第1話
田んぼの中の田舎道を黒いEGシビックが走る。
三人の若者が乗っていた。男が二人、女が一人、もっとも男のうち一人は、女性ような容姿をしていた。
「いい車でしょ? 二人に会いたくて高速を飛ばして来たんだ」
運転席に座るジュンがハンドルを握りながら二人に話しかける。
「なかなかいいじゃん」
助手席にいる体格のいい男が答えた。
この男、エイジはジュンとは中学時代からの付き合いで、いわゆる悪友とか不良仲間といった間柄だった。
ジュンは少年のような、見ようによっては少女にも見える整った顔立ちに、背丈こそ成人男性としての高さはあるが、線が細くしなやかな肢体、そして、長く豪奢な美しい髪を羨む女性は少なくない。
エイジはジュンとは対照的に筋肉質な体つきで背丈もジュンよりも高くガッシリとした体つきから中学高校と運動部からスカウトが絶えなかった。だが、その誘いをすべて断った。
部活動には参加せず、学校が終わるとジュンと二人何処かへ出かけたり、どちらかの家でギターを弾いたり、映画を見たりしていたのである。
この、対照的な二人は、お互い固い友情で結ばれて喜び、悲しみ、その他諸々を分かち合い、中学高校時代という青春の前半期を共に駆け抜けた仲だった。
「よく大学生で車なんて買えたわね。高くなかった?」
後部座席に足を組んで座るソバージュがかかったミディアムボブの女が猫目を疑い深そうにジュンに向ける。
このミホとジュンは家が近かった事もあり、幼稚園に入る前からの腐れ縁とも言う仲で、まるでジュンを子分のように扱っていた。毎年夏休みや冬休みの終わりになると宿題の答え合わせと言ってジュンの答えを丸写ししたりしていたのである。
「安い車を広告見て探した。それにバイトもしてるし……」
ミホの強い口調に、少し怯えながら、ジュンは答えた。
「ふーん、バイトしてるんだ? 案外苦学生なのね。それで? どんなバイトしてるの?」ミホは、ジュンに聞くと言うよりも詰問しているようだった。
「飲食業だよ」
ぽつりと呟くようにジュンは言うとミホはつまらなさそうな顔をした。
「ふーん、なんかもっと面白いバイトかと思ったら案外普通でつまんない。どうせファミレスとか何でしょ? 都会なんだからなんかこうもっと危険な匂いがするっていうか何というか、そういうのじゃなくてガッカリしたわ」
エイジが笑いながらミホにツッコミを入れた。
「いくら都会だからって、裏バイトみたいな危険な臭いのするバイトなんてそうそう無いし、ジュンには、そんなバイトする度胸なんてないし、だって、いつも、お前に怯えてるくらいなんだぜ」
ミホとジュンの主従関係は二人が生まれた時から定まっていたのかもしれない。
前世でミホはお姫様で自分はその従者だったのかも知れないとジュンは思いもしたし、口にしたりもした。
「ジュンは従者じゃなくて侍女よ!」
ミホは笑いながら言い放ち、ジュンは赤面しつつも逆らう事はできなかった。
幼稚園の頃のミホは園内一のオテンバ娘で、ジュンを連れ回し気に入らないことがあるとジュンに八つ当たりして、ジュンの頭をポカスカ叩いたりしていた。
いつもジュンは、ミホに泣かされていたのである。
そして、小学校、中学校、高校とジュンが大学に進学するまで、家も近く、親を含め家族ぐるみの付き合いだったので、ジュンの秘密という秘密を知り尽くしていた。
だから二十歳を迎えた今でもジュンはミホに頭が上がらないのであった。
「そんなに遠くないんだし、もっと頻繁に帰ってこいよ」
エイジは、ジュンの肩を叩いた。
ジュンは、苦笑いをして、
「まぁいろいろと忙しくて」
一言つぶやいてその後はひたすらフロントガラスの向こう、ヘッドライトの先を見つめていた。
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