さあ来い! 一発ツモォ!
「ちょっと! トップなのにまだ攻める気!?」
「文句があるなら、かかってこいや! はっはっはっはっは!」
シロハの文句を、高笑いで跳ね除けるフェイ。
「むー! ダメ押しを狙うなんて、『勝者の余裕』って奴―?」
悔しそうに頬を膨らませるシロハ。
シロハの言う通りだと、ツルギも思った。
オーラストップ目で立直をかける必要は、普通ならない。
打点が安くても、あがれればいいのだから。
にもかかわらず、あえて立直したという事は、自分達を降ろすのが狙いだろう。
完膚なきまでに叩きのめしてやるぞ、と脅す形で。
いずれにしても、フェイは勝利へ王手をかけた。
甘い打ち方をすれば、その時点でフェイの勝利が決まってしまう。
次の牌次第では、降りて負けを認めなければならないかもしれない。
「ああ、ツルギ……負けないで!」
指を組んで祈るストーム。
一方のサハラは、何故か無言で呆然としている。
(頼む……!)
ツルギは、祈りながら山から牌を引く。
それを見た途端、ツルギは目を見開いた。
「……!」
一萬だった。
遂に聴牌したのだ。
だが、問題はここからである。
手牌に残った最後の牌、七筒を捨てるか否か。
河に全く見当たらないこの牌は、かなりの危険牌である。
捨てた瞬間に敗北が決まってしまう可能性もある。
しかも、ツルギの待ちもあまりいいとは言えない。
一萬か字牌の
お世辞にも、有利とは言えない形。
勝利をあきらめて降りる事も一瞬考えたが。
「いや、行こう!」
それでも、ツルギは七筒を捨てた。
どうせ後悔するなら、勝ちに行って後悔しよう。
そう判断して、捨てたのだ。
「ほう……」
フェイは、それしか言わない。
放銃は回避できたようだ。
続くシロハは、黙って字牌の
既にフェイの捨て牌にあるものなので、放銃する事はない。
そして。
「サハラ、見てな! ここで決めたる! さあ来い! 一発ツモォ!」
フェイは自信満々に叫びながら、牌を引く。
下手をすると、完膚なきまでの勝利が決まってしまう重要な牌である。
まさに、運命のツモ。
一同は、息を呑む。
「……へ?」
が、牌を見たフェイは、急に固まってしまった。
一瞬、顔が青ざめたように見える。
少なくとも、あがりではなさそうだが──
「どうしたの? 早く切ってよ!」
「……いや、何でもない」
シロハに促されフェイは、渋々といった感じで引いた牌を捨てる。
立直をかけてからは、あがるまでどんな牌でも捨てなければならないのがルールだ。
だが、その捨て牌は──
「あ、ロン!」
ツルギが待ち望んでいた、一萬だった。
「え!?」
フェイは元より、誰もが驚いた。
ツルギが、手牌を見せる。
「ま、まあ別に! 1回くらいの放銃ならくれてやっても──ん!?」
フェイは言い終わる前に、ツルギの手牌を見て目を疑う。
萬子、筒子、索子の全てで、「111」という並びが揃っている。
それに、鳴いている
「
「ええええええええ!?」
フェイが今まで獲得した点を奪い取ってあまりある威力の役となった。
呆然とするフェイの代わりに、シロハがフェイから点棒を取ってツルギに渡す。
さらに、今までの立直2回分の点棒も加わった事で、得点は48000点。
対して、フェイの得点は32000点。
勝負あった。
「という訳で! お兄ちゃんの勝ちー!」
シロハがボクシングのようにツルギの左腕を取って掲げ、勝利を告げた。
「ツルギーッ!」
すぐさま、ストームが嬉しさを爆発させてツルギの胸に飛び込んできた。
「ありがとうツルギ! かっこよかったよ!」
「うんうん! 調子乗ってた奴に一矢報いるお兄ちゃん、かっこよかった!」
「あはは、どういたしまして」
妻にも妹にも褒められてしまったツルギは、照れ臭くて思わず笑みが零れる。
「う、嘘やろ……!?」
一方、呆然とするフェイには、
「ふぇーいーっ!」
「あ」
サハラが不服そうに駆け寄ってきた。
「ナンデー!? ナンデ、スグ調子乗ルーッ!?」
「す、すまん! すまんて! これは、ウチの慢心や!」
頭をぽかぽかと叩いてくるサハラに、ただただ謝る事しかできないフェイであった。
わちゃわちゃした時間がしばし続いた後、ツルギとフェイが雀卓の前で改めて向き合う。
「ツルギ、見事やった」
突然勝利を称えられて、ツルギは少し戸惑った。
「あんな劇的な逆転勝利されたら、文句も何も言えへん。ウチの完敗や」
フェイはそう言って、右手を差し出した。
ノーサイドという事か、とツルギは気付く。
「ありがとう。フェイこそ、強かったよ」
「そりゃどうも」
がっちりと握手を交わす、ツルギとフェイ。
「これも何かの縁や。次麻雀打つ時は、誘ってもええか?」
「もちろん」
「言っとくが、次は負けへんからな」
「はは、その時はお手柔らかに」
そして、互いに笑みを交わし合った。
「おお、何か友情が深まってる?」
「良キらいばる出現、カナ?」
見守っていたストームとサハラも、どこか嬉しそうだ。
こうして、部屋を賭けた波乱の麻雀対決は、幕を閉じたのだった。
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