第4話
田舎道を抜けて、海へ向かってジュンの運転する車は走っていく、エイジが車の窓を開けた。潮の匂いが車の中に入ってきた。
「なんだか懐かしいな」
ジュンがふとため息をつくように声を漏らす。
『ようこそ 海水浴場へ』
そう大きくカラフルに書かれた看板のが掲げられた石造りのトンネルをくぐり抜け、駐車場に車を止めて三人は海を眺めた。
まるで砂漠のように長く砂浜がつづく、九十九里浜、名前の由来は九十九里あるとか百里と言うのを遠慮して九十九里にしたとか、小学校の時の校長先生のお話で聞いたことを三人はなんとなく思い出して、その時の事を話し出す。
「本当に九十九里あるのかしら?
「百里あるのを遠慮して九十九里浜にしたって聞いたような」
「まあ、そんな事はどうでもいいだろ、校長も話のネタにこまって話しただけだろうし、大袈裟な名前かも知れないけど俺たちの故郷の誇りだ。とりあえず降りてみないか?」
エイジは海を指さしながら二人に切り出す。
そして、車のドアを開け、エイジとジュンは先に降りて、エイジはシートを前に倒して、ミホの手を取り、車から引っ張り出しながら抱きかかえる。
ミホは少し顔を赤らめながら言い放つ
「ちょっとジュンが見てるじゃない」
ジュンは気まずそうに顔を背けた。そんなジュンを気にするそぶりも見せないで、エイジはミホを抱き寄せて口づけをした。
「もう、いい加減にして」
ミホはエイジを突き放す。ジュンはなんと言ったらいいのか言葉もでないまま佇んでいた。
「とりあえず奥のほうへ行こうぜ」
二人に向かって明るく、ミホに突き放された事を全く気にせずに声をかけた。
三人は、砂浜を歩いて海のほうへ向かっていく、潮の香りが風に吹かれて三人を通り抜けていく。
月の明かりに照らされている海は幻想的に見えた。
「この太平洋の向こうにアメリカがあるんだよな? なんかテレビで、ヨットで太平洋横断とかやってたけど、そんな冒険、男としたら人生に一回はやってみてえな」
エイジが胸を張りながら言うとすかさずミホが肘打ちをした。
「ふーん愛しの恋人をおいてそんな冒険しよって言うんだ? まったくいい年して何を考えてるの?」
「いやいや、言ってみただけだって」
エイジは頭をかいた。ジュンはそんな二人を羨ましそうに眺めていた。
「もうじき、夏が来るわね。今年はどんな水着買おうかしら」
ミホが目を輝かせながら言うと、エイジは少し呆れたように返す。
「お前、毎年買ってるだろ? 何回も着ないのにもったいないだろ、何着持ってるんだよ?」
そう言われミホは少し俯いた。
「数は数えたことないけど、だってエイジが喜ぶんじゃないかなって思って」
エイジはミホを抱き寄せた。
「お前は何を着ても似合うから心配するな」
そんな二人をジュンはただ眺めているしかなかった。
ミホが何か閃いたようにしてジュンに向かって言い放った。
「そうだ、お古の水着ジュンに着せてみよう」
突然の突拍子もない発言にジュンは驚き、顔を赤らめた。
暗くてもジュンの顔が紅潮していくのが近くにいる二人には解った。
「無理だよ、そんな」
ジュンは両手を前に出した。ミホはそんなジュンを見て何やらニヤニヤしていた。
エイジは半分呆れた顔をして二人のやりとりを黙ってみていた。
「ジュンに似合いそうなの何着かあるんだよね」
ジュンは首を横に振って黙り込んでしまった。何も言い返す事が出来ないくらいに追い詰められてしまった。
さすがにジュンが可哀想だと思ったのかエイジがミホの肩に手を置いて「いい加減に止めておいてやれよ」と軽く、ミホを叱った。
エイジの制止を振り切ってミホは続けた。
「ちょっとね昔にも似たような事があってね」
その言葉を聞いたエイジはミホを制止するのを止めて興味深そうにミホに尋ねた。
「いったい何の話なんだ?」
ジュンは何の話かだいたいの見当は付いていたが、もうこうなってはミホの口を塞ぐ事は出来ないと堪忍して、両手を顔に当ててしゃがみ込んでしまった。
潮の匂いのする風が三人の間を吹き抜けて行く中ミホは、昔語りを始めた。
「高校生の時あんたが柄にもなく風邪ひいた時ジュンと見舞いに行ったの覚えてる? その帰りにね……」
泪雨 猫川 怜 @nekokawarei
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