第43話 私にとっての試練は
「――ところでユーリさん、さっきのスキルってなんだったの?」
重くなってしまった空気を振り払うように、トーラスさんが言った。ありがたいフォローだ。
「あ、うん。私も気になってた」
自分でも詳細を確かめたかったので、私はスキルを開示した。
『
星の炎を宿す者が持つ力の一部。
戦闘中、一度だけHPがゼロになる攻撃を受けても1で耐える。かつ、効果発動時、一定時間すべての能力値が5倍になる。その際、魔法とアイテムの効果を受け付けない。
「なるほど。これはまた尖ったスキルですね。実質、効果時間中は回復不可で攻撃を受けたら一発アウトじゃないですか。やられる前にやれ、ってことなんでしょうけど」
イシダさんがうなった。
「救済措置って感じですね。一度やられたら復活不可の私にしてみれば、ありがたいスキルです」
確かに尖った効果だけど、生き延びるチャンスが増えるのはうれしい。
「あ、そっか。そうですよね」イシダさんは納得したようにうなずく。「にしても、いいですねぇ。固有スキル、特別感があります」
確かに特別だ。でも、はたしてこれは私だけが持っているスキルなのだろうか。
そして、星の炎を宿す者ってどういう意味だろう。デストルークが言っていた
そこで、私は何か言いたげにこちらを見ているアイネに気づいた。
そうだ。アイネなら知っているかも。
「アイネ。星炎の守護者って知ってる?」
「ああ、知ってるよ。星の力を持つ者たちのことだ。あんたもその一人だったんだね」
アイネはあっさり答えてくれた。けど、意味がよくわからない。
「星の力を持つ者って?」
「言葉の通り、あたしたちが生きるこの星と繋がっている者のことさね」
んー。あんまり内容が変わってない気がする。これ以上の情報は引き出せないのかな。
私は切り口を変えることにした。
「さっき、デストルークも私と似たような状態になってたけど?」
私と同じスキルを持っていたのではないかという意味を暗に持たせて尋ねる。
「それは、あたしの口からはまだ言えない」
「そう……」
まだ、か。条件を満たしたら、教えてくれるのかな。
「そもそも、魔族って何なんだろうね」
トーラスさんが、ぽつりと呟いた。
私もずっと気になっていた。デストルークと戦って、さらに疑問が深まった。
モンスターでもなく、エネミーでもない。魔族は明らかに特別な存在としてデザインされている。
「魔族に関する資料は、ゲーム内でもほとんど見つかってませんからね。王立図書館の禁書保管庫辺りにはありそうですけど」
イシダさんが言った。
王立図書館の存在は知ってたけど、そんな怪しげな保管庫があるなんて知らなかった。
イシダさんは物知りだ。きっと好奇心が旺盛なのだろう。
「そこって、冒険者でも入れるんですか?」
トーラスさんが目を輝かせながら尋ねる。
「どうですかね。入ったっていうプレイヤーを、私は知りません。特別なクエストをこなしたりしないと、無理なんじゃないかなぁ」
「そっか……」
トーラスさんは肩を落とす。
私はあまり興味がないけど、トーラスさんにしてみれば、魅惑的な場所なんだろう。
「トーラスさん。禁書保管庫に入る方法、探してみる?」
「え? ……いやいや。気にはなるけど、いまはユーリさんのクエストを進めなきゃ」
「ん……そう?」
トーラスさんが行きたいのなら寄り道もいいと思うけど、私の都合でメインクエストの進行をこれ以上遅らせるのは、進展を待っているプレイヤーに悪いとも思う。
自分一人じゃないっていうのは、難しいな。
「――ねえユーリさん。イシダさんに、パーティに入ってもらったらどうかな」
一転、笑みを浮かべたトーラスさんは言った。
「え……?」
トーラスさんの提案に、イシダさんは意外そうな顔になる。
おっと、先に言われちゃったか。
トーラスさんに相談した上で、私も誘ってみようかなとは思っていた。先にトーラスさんが言い出したのは予想外だったけど。
「すみません。お誘いはうれしいんですけど、私、普段は仲間と一緒に行動することが多くて」
イシダさんは申し訳なさそうに言う。
イシダさんみたいに社交的なら、固定パーティができているのも当然か。
「そうですか……」
「もちろん、ユーリさんのことは言いふらしたりしません。ただ……」
「ただ?」
「王城に指輪を持って行ったら、これまで以上に他プレイヤーの注目を集めることになると思います。エーデを引き受けた時点で覚悟はできているはずですが、一応」
注目――。
胸がじくりと痛んで、私は思わず目を伏せた。
調子に乗ってる。まぐれで勝ったのに。
生意気。
何様のつもりだよ。
失望した。
どうせ引きこもりのブスなんだろ。
地味でせこい戦い方をして、恥ずかしくないのか。
子どものくせに――女のくせに。
携帯端末の画面に映し出された、私に対する誹謗中傷、罵詈雑言の嵐が脳裏をかすめる。
顔の見えない人たちから放たれた心ない言葉は鋭い毒矢となって私の心に突き刺さり、いまも抜けていない。
浸透した毒がいつ消えるのか、私にはわからなかった。
魔王は倒したが、私にとっての試練はまだこれからという気がする。
でも、こちらではだいじょうぶなはずだ。
私はもう、一人じゃないのだから。
それに、エーデを引き受けた時点で私は決めたのだ。
楽しもう、と。
私はうなずく。
「――はい。大丈夫です」
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