飛行機当てゲーム

 ツルギとストームの視線に気付いたフェイは、恥ずかしそうにサハラの手を優しく剥がしてから咳払いを1つし、話題を変えてきた。


「ま、まあそう言う訳やし、もうええやろ夢の話なんか? そんな事より、お2人さん何か特技とかあるんか?」

「特技? あたし飛行機当てゲーム得意だよ!」


 それでも、ストームはその話題に乗った。


「飛行機当てゲーム、っちゅーと?」

「質問に『はい』か『いいえ』で答えてもらうだけで当てられるの!」

「あー、なるほど……そうやってキャラ当てるウェブサイトあったなあ。その飛行機版っちゅー事か」


 聞いた途端、サハラが興味を持ったように目を見開く。


「さはら、ヤッテミテ、イイ?」

「うん! 大歓迎だよ!」

「ジャ、オ題、考エル」


 サハラはニンジンのソテーをひとつ頬張りながら、お題を考え始めた。

 早速始めるんか、とフェイも興味深々だ。


「よーし! たまにはツルギに、いいとこ見せないとね!」


 ストームは張り切っている様子で右肩を回している。

 そんな事で張り切らなくても、とツルギは苦笑するが。

 サハラは、ニンジンのソテーを飲み込むのと同時に、お題を決めたようだ。


「決メタ」

「よし、それじゃ行くよ!」

「ウン」


 かくして、ストームによる飛行機当てゲームが始まった。


「ジェット機ですか?」

「ハイ」

「超音速機ですか?」

「ハイ」

「今も現役で飛んでますか?」

「ハイ」

「実戦配備は21世紀以降ですか?」

「イイエ」

「それほど新しい機種じゃないんだね……映画とかで主役になった事ありますか?」

「ウーン……ワカンナイ」

「ああ、そうなんだ……初飛行は、1970年代以降ですか?」

「ハイ」

「エンジンは2つ付いてますか?」

「イイエ」

「はい、わかった!」


 ストームは得意げに答えを導き出す。

 そして、堂々とサハラを指さしながら答えた。


「我らが主力、F-16!」

「ぶぶー!」


 が。

 サハラは両手で×印を作って答えた。


「えっ、違うの!? サブタイプまで完全回答しなきゃダメとか?」


 驚くストームに対し、サハラは両手の×印を崩さないまま、首を横に振る。


「そっかあ、かすってもいないんだ……」


 がっくりと肩を落とすストーム。


「ごめん、何か格好悪いけど──もうちょっと続けていい?」


 そして、なぜかツルギの様子を横目で見ながら、サハラに言う。

 サハラは、こくん、と頷いた。


「それじゃあ──」


 ストームは仕切り直して考え始める。


「何だろ、何見落としてるかな……? スルーズ諸島の近くで──東南アジアで使ってる国ありますか?」

「東南あじあ……ハイ」

「えー、何だろ? 全然見当つかない……その機体って、西側製ですか?」

「……ヤヤ、ハイ?」


 絞り出したようなストームの質問に、サハラも少し迷って答えた。

 ストームは、ますます悩む。


「え? 何それ? やや西側製? それって──あぁー!」


 だが、ストームはやっと思い出して納得したように声を上げた。


「えっと、それは、『昔の中立国』って意味ですか?」

「フフフ……! ハイ」


 やっとたどり着いたか、とばかりにサハラは少し笑いながら答えた。


「ああ、そっかあ……今度こそわかった」


 ストームは少し浮かない表情を見せる。

 これはあまり言いたくなかった、とばかりに。


「グリペン」

「ぴんぽーん!」


 サハラは両手で丸を作った。


「そっかあ、グリペンかあ……」


 正解できたものの、ストームはあまり嬉しくなさそうに苦笑しながら椅子に背を預ける。

 正直それは、ツルギも同じだった。

 何せグリペンに、いい思い出がないのだ。


「いやあ、すごいやんすごいやん。1回外したけど当てられたやないか、ちゃんと」

「……悔シイ?」


 そんな事など知る由もないフェイもサハラも、不思議そうな様子だが。


「だってあたし──」


 ストームはあまり喋りたくなさそうだったので、ツルギはフォローを入れる事にした。


「そ、そういえばグリペンってさ。スルーズ諸島空軍じゃ次期戦闘機に不採用になったって聞いたけど、本当?」


 とっさに思いついた話題で、話を逸らした。


「え? ああ、そうやな。向こうは熱心に売り込んでたみたいやけど、F-16との共通性には敵わなかったんや、ウチらがこれから乗るT-50に」

「ああ、そうだったのか」

「夫婦で浮かれとったようで、しっかり勉強しとったみたいやな」

「はは、まあね」


 よかった、何とか逸らせたみたいだ、とツルギは安堵する。

 見れば、ストームは申し訳なさそうにツルギに苦笑していた。


「そう言うからには、合格したら行く先の事も、しっかり勉強したんかいな?」

「うん、まあそうだけど、そういえば──」


 フェイに投げかけられた疑問で、ツルギはふと思い出した。

 スルース諸島空軍の主力戦闘機について勉強して、気付いた事を。


「F-16は単座戦闘機だけど、どうして僕とストームは2人1組なんだろうな……? 複座型だけ使う部隊なんて、調べてもなかったのに──」


 スルーズ諸島空軍の主力戦闘機・F-16は、1人乗りの戦闘機である。

 2人乗りのモデルもあるが、それは教官を後ろに乗せるための練習用であり、基本的に戦闘には使われない。

 一応、戦闘用にカスタムされた2人乗りモデルを使う国はあるが、そのようなモデルをスルーズ諸島空軍は使っていないようだった。

 つまり。

 スルーズ諸島空軍には、2人乗りが前提の戦闘機は存在しないのである──


 ぴーんぽーんぱーんぽーん──


 ふと鳴り響いた予鈴のチャイムで、一同は我に返る。


「げっ!」

「やばっ!」


 フェイとストームが、揃って声を上げた。

 昼休憩の時間が、もうすぐ終わってしまうのだから。


「みんな! 急いで食べよ!」

「そやな!」


 ストームとフェイは、慌てて食事を再開し始めた。

 しかしフェイは、慌てて口に運んだせいで喉に詰まらせたようで、苦し気な表情を浮かべて手を止めてしまう。

 やれやれ、とばかりにサハラが無言でコップに入った水を差し出している。


「ほら、ツルギも急いで!」

「わかってるけど、フェイみたいにならないでよ」


 ハンバーグを食べながら急かしてくるストームを、ツルギはやんわりと注意したのだった。

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