あたし達も離陸するよ!

『レインボーへ。滑走路04への進入を許可』

『滑走路04への進入許可、了解』


 滑走路へ入る許可が出て、フェイが復唱する。

 2機のPC-21は、誘導路を通って滑走路へと向かっている最中だ。

 他に離陸に向かう飛行機はいないため、移動そのものは至ってスムーズ。


「スピードブレーキ、格納! フラップ、離陸位置!」


 その間も、ストームは離陸の準備に大忙しだ。


「ツルギ、シートベルト!」

「大丈夫!」

「座席の安全ピン!」

「抜いてある!」

「よし、離陸前チェックリスト完了!」


 これで、離陸の準備は整った。

 2機は大きく「04」と書かれた滑走路に入った。

 滑走路に書かれたこの数字は、滑走路が向けられている方位の上2桁を示している。04は方位40度──およそ北東辺りになる。

 その数字の上を通り過ぎ、右斜め向きのエシュロン隊形に並んで停止。先頭のサハラ・フェイ機を右斜め前に見ながら、ストーム・ツルギ機が並ぶ形だ。


管制塔タワーへ。レインボーチーム、離陸準備完了』


 フェイが管制塔へ宣言する。

 後は、離陸の許可を待つだけだ。


『レインボーへ。滑走路04からの離陸を許可』

『離陸許可、了解』


 遂に離陸許可が出た。

 フェイは許可を復唱した後、ストームとツルギへ呼びかけた。


『ほな、ウチらが先に行くからな! しっかり追いついてこいよ!』


 フェイが手を振っているのが見えた。

 サハラは離陸前に左右の安全を確認。


『右、ヨシ。左、ヨシ。離陸推力!』


 サハラ・フェイ機が先に離陸を開始。

 プロペラの回転数を上げたサハラ・フェイ機は、エンジンパワーに任せて加速しながら滑走路を駆けていき、そのまま機首を上げて浮かび上がった。

 教科書通りの、滑らかな離陸だった。

 サハラ・フェイ機が豆粒ほどにしか見えなくなるほど飛んでいったところで。


「さあツルギ、あたし達も離陸するよ!」


 ストームはゆっくりと、スロットルレバーを押し込んだ。

 エンジン出力が最大近くにまで上がると、機体が加速し始め、離陸への助走が始まった。

 周りの景色がどんどん後ろへ流れていく。

 近づいていく離陸に気分が高揚するツルギ。この加速感は、パイロットにとって最もテンションが上がる瞬間のひとつなのだ。

 20秒ほど加速して、ストームがゆっくりと操縦桿を引く。

 すると、機首がゆっくり上がってふわり、と地面から浮かび上がった。

 すかさず、ストームは左手をスロットルレバーから車輪ギアを格納するレバーに持ち替える。

 レバーを上へ倒すと、コックピットの真下から、機械が動く音がした。

 同時に、レバーのすぐ側にある3つのライトが、緑から赤に変化し、音が消えると同時に消灯した。

 全ての車輪ギアが、格納された証だ。

 空気抵抗が少なくなり、緩やかながらもぐんぐん上昇していく中で、ストームは高らかに宣言した。


「レインボー2、離陸完了エアボーン! このまま追い付くよ!」


 ぐんぐん加速して、まっすぐ飛び続けるサハラ・フェイ機を追いかける。

 豆粒ほどにしか見えなかった機影が、どんどん近づき大きくなっていく。

 ストームはエンジンを絞って速度を調整。

 近づいていくほどに速度を少しずつ落とし、ゆっくりと、しかし滑らかに近づいていく。


合流ジョインナップ!」


 サハラ・フェイ機の左後ろにピタリとつけたところで、ストームが叫んだ。


『おお、思ったより早く来たな』


 フェイが、後席からこちらを見ているのが見えた。

 一方、前席のサハラは、操縦に専念しているので、正面を見たままだ。


「これくらいは簡単だよ!」

『言うやないか』


 ストームの得意げなつぶやきに、フェイは感心している様子だ。

 そんな中で見下ろせば、洋上へ出ていた事に気付くツルギ。

 ディスプレイの表示を見ると、高度は1万フィート。およそ3000mだ。

 他に飛んでいる飛行機は見当たらないので、空は完全に4人の貸し切り状態だ。


「どう、ツルギ? 乗り心地は?」

「──うん、最高だよ。やっぱり、高速ジェット機っていいものだ」


 ツルギはただただ、見とれていた。

 タンデム式コックピットからの眺めは絶景だ。

 水滴型のキャノピーは、360度遮るものがない良好な視界を提供してくれる。窓からしか眺められない旅客機の客席とは訳が違う。

 一応、後席の正面には前席という障害物があるが、後席は前席よりも一段高く配置されているので、正面もしっかり見える。

 文字通り、鳥になった感覚。

 無限に広がる青い空に包まれる感覚。

 ぽつんと浮かぶ積雲の上を、その身で駆けていくような感覚。

 これらを実体験できるのは、パイロットの特権と言えるだろう。

 それを、しばし味わっていると。


『おーし、到着したでー! そんじゃ、編隊飛行を始めよか!』


 フェイがいきなり、気合を入れるように声を張って宣言する。

 どうやら、指定された空域に到着したようだ。


「ウィルコ! あたしもツルギも、いつでもOKだよ!」


 ストームは元気よく答えた一方で。


『だそうやで、サハラ? ウチらも負けてられんでー!』

『……ふぇい。ソノてんしょん、何?』


 サハラは、どこか不満そうに訴える。


『そりゃあ、仕切るからには上げてかんと! 黙ってウチについて来ーい! ってな! ははははは! はははははは!』

『……ハア』


 サハラが、呆れた様子でため息をひとつ。

 急なフェイの変わりように、ついて行けてないようだ。

 ツルギは何となく、サハラの気持ちがわかった。

 フェイは、どこか自分を奮い立たせようとしているように見えたのだから。


『じゃ、始めるで! まずは右に360度旋回や!』

『りょーかい』


 仕方ないな、とばかりの返事をして、サハラは編隊飛行の号令をかける。


右旋回らいと・たーんなう!』

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