塗り潰されるほどに。


「2人っきりになれたんだよ? だから、ツルギ──」


 唇を離したストームは、色っぽく見つめながら誘ってくる。

 ああ、ダメだ。

 やっぱり、ストームのかわいさには敵わない。

 そう悟ったツルギは、再び目を閉じて顔を近づけてきたストームに対し、


「とりあえず、ベッド行こう」


 とだけ言った。


 コックピットのフロントガラスを利用した窓から、月明かりが差し込む。

 その下で、バスローブを脱ぎ捨てたストームとツルギは、ベッドの中で激しく愛し合った。


「あっ……あん……あぁん……はぁん……っ」


 何度も激しく唇を重ね合わせ、大きく膨らんだ胸を揉みしだき、その先端にしゃぶりつく。

 ツルギがそうする度に、ストームは甘い声を上げた。


「ストーム……やっぱり、裸の時が一番かわいい……」

「ツルギも、裸が一番、かっこいいよ……」


 ますます欲望を掻き立てられたツルギは、本能のままにストームの豊満な女体を味わい尽くしたのだった。


 どれくらい時間が経ったのかは、すっかりわからなくなっていた。

 ひとしきり愛し合って落ち着いた2人は、ツルギの顔をストームの胸に押し当てる形で横向きに抱き合いながら、言葉を交わす。


「ツルギ、ありがと」

「えっ、どうしたの急に?」

「ツルギのおかげで、家族が1人増えて、すっごく嬉しかった」

「そ、そう? 僕は、ひょっとしたら嫉妬されるんじゃないかって不安だったんだけど……」

「嫉妬なんてしないよー。奥さんだけじゃなくて、お姉ちゃんにもなれたのが嬉しかったんだ、あたし」

「そっか、ストームは一人っ子だったんだもんな」

「やっぱりあたし、ツルギを好きになってよかった」

「そんなの、僕だって──」


 改めて見つめ合う2人。

 ほんの少しだけ、唇を重ね合う。


「おやすみ」

「うん、おやすみ」


 そしてようやく、2人は眠りについたのだった。


 翌朝。

 起きて支度を整えた4人が、居間に集まってくる。


「ういーす……」

「オハヨー……」


 フェイとサハラは、まだ寝ぼけまなこと言った様子だ。

 2人とは対照的にすっきり起きられた様子のストームが、元気よく挨拶する。


「おはよう! 夕べは眠れた?」

「いやあ……ハズレかと思ったけど、意外と悪くなかったなあ。なあサハラ?」


 答えたフェイに続いてサハラが、こくこく、とうなずく。

 一方のツルギは、まだちゃんと目が覚めていないながらも、シロハの姿が見当たらない事に気付く。


「そういえば、シロハは?」

「んん? 先に出たんやないか? 整備士の朝は早いし」


 フェイが答えた。

 朝に顔を合わせられないのは、ちょっと残念だな、とツルギが思った矢先。


「あっ、見て! 朝ご飯ができてる!」


 ストームが、居間のテーブルの上を見て気付いた。

 見れば、4人分の朝食がちゃっかり用意されていた。

 シンプルながらも、栄養バランスを考えられたメニュー。

 まだ温かそうで、できあがってからまだそんなに時間は経っていないようだ。


「いつの間に──」


 驚いていると、ツルギは朝食の傍らにメモが1枚、メモクリップに挟んで置かれている事に気付く。


「ストーム、そこにあるメモ取って」

「あ、うん」


 ストームに取ってもらい、ツルギはメモを読んでみる。


「これ、何?」

「えーと……? シロハからだ」


 みんなへ

 シロハは朝早いから先に出ちゃうけど、朝ご飯だけは作っていくからね。

 みんなが万全な体調でフライトに行ける事を祈りつつ、ね。

 それじゃ、飛行場でまた。

 シロハ


「シロハ……」


 まさかこんな事までしてくれるなんて、とツルギは感心してしまう。


「これ作ってすぐ登校したとか、アイツどんだけ早起きなんや……?」


 フェイがつぶやいた。

 起きてすぐ朝食を作って登校するなんて、簡単な事ではない事は容易に想像できる。

 シロハには感謝しないとな、と決めたツルギは。


「じゃあ、ありがたくいただこうか」


 4人で朝食を取る事にした。


     * * *


 朝食を終えたら、いよいよ登校だ。

 主翼の上にあたる玄関を出ると、常夏の強い日差しが目に染みた。

 今日の天気は良好。絶好のフライト日和と言えるだろう。


「よーし! おいしい朝ごはん食べたし、気合は充分! それじゃ、しゅっぱーつ!」


 ストームは元気よく言って、車いすを押し始める。

 フェイとサハラも後に続くが、サハラは西の空を見て、ぽつりとつぶやく。


「雲行キ……悪イ」


 サハラの視線の先には、大きな入道雲がある。

 低く垂れ込めた底の部分は、まさに暗雲という言葉通りに暗くなっていた。

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