行ってきまーす!
「じゃ、キャノピー閉めるよ!」
「あ、わかった」
「キャノピー・クローズ、ナウ!」
まずストームは、キャノピーに手を伸ばして手動で閉める。
ロックした瞬間、がちゃんこ、とストームはつぶやいた。
「バッテリー、オン!」
ストームの操作で機内に電源が入り、ディスプレイが次々と起動し始めた。
各種システムに異常がない事を確認したら、エンジン始動だ。
「全部異常なし! それじゃ、エンジン始動!」
ストームは正面で見守る整備士に対し、右手の人差し指を軽く回し合図を送ってから、左脇のコンソールにある始動スイッチを押す。
すると、PT6A-68Bエンジンがタービンの金属音を響かせ始め、プロペラがゆっくりと回り始めた。
ディスプレイを見ると、エンジンの回転数を示す数字が30、40、50とゆっくり増え始め、それに合わせてプロペラの回転数も上がっていく。
機外では、翼端にある白いライトが点滅を始めている。衝突防止灯というこのライトが点滅したら、機体が「目を覚ました」証拠だ。
最後に、ストームは5秒ほどスロットルレバーを押してエンジンをふかし、異常がないか確認する。
「パワー、問題なし! エンジン始動チェックリスト完了!」
これで発進できるかというと、そうではない。
「次は移動前チェックリスト!」
航空機というものは、自動車のようにエンジンを始動してすぐ発進という訳にはいかない乗り物である。
一度飛び立ったら何か遭ってもすぐには戻って来られない以上、発進前には各部に異常がないか、マニュアルに書かれたチェックリスト通りにチェックしなければならない。
その中には、準備体操のように実際に動かしてみるものもあるのだ。
「ツルギ、
「わかった」
「まずはローリング! 左、右、左、右!」
ストームが、足の間にある操縦桿をゆっくり規則正しく左右に倒す。ツルギの足の間にある操縦桿も、連動して左右に動く。
すると、主翼後ろ側の先端にある舵が、ぱたぱたと動いているのが見えた。
これがエルロン。ローリングという「左右の傾き」を司っている。
「OK!」
「次はピッチング! 上、下、上、下!」
次に見るのは、後ろの水平尾翼。
同じように操縦桿を前後に倒すと、それに合わせて水平尾翼の舵が上下に動く。
これがエレベーター。ピッチングという「上下の傾き」を司っている。
「OK!」
「最後にヨーイング! 左、右、左、右!」
最後は、垂直尾翼。
ストームがフットペダルを踏み込むのに合わせて、垂直尾翼の舵が左右に動く。
これがラダー。ヨーイングという「左右の向き」を司っている。
この3つの舵を駆使して、飛行機は飛ぶのである。
「OK! 全部異常なし!」
「ありがと!」
これで舵のチェックは終わったが、チェックしなければならないものはまだまだある。
それは、ほぼストームの仕事だ。同乗者にすぎないツルギは見物するしかない。
「スピードブレーキ!」
ストームの操作に合わせ、腹部にある小さな板が立つように展開し、閉じる。
これがスピードブレーキで、文字通り飛行中のブレーキになるものだ。
「フラップ!」
今度は、主翼の前側と、後ろ側の内側にある舵が下向きに引き出されるように展開。
これがフラップ。低速時の揚力を確保するための補助輪のような舵で、離着陸には欠かせないものだ。
このように、その他各種システムのセッティングを手際よく作業を一通り終えた頃には、時間は既に7分経っていた。
周波数を合わせた無線から、フェイの無線が聞こえてきた。
『こちらレインボー1。2番機、聞こえるかー?』
「感度良好だよ!」
フェイの呼びかけに、ストームが元気よく答える。
サハラ・フェイ機に目を向けると、2人のパイロットがこちらを見ていたのが見えた。
赤いヘルメットの後席がフェイ、黄色のヘルメットの前席がサハラだ。
『旦那さんの方はどーや?』
「あ、ああ、右に同じく!」
不意に話を振られて驚きながらも、ツルギは答えた。
『チェックは全部終わったな?』
「もちろん!」
『よし。ほんじゃ、
離陸に向かうには、管制塔に移動の許可と移動ルートの指示を貰う必要がある。
フェイが代表して、それを行う。
その声は、普段と違って冷静だった。
『レインボー1より
『レインボー1、誘導路
『了解。誘導路
許可が出た。いよいよ出発だ。
整備士達が車輪止めを外す。
操縦桿を握りたくなる気持ちをぐっと抑えて、ツルギはダッシュボードにある手すりにつかまった。
『ほな、出発や! しっかりついて来るんやで! サハラ!』
『ウン。右、ヨシ。左、ヨシ。れいんぼー1、出ル』
サハラ・フェイ機のエンジンが僅かに唸り、ゆっくりと移動を始めた。
左折して、ストーム・ツルギ機の目の前を横切ったタイミングで。
「右よし! 左よし! それじゃレインボー2、行ってきまーす!」
左右の安全を確認したストームはパーキングブレーキを解除。
そしてスロットルレバーを押し込んだ途端、エンジンの唸りと共に、機体がゆっくりと進み始めた。
整備士のハンドシグナルに従って、左に曲がる。
機体がその横を通り過ぎようとした時、整備士が敬礼したのが見えた。
2人は揃って、敬礼で答えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます