第4話 悪役貴族、実の父親に才能を嫉妬され辺境に追放される。「まあ……俺ほどの才能があれば、デス・ダンジョンの攻略なぞ、寝ててもできますがね」

「アルバート、お前は明日から黒き沼地【ブラックムーア】へ行け。マクタロード侯爵家当主の、私の命令だ」


 夕食の席で、俺は実の父親から辺境の地へ追放される。


【くすくす……弟は辺境で野垂れ死ぬんだ】

【弟のくせに、できすぎてムカつくよのねー!】


 兄のマルスと姉のリーセリアが、あざ笑う。


 魔法学院に入る1年前、アルバートが15歳の日に、


 マクタロード侯爵領にある辺境、ブラックムーアへ行かされる。


 ブラックムーアは近くに、死の迷宮【デス・ダンジョン】があり、


 そこからヤバめのモンスターが出てくる。


 しかも、瘴気という毒の霧も。


 資源もなく産業もない。


 マクタロード侯爵領の、不要な領地だ。


 ゲームでは、アルバートはブラックムーアにたった一人で送り込まれて、


 ソロでモンスターと戦いながら、なんとか生き残る。


 だが、実の父親から受けた仕打ちがトラウマになり、


 性格が歪んでしまう。


 そして、ブラックムーアでの経験が、闇堕ちする原因となってしまうのだ。


「お前もわかっているだろうが、我が家は、ブラックムーアの管理を王家から任されている。デス・ダンジョンから出てくるモンスターを討伐する任務だ。まあ、お前の【圧倒的才能】があれば、簡単にやれるだろう?(これでお前もおしまいだっ!)」


 マクタロード侯爵は、底意地の悪い笑みを浮かべる。


 プライドがエベレスト級に高い男で、


 剣も魔法も才能があり、若い頃は王国騎士団長も務めた。


 だから余計、息子の圧倒的才能に激しく嫉妬する。


「そうですねっ! 天才のアルバートなら、きっと楽勝でしょう……くっくっく!(早く死ねばいいっ!)」

「うふふ……っ! アルバートには期待していますわ……きゃはははっ(惨めに死になさいっ!)」


 兄と姉も父親と同じく、アルバートの圧倒的才能に嫉妬していた。


 ブラックムーアへは、代々マクタロード侯爵家の【お荷物】が送りこまれる。


 しかも、デス・ダンジョンはその名の通り、人を死に追いやる迷宮。

 

 この1000年間で、攻略者0人の超難関ダンジョンだ。


「はい……父上、立派に使命を果たして参ります」


 俺は恭しく、頭を下げる。


 ここで終わるつもりが――


「まあ……俺ほどの才能があれば、デス・ダンジョンの攻略なぞ寝ててもできますがね」

「な、なんだと……っ!!」


 オートデバフスキル、【傲慢】が発動してしまう。


 油断してしまった……!


「……そうかそうか。そこまでイキがるのなら、デス・ダンジョンを攻略するまで……帰ってくるなああああああああああああっ!」


 マクタロード侯爵は、ブチ切れてしまう。


 フルオートで敵をつくってしまう、アルバート。


 めんどくさいことになったな……


 ★


 次の日の朝――


 俺が馬車で荷造りをしていると、


「アルバート様! あたしもお供しますっ!」


 俺の剣の師匠、エルフィーネがやって来た。


「ブラックムーアは辺境だぞ。俺と少数の使用人で行くから……」

「ぜっーたいダメですっ!! アルバート様は傲慢で怠惰ですっ! あたしがお側にいないと、きっと剣の鍛錬をしなくなりますっ!」

「いや、ちゃんと鍛錬はするから——-」

「いいえっ! アルバート様の師匠として見過ごせませんっ! ずーっと、アルバート様のお側にいさせてもらいますからねっ!!(あああああ……っ。ついに言ってしまいました……)」


 顔を真っ赤にしながら、俺に説教するエルフィーネさん。


【アルバート様っ! わたくしたちもお供しますっ!】

【俺たちも一緒に行かせてくださいっ!】


 メイドや執事、庭師や料理人まで、


 マクタロード侯爵家の使用人たちが、馬車の前になぜか大集合。


 その数、約100人……!


 ていうか、こんなに大勢の使用人が俺のところに来たら、


 マクタロード侯爵家が、回らなくなるんじゃ……?


「ここまで大勢の人が、アルバート様と一緒に行きたいのです。怠惰なアルバート様には、使用人がたくさん必要ですから。これはもう、断れませんね(ぐぬぬ……っ! アルバート様と二人きりがよかったのに!)

「…………? なんか言った?」

「はわわ……っ! なんでもないですっ! と、とにかく早く行きましょうっ!」


 あたふた焦っているエルフィーネさん……


 今日はちょっと変だ。


「アルバートお兄様っ!」

「ぐ……っ! レギーナか……」


 アルバートの妹、レギーナ・フォン・マクタロードが俺の腹に頭突き。


 ドリルのように、ぐいぐい食い込んでくる……っ!


 今は8歳だ。


「黙って行くなんてひどいですうううううっ! わたくしも一緒に行きますっ!」


 多くの人に嫌われていたアルバートだが、


 唯一、妹のレギーナには好かれていた。


 ゲームのシナリオでも、


 アルバートが闇堕ちした後も、レギーナだけは心配していたしな……


「レギーナ、お前はここで、やることがいっぱいあるだろ……」

「いやですいやですいやです……っ!! アルバート兄さんがいないと死じゃいますっ!(泥棒猫の剣聖に、お兄様を盗られてたまるもんですかっ!)」

「……? なんか言ったか?」


 ぶつぶつ、何かを言っていた気が……?


「とにかく、お前はダメだ。ブラックムーアは危険なんだ。ここに残りなさい」

「ぶーっ! お兄様のイジワルっ!(胸が大きいだけの剣聖に、負けるわけにはいきませんわっ!)」

「仕方ないですね。レギーナ様、ご安心ください。あたしがアルバート様を(昼も夜も)しっかりお守りしますから(お子様は引っ込んでなさい……っ!)」


 バチバチバチ「…………」


 この二人って、仲悪いキャラだったけ……?




 

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