第3話
木々からこぼれる太陽の光で小高い丘にある神社の境内も熱気に包まれていた。
二人の制服姿の少年がいた。
もっとも、一人のほうは、男子学生の制服を着ていなければ、少女と見間違うような姿をしていた。
「はあ、なんでこうもクソ暑い日がつづくんだ」
エイジは、太い腕で額を覆いながら恨めしそうに呟いた。
少女のような少年、ジュンは、しなやかな手でスクールバックを開けて二枚のタオルを取り出して一枚をエイジに渡した。
「これ、使うといいよ」
そう一言、そして、もう一枚で自分の汗を拭った。
「ありがとな!」
そう言って、エイジは、ジュンに渡されたタオルで汗を拭き始めた。額、顔と汗を拭き取った後にシャツの第四ボタンを開けてタオルを持った太い腕を懐に入れようとした。
「ちょっと、こんなところで」
ジュンが止めようとした。
「なに女々しいこと言ってるんだよ! しっかり汗は拭いとかないと、夏風邪にでもなったらどうするんだよ、ほら、お前もしっかり拭いておけ」
ジュンは伏し目がちに呟いた。
「ボクはいいよ」
そう言った後、タオルを脇に置きポケットからタバコとライターを取り出した。
エイジはタオルを肩から掛けた。そして、脇に置いていたタバコとライターを手に取る
細いしなやかな指と太く逞しい指が同時にライターの石を打つ、息がぴったり合ったかのように対照的な二つの手から小さな炎が生まれた。
そして、それぞれ、タバコに火をつけると蓋を閉じ火を消した。
タバコに火をつけるのもライターの火を消すのも息がピッタリと合っていた。
「高校生が、こんなところで、何をしてるのかな?」
小さく呟くような女声が聞こえた。
二人はあたりを見回したが、誰もいなかった。
「高校生の分際で学校サボって、この神聖な場所でタバコを吹かすとはなにごとじゃ」
女声は少しボリュームを上げておどろおどろしい口調で静まりかえった神社の境内に響いた。
「おい、ミホ、お前だって学校サボってこんな悪戯して人の事言える立場か?」
注連縄の巻かれた大木、いわゆる御神木というやつの陰から不敵な笑みを浮かべながら、制服姿の少女が現れた。
緑のチェックでプリーツの掛かったスカートを太ももの中くらいまで短くして、ブラウスシャツを第二ボタンまで開けていた。
そして、汗だくになりながらスクールバッグから五百ミリリットルのスポーツドリンクを取り出してペットボトルの蓋を開けると半分ほど残っていたのを一気に飲み干して、二人に近づいてきた。
エイジはミホを睨んで言い放つ。
「先公にチクりやがったらタダじゃおかねえぞ!」
ミホは笑みを浮かべた。
「違う、違う、今日は、あたしも混ぜてもらおうかなと思って」
そう言って、二人の間に割り込んできた。
神社の境内の片隅に置かれた、背もたれの無い木製のベンチは急に窮屈になった気がした。物質的にと言うよりも、精神的に、そうジュンは感じずにはいられなかった。
ジュンにとってミホは天敵だった。だが、その天敵は、幼稚園に入る前からの大切な親友でもあった。
ミホは二人を見ながら訝しそうそうに訪ねる。
「二人とも男2人で授業抜け出して何をしてるの? もしかして怪しい関係というかそういう関係なの?」
「違う、違う」
エイジとジュンは、ほぼ同時に首を横に振り声をそろえて否定した。
ミホは詰問するように訪ねた。
「本当にそうなの? 学校じゃそういう噂になってるんだけど」
エイジは声を荒げながら答えた。
「だから違うってば、ジュンとは友達だよ。そういうのは考えられない、いつも一緒にいるからって、そんな噂に嗾されるなんて俺たちは迷惑だ」
ミホは少し安心したように呟いた
「ならよかった」
そして、スクールバッグから何かを取り出すとエイジに渡して走り去りながら声に出す。
「それ読んでおいて」
それは白い封筒にに入った手紙だった。
「まさか果たし状かなにかか?」
そう呟くエイジを見ながらジュンは呆れたように口を開いた。
「どう見てもラブレターって奴じゃないの? 封筒に封をしてあるハートのシール」
そのラブレターを見た後ジュンは小さくため息をついて青い空をみあげた。
エイジは封筒の中身を取り出し読み始めた。
夏の太陽の光がますます強くなっていく蝉の声が煩く響いていた。
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