見たか! あたしのダイブ&クライム戦法!

 ツルギはすぐ、サハラ・フェイ機に呼びかけた。


「リーダー機、そのまま相手を引き付けててくれるか?」

『へ!? このまま囮になれっつーのか!?』

「その間にこっちが位置に着く!」

『……りょーかい!』


 フェイは困惑した一方、サハラは意図に気付いたらしく、すぐさま了承。


「こっちは高度を取って上手を取ろう!」

「……なるほど! ウィルコ!」


 そして、ストーム・ツルギ機は上昇を開始。


『そ、そうか、わかったで! さあさあ! しっかりついて来いよ!』


 サハラ・フェイ機は、急旋回で相手のM-346を誘い込む。

 相手のM-346は、相も変わらずサハラ・フェイ機を追い続け、うまく誘いに乗ってくれている。

 その間、ストーム・ツルギ機は2機の1000m以上も上昇し、ちょうどサハラ・フェイ機の上手に陣取る。

 高いところが有利なのは、地上戦でも空中戦でも同じ。

 位置エネルギーを高く取れれば、それを活かして鋭い急降下ができるのだ。

 見下ろせば、今なお2機のM-346が急旋回を繰り返しながらチェイスを続けているのが見える。

 今のところ、相手のM-346がこちらに気付いている様子はない。


「位置に着いたよ! ツルギ、行く?」

「待って。あれだけ急旋回していたら、そろそろ向こうもバテて来るはずだ」


 ツルギは、チャンスを待ち続ける。

 急旋回は、いつまでも続けられる訳ではない。

 激しいGで肉体的にも大きく消耗するし、何より飛行機の命たる速度が犠牲になってしまうからだ。

 速度が落ちて動きが鈍った時が、攻撃のチャンス。

 そして、その時が来た。

 相手のM-346の動きが、目に見えて鈍った。サハラ・フェイ機を追い続けられない。

 すかさず、ツルギは叫ぶ。


「今だ!」

「ウィルコ! 行っくよーっ!」


 壊れた酸素マスクを脱ぎ捨てて答えたストームは、思い切り左に操縦桿を倒し、機体をひっくり返す。

 それから操縦桿を引き、頭から急降下。

 重力に身を預け、速度がどんどん増していく。

 まるで地上の獲物を狙う猛禽のごとく、相手のM-346の頭上を狙う。

 相手もさすがに気付いたようで、すぐに切り返して回避。

 相手の姿が頭上へ流れていっても、急降下を続けて離脱。

 その時、どーん、と何かがぶつかったような音がした。

 ツルギは驚いて振り返ると、機体が傘のような雲に包まれていたのが見えた。

 それはまるで、機体が雲の膜を突き破ろうとしているようにも見えた。

 まさか、と目の前のHUDの速度表示に目を向ける。

 表示されている速度は、「M1.0」。


「音速!?」


 機体は、急降下の勢いで音速を超えていた。

 ツルギは信じられなかった。

 ジェット機の全てが、音速を超えられる訳ではない。

 戦闘機が超音速で飛べるのは、アフターバーナーという加速装置があるからだ。

 だが練習機であるM-346には、装備されていない。

 にもかかわらず、急降下の勢いだけで音速を突破したのだ。

 例えるなら、自転車が坂を下る勢いだけで全速力のレーシングカーに追いついたようなものである。

 そんな事ができる練習機など、ツルギは聞いた事がない。

 だが、ツルギに1秒たりとも驚いている暇はなかった。


「上昇!」


 ストームが操縦桿を引いた。

 音速のまま、上昇に転じるストーム・ツルギ機。

 途端、凄まじいGが体を押し潰さんばかりにかかった。


「ぐぅぅぅぅ!?」


 耐えようと力んだのも空しく、ほんの一瞬で視界が黒く染まる。

 そのまま、意識まで黒く塗り潰されていく。

 自分がなぜこうなっているのか、わからなくなるほどに。

 頭の血が一瞬で下がり、ブラックアウトが起きたのだ。

 頭の血が下がり続ければ、頭の血が空っぽになる。

 そうなれば、脳は酸欠状態になり、最悪の場合、意識を保てなくなってしまう。

 僅か数秒間でツルギの意識はGに押し潰され、危うく手すりから手を離しそうになった。


「──っ!」


 しかし、すんでのところで視界は戻り、ツルギは意識を失わずに済んだ。

 機体は勢いよく上昇に転じている。

 急降下した勢いを利用すれば、ジェットコースターのように一気に上昇に転じられる。音速を超えていたなら、猶更だ。

 正面に、相手のM-346の腹が見えた。

 今度は相手の下から、襲い掛かる形だ。


「ファンネルに捉えるよ……!」


 ストームの眼前にあるHUDには、下方向に流れる吹き流しのような表示が映されていた。

 これがファンネルで、この間に挟み込む形で相手を捉えられれば、狙いが定まるのだ。

 相手のM-346の姿が、ファンネルの間に追い込まれていく。

 そして遂に、相手の姿がファンネルに挟まれた。


「今だっ! ばーん!」


 操縦桿のトリガーを引くストーム。

 これが実戦ならば、銃声と共に機関砲の弾丸が飛んで相手のM-346を貫いただろう。

 そのまま、相手のM-346を追い抜く形で離脱するストーム・ツルギ機。


「見たか! あたしのダイブ&クライム戦法!」


 ストームが叫んだ瞬間、勝敗が決した。


『レインボー2、敵機撃墜! ゲームセーット!』


 またしても、かんかんかんかーん、というゴングの音が無線で聞こえた。

 そしてソレイユが、ハイテンションに宣言する。


『レインボーの皆さん、ボーナステージクリアーッ!』

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