泪雨

猫川 怜

プロローグ

東京へ向かう高速道路を一台の小さな、そして、夜の闇に溶け込むような黒いシビックが走っていた。

 運転しているのは女性と見間違えるような美しい青年だった。

 線が細く、後ろで束ねた長い髪、そして、端正な顔立ちが彼を女性的に見せているのだった。

 音楽番組が終わり、カーラジオから天気予報が流れてきた。

 今夜半ば、雨が降るという。

 しかし、夜空はプラネタリウムのように満天の星が輝き、月明かりが木々を濡らしていた。

 これから嵐が来るなんて信じられない。ジュンはハンドルを軽く握りヘッドライトの照らす先を見ながら考えていた。

 深夜の高速道路、他に車はほとんど走っていない、数台のトラックがジュンの車を追い越していった。

 突然、フロントガラスに水滴が当たった。

 雨が降り出した。

 ジュンは、ヘッドライトの先に気をとられて空を見る事を忘れていた。

 いつの間にか、空一面を雲が覆い、月の明かりも、星の光も地上には届かない。

 無機質な人工的な光だけがジュンの目を助けていた

 ジュンは、一人、雨の中を車で走っていた。

「まるであの時みたいな雨だな……」

 ジュンの目からは一滴の泪がこぼれた。

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