裏口入学でもしたのか?
「ダメッスよ、そんな元気ない挨拶! みんな引いてるじゃないッスか!」
「いいだろ別に、接客業やってる訳じゃあるまいし……」
「そうじゃなくても第一印象は大事! ほらほら、まずはスマイルスマイル!」
「こ、こら! よせって!」
両手で無理矢理口角を上げさせようとするメイと、それに抵抗するバロン。
その様子は、じゃれ合っているようにしか見えない。
ツルギ達4人は、さすがに困惑する。
「な、なかなか個性的なお2人さんやね……」
「仲いいんだね……」
フェイとストームのつぶやきを聞いた2人は、揃って我に返る。
「いやあ、それほどでも!」
「そんなんじゃねえって別に。ほら、案内するぞ」
照れくさそうに頭を掻くメイに対し、さらっと流して本業に取りかかるバロン。
何ッスっかその言い方、と文句を言うメイを無視して、4人を案内する。
「お、おう……よろしゅうな」
戸惑いながらも答えたフェイに続く形で、案内されるツルギ達。
貨物ドアがちょうどスロープの役目をしているため、車いすでも問題なく通れる。
フェイとサハラが、先に入っていく。
その後に続こうとした矢先、ふと、ツルギとバロンの視線が合う。
何か思う所がありそうな冷たい視線を感じたツルギは、反射的に目を反らす。
「……なあ、お前」
だが、バロンの方から問いかけられてしまい、顔を戻す。
「その体で戦闘機乗りになるって、本当か?」
冷たい視線から、半分疑われているのは明らかだった。
「そうだよ! あたしと2人で! ねえ?」
ストームが代わりに答えた。
ツルギは、戸惑ったものの頷く。
だが、バロンの疑いの顔は変わらず、
「……裏口入学でもしたのか?」
そんな事をストレートに口走ってしまった。
「ちょ! 変な事言っちゃダメッスよ!」
メイが慌ててなだめるが、バロンは止めない。
「だって、足が不自由なのに飛行機を操縦できる訳ないじゃねえか。しかもこいつ、よその国から来たって聞くし。この国の人手不足もここまで来たら世も末だぞ」
「このスルーズ諸島は元から移民でできた国ッスよ!」
鋭い指摘だが、ツルギは苦笑するだけで反論はしなかった。
普通の人からはそう見られてもおかしくないだろうなあ、と思ったから。
だが、ぎり、と後ろでハンドルを握るストームの手に力が入ったのがわかった。
「メイ、こればっかりは納得いかねえ。こんな奴が、できもしない役職になろうとして認められるなんて、絶対何か裏が──」
「そうだよ。ツルギにはできない」
ストームが、いつになく真剣な声で口を挟んだ。
「でもツルギだって、あと少しで戦闘機パイロットになれた優等生だったんだよ」
「な──?」
優等生、という言葉に反応して少し怯んだバロン。
「足が悪くなっただけでなれなくなるなんて、夢も希望もないじゃない。だからあたしがいるの。あたしはね、ツルギの夢を叶えてあげるために、ここに来たの」
「だ、だから何だって言うんだよ?」
一触即発な雰囲気が漂い始める。
ツルギはメイ共々、何とか2人をなだめようとしたが、そこへ。
「なーにしてんだ、ひよっこ?」
太い声が、2人を背後から呼びかけた。
途端、バロンとメイは背筋が凍り付いたように、びくりと顔を強張らせる。
振り返るとそこには、いつの間にか1組の男女が立っていた。
2人共、緑のフライトスーツ姿で、肩には立派な階級章をつけていた。
男の方は口髭とがっしりした体格が特徴的だ。
対して女の方は、クールな雰囲気を醸し出しており、組んだ両腕で胸の大きな膨らみが強調されている。
そんな2人を目の当たりにして、慌てて姿勢を正して固まるバロンとメイ。
「こ、これはこれは、トーマス教官殿……」
「お客さんと無駄話する事が、お前の仕事か?」
メイにトーマスと呼ばれた男の方が、どっしりと両腕を腰に当てて言う。
「そんな事をしている暇があったら、早く重量計算をしてこちらに渡せ」
続けて、女が冷静に語る。
「も、申し訳ありませんっ! これは、ワタシら2人の連帯責任ッス!」
メイは、とっさに頭を下げつつ、手で無理矢理バロンの頭も下げさせる。
バロンも、これには抵抗しなかったが、小声で本音が漏れていた。
「……はあ、俺に適性があれば、こんな雑用なんて──」
「何か言ったか?」
「い、いえ! 何でもありません、ライカ教官!」
ただ、ライカというらしい女の鋭い眼差しを向けられては反論できない様子だった。
「ささ、早く仕事に戻るッスよ!」
「わ、わかってる!」
メイに背中を押される形で、機内に入っていくバロン。
そんな2人の後姿を、ぽかんと見送るツルギ。
「すまねえな、バロンの奴が生意気な事言って」
すると、トーマスが軽くながらも謝罪した。
「ああ見えてあいつ、元々はパイロット志望だったのさ。適正がなくて落ちちまったのが、今でも未練がましいみたいでな、だからお前さん達に嫉妬しちまったんだろう」
「そ、そうだったんですか……って、僕達の事、ご存じだったんですか?」
「まあな。お前達は空軍でもそれなりに話題になってるからな。その内テレビ局が嗅ぎつけてくるかもしれないぞ?」
トーマスは、にかっと笑う。
「トム、時間がない」
「おっと、そうだな」
ライカに冷静に指摘されたトーマスは、改めて2人に自己紹介する。
「俺は機長のトーマス・グラハムだ。こっちは副操縦士のライカ。フライトの間の短い時間だが、よろしく頼む」
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