第2話 傲慢と怠惰というオートデバフ

「エルフィーネを呼んでくれ」


 俺はメイドに命じる。


「え、エルフィーネ様をですか……っ? わ、わかりました……すぐにお呼びしますっ!」


 メイドはめっちゃくちゃ驚いてる。


 無理もない。


 アルバートはエルフィーネをすげえ嫌っていたからだ。


 エルフィーネ・メイスン。


 アルバートの父親、マクタロード侯爵が息子のために雇った、剣聖のお姉さん。


 アルバートの剣術指南役だったが……アルバートに邪険にされ、侯爵家を追放される。


 だから当然、アルバートは一度たりとも、剣を習わなかった。


「アルバート様……な、何の用ですか……っ?」


 強張った表情で、エルフィーネがやって来る。


 燃えるような紅い髪と、鳶色の瞳が不安げに。


 ——今日、クビされる。


 いかにも、そんな顔をして。


「け、け、け……っ。んんんんんっ! おおおおおおおお……っ! ししししししししし……っ!」

「…………?」


 【剣を教えてほしい】


 たったそれだけのことが、俺の口から出ない……!


 極めて傲慢で、


 極めて怠惰な、アルバート。


 性格に、オートデバフがかかっているようなもの。


 人にモノを教わる……そんなことは、完璧超人のアルバートの辞書にはない。


 動悸と眩暈と頭痛が、同時に襲いかかってきて。


 く、苦しすぎるぞ、これ……っ!


「だ、大丈夫ですか……? とても苦しそうですが?」


 エルフィーネが水を持ってきて。


「はあ、はあ、はあ〜〜……っ 大丈夫だ……」


 俺は渡された水を、飲まずにテーブルに置く。


「とても大丈夫そうには、見えませんが……?」

「気にしないでくれ。自分との戦いだから……」

「……?」



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