スルーズ諸島空軍航空学園、か……
2人が乗るG120TPは、先程離陸した飛行場──リード基地に戻り着陸した。
Ⅴ字に滑走路が伸びた、比較的大きい飛行場だった。
その
飛行機用の簡易シェルターだ。日差しが強く強い雨も多い南国の飛行場ではよく見かけるものである。
その一角に、G120TPはゆっくりと入って停止。
エンジンが停止すると、5枚の翅を持つプロペラが減速していって止まった。
ストームの手で、キャノピーがゆっくりと開かれる。
2人揃ってヘルメットを脱ぐ。
ストームの、先端が青く染まった茶髪が露わになった。
「ちょっと待っててね、ツルギ」
ストームが、先に右側から主翼の根元を伝って降りる。
一方、ツルギは降りずに、自分とストームのヘルメットを2つのバッグにしまっている。
すると、左側から緑のツナギ姿の整備士が、車いすを1台運んできた。
そこに、回り込んできたストームも合流する。
「ストームさん。今からツルギさんを降ろして移乗させますが──」
「あ、大丈夫です。あたし1人でできますから」
え、と戸惑う整備士をよそに、ストームはコックピットの左側に上がり、ツルギの肩と膝下に手を入れる。
「じゃ、行くよ。よっ、と」
ストームは2つのバッグを抱えたツルギを、ひょい、と軽々持ち上げた。
そのまま、ぴょん、と地上へ降り立ち、丁寧に車いすへと座らせる。
全く重そうな様子を微塵も見せない、滑らかな動きであった。
「はい、終わり」
「ありがとうストーム」
なんて事はない事のような、2人のやりとり。
その様には、整備士もぽかんとしてしまっていた。
「あいつ、随分ピンピンしてるな……本当に足動かないのか?」
「あんな奴まで入学とは、ウチも余程人手不足なんだな……」
「そういう話じゃねえ。きっと愛の力って奴なのかなって思ったんだよ」
「ああ、あの2人、新婚さんだもんな。俺もああいう美人な嫁さん、もらえたらなあ……」
様子を見ていた別の整備士2人も、こそこそと喋っている。
そこへ。
「すまない、失礼する」
突然、誰かが割って入ってきた。
整備士達は、彼に気付くとすぐに姿勢を正して道を開ける。
「はっ、失礼しました!」
敬礼する整備士達の間を通って現れたのは、緑のフライトスーツ姿の男性だ。肩には大尉の階級章を付けている。
「ロアルド教官!」
ツルギも、とっさに姿勢を正す。
とは言っても車いすの上なので、背筋を伸ばす程度しかできないが。
「その様子だと、特に問題はなかったようだね?」
「もちろん! 証拠写真もあるよ!」
一方のストームはというと、得意げに左手でカメラを差し出す。
その画面には、先程コックピットで撮った写真が。
受け取ったロアルド教官は、一緒に表示されている撮影時刻も確認して、小さく頷いた。
「なるほど。確かにあの飛行の後でこの様子なら、何も心配する事はないな」
ストームの表情が、ぱあ、と明るくなる。
「それじゃあ──!」
「学力も実技も問題なしだ。前例がないとはいえ、これならうちの戦闘機科でも問題なくやっていけるだろう」
「やったねツルギ!」
喜ぶストームの顔を見て、ツルギも表情が緩む。
ツルギとしては、嬉しいよりも、ほっとした気持ちの方が強いのだが。
「それでは、一度解散だ。午後のオリエンテーションに備えて、少しでも体を休めておけ」
「はい!」
ロアルド教官は去っていく。
その姿を見送ったツルギは、何気なく飛行場の施設に目を向ける。
「遂に始まるんだな……」
「そうだよ。あたし達の新しい学園生活が!」
まだ見慣れない国旗が風になびいている。青・金・青の横三色旗の中央に、G120TPの垂直尾翼にも描かれていたバインドルーンの紋章がある。
そんな国旗が掲げられているのは、白い校舎のような建物の前。
だがそれは、ただの校舎ではない。
正面に『RTIAF Aviation School』の英文が大きく書かれているのが見えた。
「スルーズ諸島空軍航空学園、か……」
ツルギは、その名をぽつりとつぶやいた。
* * *
空軍航空学園。
それは、軍のパイロットや整備士といった航空要員を養成する高等専門学校で、世界各国の軍隊に存在する。
このスルーズ諸島王国にある、スルーズ諸島空軍航空学園も、そのひとつ。
入学すればもちろん軍属扱いになり、卒業後も最低5年間の軍属が義務付けられる。
しかし、航空学園は少年兵・少女兵を育てる場所ではない。
在学中はあくまで『実習生』として扱われ、卒業して初めて階級が与えられ正規兵となるシステムになっている。
パイロット学部の学生は、入学してすぐにパイロットになるための基礎的な教育を受け、2年から飛行訓練を開始。そして4年からの後期課程に入ると、各学科に分かれて実用機に乗り実戦的な技術を学ぶ事になる。これが、基本的な教育の流れだ。
その中でも戦闘機パイロットを養成する戦闘機科は、心技体全てにおいて優れた者だけに進む資格を与えられる、エリート学科だ。
ストームとツルギは、そんな戦闘機科の4年生としてこれから加わる事になるのだ──
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