からかうのも、いい加減にしてくれ!

「まだ言ってなかったけど、シロハはね、お兄ちゃんが乗る機体の整備をやってるの。だから飛行班でも、お兄ちゃんとストームさんをサポートする事になるし、これってもう家政婦みたいなものでしょ?」

「そ、そうだったのか……」

「それにシロハ、こんな欠陥品な体で結婚して子供作るつもりなんてない。だからね、お兄ちゃんと、お兄ちゃんを選んでくれたストームさんに尽くそうって決めたの」

「そ、そうなのか……?」


 ツルギは戸惑うばかり。

 結婚も子供を作る気もないと言われるのは、同じ家族として軽くショックでもあった。


「だからお願い。シロハを家政婦にして」


 とはいえ、上目遣いで懇願してくる妹を前に、ツルギは反論できない。


「僕は、別に構わないけど、ストームがなんて言うか……」


 こればかりは自分だけで決められないと、ツルギはストームに視線を向ける。

 突然話を振られたストームは、え、と少し驚きながらも、聞いてくる。


「家政婦になるって事は、家族が増えるって事、でしょ?」

「ま、まあ、大体、そんな感じかな……?」


 ツルギは慎重に言葉を紡ぐ。

 ひょっとしたら嫌がるかもしれないと、身構えながら。


「なら、あたしは大歓迎だよ!」


 が。

 あっさり笑顔で賛成した事に、ツルギは拍子抜けしてしまう。


「え!?」

「本当!? ありがとうストームさん!」


 途端、シロハは嬉しそうにストームへ駆け寄った。

 そして、両手をがっしりと握り合う。


「えへへ、どういたしまして! 一緒に学園生活がんばろう、シロハ!」

「うん! じゃあ、ストームさんの事、お姉ちゃんって呼んでもいい?」

「そうだね! あたし達、義理の姉妹だもんね!」

「ありがとう、ストームお姉ちゃん!」


 いつの間にか意気投合してるな、とツルギは呆然とする。

 仲良くなってくれるのは良い事なので、否定するつもりは全くないが。


「何か、凄い話になっとるな……?」

「……ウン。ふぇいモ、欲シイ?」

「いや。ウチらには、まだ早い気がする。アイツらが早すぎるんや」

「ソウ……」


 そして。

 話から取り残されたフェイとサハラは、居場所がなさそうな顔を合わせてコメントし合う。

 この後、夕食は再開されたのだが、話が長かったせいでポトフがすっかり冷めてしまい、温め直す事になったのは言うまでもない。


     * * *


 夜。

 麻雀対決で手に入れたコックピット部屋で、就寝する時間になった。

 共用かつひとつしかないシャワールームを使い終えたツルギは、入れ替わりでシャワールームへ向かったストームを、バスローブ姿で待つ。

 その間、シロハにベッドメイクをしてもらった。

 ベッドメイクは旅客機「ピクシー・スルーズ1世号」に乗った時も見たが、シロハの手際の良さは、その乗務員にも全く負けていないものだった。


「ねえお兄ちゃん。ストームお姉ちゃんのどこが好きなの?」


 そんなシロハは、手を動かしながら突然聞いてきた。

 不意を突かれたツルギは動揺する。


「え!? な、なんでそんな事を……!?」

「結婚の決め手は何だったのかなー、って思っただけだよ?」

「け、結婚の決め手……!?」


 そう聞かれても、ツルギは言葉選びに困ってしまう。

 ふっと思い浮かんだ「かわいい」というワードを、そのまま言う訳にもいかない。


「やっぱり、かわいいところ?」


 それを先読みしたかのように、シロハは言う。

 図星を差されたツルギは、またも動揺しながらも、何とか言葉を濁す。


「あ、あのねえ……それだけで決め手になるほど単純じゃないんだよ、結婚は……」

「へえ、かわいいって事は否定しないんだー?」

「か、からかうのも、いい加減にしてくれ!」


 つい反論してしまったツルギだが、シロハはそれさえも楽しそうに笑っている。

 このままごまかし続けても手玉に取られるだけだと悟ったツルギは、開き直り気味ながらもちゃんと答える事にした。


「ストームは僕に、前に進む力をくれた人なんだ。夢に向かってがんばってる姿を見てると、こっちもがんばりたいって思えるくらい……そんなストームだから、結婚してこのスルーズ諸島でやり直そうって、思えたんだ。だから僕、アメリカへ行ってF-16の操縦を習って、よかったなって思ってる」

「確か、F-2の操縦を習うため、だったよね? 習うための機体がないから代わりにアメリカのF-16で、って」


 うん、とツルギはうなずく。


「じゃあ、お兄ちゃんがF-2に乗りたいって思ってなかったら、ストームお姉ちゃんにも出会ってなかったんだ。偶然って凄いね……もう運命だね」

「それからシロハと、こうしてまた会えたのも、何かの運命かもな。お兄ちゃんがF-2に乗るならその整備士になるー、って言ってたんだから」

「うん、やっぱりシロハ、神様の事信じたくなっちゃった」


 よし終わり、とシロハがベッドメイクを終えた。

 ストームが戻ってきたのは、ちょうどその時だった。


「何話してたの?」

「いや、大した事じゃないんだけど──」


 振り返った瞬間、ツルギはまたも不意を突かれて言葉を失ってしまった。

 ストームはシャワーの後なので、もちろんバスローブ姿だ。

 だが、バスローブでも豊満な胸を隠しきれておらず、ツルギは目のやり場に困ってしまう。

 2人きりならともかく、今は近くに妹がいるのだ。変な態度を見せる訳にもいかない。


「ど、どうだったシャワーは?」


 適当に話を逸らしてごまかすツルギ。


「うん、とっても気持ちよかったよ! ほら、こんなにぽっかぽかー!」


 が、逆効果になってしまった。

 ストームが、いきなり抱き着いてきたのだ。


「わわっ!?」


 こんな時にスキンシップは、と言って離そうとしたが、できなかった。

 シャワーで温まったストームの体は、不思議といい匂いがする。

 当然、2人の体を遮っているのはバスローブのみ。

 故に、抱き締めてバスローブを脱がしたい衝動に駆られてしまう。

 だが、妹がいる前で、そんな事をする訳にもいかない。

 シロハに助けを求めようと視線を向けたが、彼女はこちらを見てニヤニヤと笑っている。

 間違いなく、2人の仲睦まじさを見て楽しんでいる顔だ。


「それじゃ、シロハは戻るねー」


 そして、場の空気を読んだかのように、部屋から出ていく。


はもうハッスルしてるみたいだから、お兄ちゃんも負けないでねー」

「ハッスル──ってシロハーッ!」

「おやすみなさーい」


 口にした事の意味に気付いて思わず呼び止めたツルギだが、シロハは構わずにドアを閉め、去ってしまった。

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