それが今のあたしの目標!
キングエアが、ファインズ基地を離陸した。
とはいえ、これは大スルーズ島を跨ぐ短距離便なので、フライト時間は30分にも満たない。そのため、上昇したと思ったらすぐに降下する、弾道飛行になる。
それでも、ツルギ達にとっては貴重な休息時間。
通路を挟んで2列に並んだ座席で、各々がくつろいでいた。
「ああ、麻雀打てへんと退屈やなあ……」
とはいえ、この機体は旅客機ではないので、Wi-Fiがなくインターネットは使えない。
ツルギの後ろに座るフェイは、そのせいで退屈な思いをしているようであった。隣のサハラは、窓から外を無言で眺めているが。
「ブルーレイブンズ、やっぱりかっこいいなあ……!」
ストームは始業式で撮影した写真を、カメラで確認している。
にやにや笑っているストームの姿が、隣にいるツルギには心底楽しそうに見えた。
ただ、そんなストームも残念がっていた事が、ひとつだけ。
「ああ、パイロットさんも撮りたかったなあ……」
「リモート飛行だったからね。今度、離陸から見られる航空ショーに行こうか?」
「そうだね! 航空ショーデート大賛成! 後で調べてみよっと」
アクロバットチームの演技では、パイロットの搭乗や離着陸さえも演技のひとつになっているのだが、今回は別の飛行場から飛んでくる『リモート飛行』であったため、それをお目にかかる事はできなかったのだ。
「ズットにやにやシテル、すとーむ」
その様子を、サハラが覗き込んでいた。
そしてフェイも、割り込んでくる。
「ストームはブルーレイブンのファンなんか?」
「うん!」
ストームは振り返って即答した。
そして、胸を張って語る。
「あたしね、ブルーレイブンズのパイロットになるのが夢なの! そのためには、優秀な戦闘機パイロットにならなきゃいけない! つまり最強のパイロット! トップガン! それが今のあたしの目標!」
「ほー、それはええなあ」
「で、ツルギは小さい頃から戦闘機乗りになるのが夢なの! ね?」
「え? あ、うん」
突然ストームに自分の夢を話されて、ツルギは少し照れ臭くなる。
「へー、で、お互い留学先のアメリカで出会ったっちゅー感じか」
「まあ、そういう事」
「そーやったんか……んでも、残念やったな」
フェイがぽつりと口にした途端、場の空気が一気に重くなる。
気まずい雰囲気。
「……ふぇい」
サハラが、フェイをじっと横目でにらみ注意した。
「あ、ああ! すまんかった! 別に悪気はなかったんや! ただ、ウチと似たようなもんやなって──いや全然似てへんか! とにかく、変に同情して気を悪くしちまったなら、すまん!」
似たようなもん、という言葉が引っかかるツルギ。
フェイにも何か事情があったのだろうか、と。
「ねえ、フェイの夢って何?」
ストームに逆に質問され、え、と戸惑うフェイ。
「そ、そんな人様の夢なんてええやろ」
視線を泳がせるフェイ。
聞かれたくない事だっただろうか、とツルギは思った。
「さはら、強クナリタイ」
代わりに答えたのは、サハラ。
「強くなるのが夢って事?」
「ウン。ふぇい、頼リナイ、カラ」
「お、おい! ここで言わんくてええやろ!」
「ふぇいニハネ、さはらガイナキャ、だめ」
フェイが恥ずかしがって思わず口を挟んだが、サハラはお構いなしに続ける。
「んな事ないで! ウチだって自立した男や! サハラに頼りっぱなしなんて全然──」
「ヘー。昨日、アンナニ空デ、ぱにくッテタ、ノニ?」
「う……それは、言わんといてくれや……」
そして、痛い所を指摘されて、フェイは反論できなくなってしまった。
「いいじゃない! 強くなるの大事大事! 一緒に強くなろう!」
「ウン、ウン!」
ストームに褒められたサハラは、どこか嬉しそうにうなずく。
一方、公開処刑されたとばかりに肩と落としたフェイを見て、ツルギは苦笑するしかない。
「次、ふぇいダヨ」
そして、サハラはフェイに話を振る。
もうみんな言ったんだから、とばかりに。
「い、いや、ウチはええって──」
「アカン」
「ど、どうしても言わなあかんか?」
「アカン!」
男でしょ、と言わんばかりに、サハラが手を伸ばしてフェイの肩を軽く叩く。
そんなやり取りを見て、ツルギはストームと苦笑する。
サハラの言う通りかもしれないな、と。
「はあ、しゃーないな……ウチの夢はな! スルーズ諸島航空に入る事ですっ!」
フェイは半分開き直ったように告げた。
「スルーズ諸島航空って、僕達が乗ってきた旅客機の──」
「そう、それ! 王室が運営するフラッグキャリアや!」
ツルギの反応を聞いて、フェイのテンションが少し上がる。
フラッグキャリアとは、国を代表する航空会社の事。すなわち、その国における航空会社の最大手と言っていい。
「でもそれなら、どうして空軍に? 直接入社する気はなかったのか?」
だが、素朴な疑問が浮かぶツルギ。
痛い指摘だったのか、ずるっ、と姿勢を崩すフェイ。
「ひょっとして、空軍で経験を積んでから入る、とか?」
ストームがフォローする。
「え?」
「スルーズ諸島航空にはね、空軍出身の人がたくさんいるんだよ。パイロットにも、整備士にも。空軍の人は腕がいいって評判みたいでね」
「ああ、そうだったのか」
ツルギは納得した。
経験者が有利なのは、どんな仕事でも同じである。
「まあ、そういうこっちゃ。転職前提で入るなんて、なんつーか、変な話やろ?」
「ううん! 将来設計がしっかりできてていいと思うよ!」
ストームの言葉が予想外だったのか、ぽかんとするフェイ。
「サハラ、ウチ褒められた……」
「ヨカッタネ。ヨシヨシ」
まるで犬を褒めるように、フェイの頭を優しく撫でるサハラ。
そんな2人を見て、はあー、とこちらまでぽかんとしてしまうツルギとストームであった。
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