何、あのヘンテコな飛行機?
短いフライトも、終わりに差し掛かった。
キングエアは、スルーズ諸島で一番混雑する空域に入る。
そこは、スルーズ諸島最大の都市、エリス市の上空。
ビルが立ち並ぶ近代的な大都会であるこの都市は、この国の物流拠点でもあり、この国最大の空港がある。
それが、エリス国際空港。
今日もひっきりなしに世界各地の旅客機が離着陸しているこの大空港は、ツルギがこの国に招かれた際も世話になった場所である。
U字型に並ぶ3本の滑走路に挟まれる形で、ターミナルビルが置かれているのが見える。
だが、残念ながら今回着陸するのは、この空港ではない。
滑走路が描くU字の左側、少し離れたところに、別の滑走路が平行に1本伸びている。キングエアが着陸したのは、そんな4本目の滑走路だった。
その滑走路を使うのは、きらびやかな大空港とは全く趣が異なる、無骨な飛行場。
ここが、キングエアの目的地・エリス空軍基地である。
* * *
キングエアは広々とした
しかし、のんびりしている暇はない。ツルギ達は降りるとすぐに荷物を降ろし、オフィーリア教官に案内されるまま、足早にキングエアから離れる。
次の飛行機に、乗り換えるためである。
「いやあ、大型機の基地だけあって、相変わらず広いなー」
「ここは、大型機の基地なのか?」
「そや。ついで言うと、軍の物流拠点でもあるんやで。そういうとこは向こうと同じ。言わば、軍のハブ空港やな」
フェイは、エリス国際空港を指さしながら、ツルギに説明する。
「あぁー、空港デートできる時間あったらよかったのにー」
「まあまあ、ちゃんと休みの日に行こうよ」
残念がるストームをなだめていると、ツルギは見た事がない飛行機が
グレー一色で、太い胴体に背負うように取り付けた高翼配置の翼から、ジェットエンジンを2つぶら下げている。
旅客機とは違う、熊のような逞しいフォルムだ。
垂直尾翼のバインドルーンの紋章、胴体の『R.T.I.AIR FORCE』の文字から、空軍機であるとわかる。
「あれは……」
「ミレニアムだよ」
ストームが、カメラを向けながら答えた。
「ミレニアム?」
「知らない? C-390ミレニアム。今世界中で注目されてる、新型輸送機なんだよ」
へえ新型か、とツルギは感心する。
さらに、フェイが補足する。
そんな時、ふとジェットエンジンが唸る音が、滑走路から聞こえてきた。
「あ、何か離陸するよ!」
ストームが声を上げる。
見慣れない飛行機が滑走路から飛び立つのを見た。
胴体の後ろにジェットエンジンを2つ付けた、リアエンジンと呼ばれる形式の機体だ。
だが、そのフォルムは、かなり異質だった。
何せ、胴体がまるで腫れ物でもできているかのように、醜く膨らんでいるのだ。
バインドルーンの紋章と『R.T.I.AIR FORCE』の文字が見えたので、空軍機なのは間違いないのだが──
「行ってらっしゃーい!」
ストームは、そんな飛行機が飛び立っていくのを、手を振って見送りながらデジタルカメラを構えていた。
「何、あのヘンテコな飛行機?」
ツルギが問うと、フェイがぷぷっ、と噴き出して笑った。
「まあ、確かにそやな。アレを初めて見たら、みんなそう思うわな。な?」
「ウンウン」
サハラも同感とばかりに頷いている。
「あれはね、E-550Aっていう早期警戒機だよ」
ストームの説明に、ツルギは耳を疑った。
「え? 早期警戒機? あれが?」
早期警戒機とは、言うなれば空の見張り役だ。
レーダーを使って、空の異変をいち早く察知するのが任務である。
だがツルギがイメージしたそれは、目の前を飛んで行った飛行機とは全く違うものだった。
「そう。CAEWって言ってね、胴体で膨らんでた部分は全部レーダーなんだよ」
「早期警戒機って、背中にレーダー背負ってるのが普通なんじゃ……?」
「そうだけど、あれが次世代の新しいスタイルなんだよ」
「次世代の新しいスタイルか……」
世の中わからないものだなあ、とツルギは思った。
あれにソレイユが乗っていたのか、と思うと不思議な気分になるが。
「みんな、乗るのはこの機体よ」
オフィーリア教官に呼びかけられて、一同の話が止まる。
これから乗り込む機体──並んでいたミレニアムの1機の前に到着したのだ。
近くで見ると、輸送機なだけあってやはり大きいな、とツルギは感じた。
胴体後部──尻にあたる部分は、大きく下向きに貨物ドアが開いている。ここから乗り込むのだ。
「ほらほらセンパイ、お迎えするッスよ!」
「わーってるって……」
そこから、早速出迎えが現れた。
オレンジ色のツナギ──航空要員の証たるフライトスーツを着た、1組の男女だった。
男子の方は、やさぐれた顔をしており、やる気がなさそうに黒い髪の毛を掻いている。
一方、女子の方は、逆にハツラツとした印象だ。
「ちわーッス! 今日はようこそおいでなさいましたー!」
女子が代表して元気よく挨拶する。八重歯を見せながら、にこやかな笑顔で。
オフィーリア教官が、代表して同じく笑顔で答える。
「あなた達が、この機体のロードマスターかしら?」
「その通りですー、教官殿! ささ、どうぞお先にご搭乗くださいませ! 機長殿がお待ちしておりますので!」
「ありがとう。ではお先に」
女子に案内されたオフィーリア教官は、先に乗り込んでいく。
それを見送った女子は、残った4人に対し自己紹介を恥じ塩田。
「えー、さてさて! 第1435飛行班の皆さん! 同じ実習生ではありますが、このフライトの案内役・ロードマスターはワタクシ、メイと、こちらの男爵殿が勤めさせていただくッス!」
「やめろその呼び方。ああ、俺はバロン。別に偉い人じゃねえから」
メイと名乗った女子の紹介が不服だったのか、面倒くさそうに名乗る男子。
2人はロードマスター──つまり積み荷を管理する乗組員の実習生だった。
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