麻雀は運を掴み取った奴が勝つゲームやで!

 このスルーズ諸島では今、日本式の麻雀がちょっとしたブームになっているらしい。

 ツルギも、まさかこの異国の地で麻雀を打つとは思ってもいなかった。

 とはいえ、打つのはかなり久しぶりなツルギ。

 コックピット部屋がかかっている以上、変な事をしないように気を付けないと、と気を引き締めるのだった。


 こうして、ツルギ、フェイ、シロハの3人による麻雀対決は、ストームとサハラが見守る中始まった。

 雀卓にはトンナン西シャーペーの4つの「家」というポジションがあるが、3人麻雀では、その内北家を使わずに行う。

 最初は、東家トンチャにシロハ、南家ナンチャにフェイ、西家シャーチャにツルギが座る事になった。

 ルールは東風トンプウ戦。「親」になる東家を1人1回ずつ回すルールだ。

 持ち点は35000点。これを奪い合って一番点数が多い者の勝ちとなる。

 だが開始早々、いきなり波乱の展開となった。


「ダブル立直リーチや!」


 フェイが、初手でいきなり西を横向きに置き、点棒を賭けたのだ。

 オオ、とサハラが声を上げる。


「え!? 何がダブルなの!?」

「初手の立直ハ、2倍!」


 ストームに説明するサハラは、どこか得意げだ。

 いきなりアガリに王手をかけられて、立直という役の威力を倍増されてしまっては、ツルギとシロハは防戦に回らざるを得なくなる。

 とはいえ、場に捨て牌が何もない状態では、フェイがどの牌で待っているのかを推測できる手掛かりは全くない。守るのは困難だ。

 案の定、3巡目でシロハが引っかかってしまった。


「それロンや!」

「あっ!」


 フェイは、堂々と手牌を見せる。

 索子の「345」という並びが、2つある形だった。


「ダブリー、タン、ピン、一盃口! 満貫や!」

「ええーっ!? ダブリーでそれは反則でしょー!」

「何言うとんねん! 麻雀は運を掴み取った奴が勝つゲームやで! そんな訳で、まずは8000点な!」

「うう……」


 シロハは、悔しそうに点棒をフェイへ差し出す。

 これにより、フェイの持ち点は43000点に増えた。


「まずいな……」


 出だしから、かなり引き離された。

 ここから追い上げるには、満貫分以上の点数を稼がなければならなくなったのだ。

 だが、それは簡単な事ではない。

 このまま逃げ切られる可能性も、充分ある。


「イイヨ! イイヨー!」


 いつになくサハラは浮かれ気味だ。


「ツルギ、がんばって! まだ始まったばかりだよ!」


 一方のストームは、ツルギへ声援を送ってくれる。

 彼女の言う通り。

 次は親番だ。獲得点数が増え、しかもあがれれば連荘もできる、逆転のチャンス。

 焦らずに行こうと、ツルギは自分に言い聞かせるのだった。


 だが、せっかくの親番は防戦一方だった。

 配牌があまりに悪く、とても勝負できそうにない。

 一方のフェイは、勢いに乗って再び立直。

 これでは、完全に手も足も出ない。

 何とか流局できたものの、シロハ共々ノーテン罰符を支払う事になった。

 フェイの点数は45000点。

 対してこちらは1000点を引かれ、34000点。

 結局、何もできないまま、点差を広げられるだけで終わってしまった。


「ふふん、どうやら流れはウチの方に来てるみたいやな!」


 勝ち誇るフェイ。


「ツルギ、あきらめないで! まだ何かあるはずだよ!」


 応援するストームの声に、どんどん焦りが出てくる。

 こうして、とうとう最後の局──オーラスを迎えてしまった。

 11000点もの差から確実に逆転するには、跳満以上であがらなければならない。

 対してフェイは、どんな安くてもあがれれば勝利確定。

 あまりにも不利な戦い。

 下手をすると、配牌の時点でフェイの勝利が確定してしまうかもしれない。

 不安に思いながらも、最後の手牌を用意する。


「ん? これは──」


 ツルギは最後の手牌に、微かながら勝機を見出した。

 1の数牌が、全部で5枚。内、筒子と索子は2枚ずつ。

 そして、字牌もチュンが2枚ある。

 行けるのか、とツルギは半信半疑な一方。


「ほう……これは、もろたな!」


 フェイは勝利を確信したのか、にたりと笑う。

 それだけ、自信がある配牌という事なのだろう。


「……」


 一方のシロハは、難しそうな顔をして黙り込んでいる。

 序盤から大きく失点した以上、トップになれる可能性はほとんどないので、浮かない顔なのも当然である。

 実質、フェイとの一騎打ちになるだろう。


(やるしか、ないか……!)


 だが、フェイがどんな手であろうと戦いに行かなければ勝てないのだ。

 方針を決めたツルギは腹を括って、オーラスに挑んだ。


 ツルギはまず、チュンをポンして役牌を揃える。

 直後、字牌の西シャーが2枚揃う。

 狙い通りの形が、できあがってきた。


(これは、行けるかもしれない)


 さらに、一筒をポン。

 その後、一索が3枚揃い、暗刻となった。


(これなら……!)


 イーシャンテン。後1手。

 一萬をもう1枚引ければ、聴牌だ。


「随分わかりやすい捨て方しとるなあ、ツルギ?」


 フェイは、余裕綽々に言う。

 ツルギの捨て牌は、中張牌と呼ばれる2~8の数牌で固まっている。

 割と読まれやすい捨て方だが、狙う役の性質上、仕方がないものである。


「僕は捨て方をごまかせるほど器用じゃないし、ごまかすつもりもない。勝つにはもう、なりふり構ってられないんだから」

「なるほどな……」


 フェイが感心する中、シロハが静かに牌を捨てる。

 そして、フェイが山から牌を引く。


「……だが、ここまでのようやな」


 にたり、と笑うフェイ。

 引いた牌を手牌に加えると、


「ここはあえて、立直や!」


 捨て牌を横向きに置き、点棒を賭けた。


「ええ!?」


 フェイの予想外の行動に、ツルギもシロハも動揺する。

 それは、セオリー通りの行動ではなかったからだ。

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