第18話 好きなことを、好きなように
「スキルは、大きく分けると二種類あります。どのジョブでも使える汎用スキルと、ジョブごとの専用スキルですね。たとえば馬等に乗るための騎乗は汎用スキル、剣士が使う剣術は専用スキルです」
あと、通常の手段では取得できないユニークスキルもあるらしい。もしかしたらエーデの『????』はそのユニークスキルかも。
「だとすると、体術は例外?」
すぐに気づくなんて、やっぱり、頭の回転が速い。
「そうです。武器を持たなくても使えるからかもしれませんね。護身用に体術を習う魔法使いも、そこそこいますよ」
「そっか。僕も道場に行ってみようかな」
「最初はその方がいいと思います。私の体術は、別ゲーやってたっていうのもあるので」
「別ゲーっていうと、アクションゲームとかですか。……って、すみません。答えたくなかったら、無理にとは」
さっき私が質問をはぐらかしたの、当然気づいているよね。
「『アンダーグラウンド・ファイトクラブ』っていうフルダイブ型の格闘ゲームです」
「あ、それならCMで知ってます。他の格ゲーと違って、キャラ差がないのが特徴って。僕にはどこが違うのかよくわかりませんけど……」
「格ゲーって、大抵たくさんのキャラがいるんです。で、それぞれ個性的な必殺技を持っていて、性能も異なっている。それがいわゆるキャラ差ですね。性能によって、強キャラ弱キャラ、なんて言われたりします。でも、アンダーグラウンド・ファイトクラブ――アンファイは違う。プレイヤーは、全く同一の性能のアバターで戦うんです」
「差がないって、そういう意味なんですね」
「ええ。身長も体格も同じ。いじれるのは性別や顔、あとは課金で衣装やアクセサリーを買えるくらいですね」
「だったら、アバターの動かし方が強さに直結するってことですか」
私はうなずく。
「アンファイは、理論上、人間が可能な動きならどんな動きでもできます。現実と違うのは、仮想世界ではどれだけ本人の運動神経が鈍くても関係ないってところですね。リアルで格闘技をやっていれば動きのイメージがつかみやすいっていうのはあると思いますが、未経験でも戦えます。基本的に、練習すればするだけアバターの動かし方はうまくなる」
そしてそれはFLOも同じだ。
「ユーリさんは、一体どういう練習を?」
「私の場合、動画、格闘技の本、アクション映画や漫画、アニメとかで良さそうな技を見つけたら、ひたすらトレーニングルームで反復練習してました。練習用のカカシがいるんですけど、何回殴ったり蹴ったりしたか覚えてないな」
休みの日に朝から晩まで、休憩を挟みつつも、ずっと同じ技を練習していたこともある。あれはちょっと我ながらどうかしていた。
「あとは実践あるのみですね。どういう立ち回りがいいのか、どんな技の組み合わせが効果的なのか、考えながら対戦してました」
「連戦連勝だったんでしょうね」
「だったらかっこいいんでしょうけど」
私は苦笑した。
「最初のうちはCPUの一番低いレベルにすら勝てませんでしたよ。対人戦もボロ負け。元々格ゲー、というか、ゲーム自体初心者だったので。対人戦での初勝利は、遊び始めて一ヶ月くらい経ったあとだったかな」
「そうだったんですか……。いやにならなかったんですか? 勝てなくて」
「ぜんぜん。悔しいとは思いましたけどね。身体を動かすのが、とにかく楽しくて。自分の思いのままに動くアバターって、最高ですよ」
私は手を空に向け、閉じたり開いたりする。
「私がFLOで動けているのは、アンファイの経験があるからです。開発元が同じだからなのか、似たような感覚で操作できるんですよ」
私は手を下ろす。
「――ユーリさんは、すごいですね」
トーラスさんは、ぽつりと言った。
「どうかな。ただ、好きなことを好きなようにやっているだけです」
「好きなことを、好きなように……」
「――と、すみません。自分の話ばっかりしてしまって」
「そんなことないです。ためになりました」
「そろそろ行きましょうか」
なんだか恥ずかしくなった私は立ち上がり、お尻に敷いていたローブを手に取ってはたいた。付着していた土や草が落ちる。ホント、描写が細かい。
トーラスさんも立ち上がって、お尻をはたいた。
王都まではもう少しだ。
それからさらに30分ほど、手頃なモンスターで戦闘の練習をしつつ、私とトーラスさんは王都オルデンまでやってきた。
「やっぱり、大きいな」
私は思わず呟いた。
ベータで見慣れた王都オルデンだが、改めて圧倒される。
石畳の道に、おとぎ話に出てきそうな家、そして、奥の方にでんと構える巨大なお城。
道を大勢のプレイヤーとNPCが行き交う。活気のある街だ。心が浮き立つようなBGMも流れている。
FLOは人気ゲームなので、同じ高校のクラスメイトとかもいるかもしれない。
仮にいたとしても、私には気づかないよね。私、教室ではあんまりしゃべらないし。
トーラスさんは街を眺めている私をちらと横目で見て、何か言いかけて、しかし口を閉じた。
「どうかしました?」
私が言うと、トーラスさんは首を横に振った。
「なんでもないです。ところで、ここをホームポイントに戻すにはどうしたらいいんですか?」
「だったら、冒険者ギルドに行きましょう。プレイヤーは冒険者っていう設定なので、ギルドでホームポイントの登録ができます」
「そっか。スタート地点が冒険者ギルドだったのって、だからなんですね」
「ですね。ログイン、大変じゃなかったですか」
混み合っていると、なかなかゲームを始められない。俗に言うログインオンラインである。
サービス開始直後や大型アップデートのあと、土曜の夜なんかに発生しやすい。延長したメンテが終わったあとなんかも。
「僕の場合、幸いすぐに入れました。ただ、待ってる人が多かったみたいなので、チュートリアルをほとんど飛ばしちゃって。……人が多くてびっくりして、とにかく遠くに行こうって馬車に乗った結果があれです」
なるほど。そうだったのか。
「なんか、混んでいる飲食店にようやく入ったけど、後ろに並んでいる人たちが気になってゆっくり食べられない状況みたいですね」
「まさにそれです! なので、落ち着いたら、改めてチュートリアルを受けようかなと思ってます」
冒険者ギルドでは、冒険を始めるに当たってのチュートリアルを受けられる。
RPGに慣れている人はスキップするらしいけど、ベータ時の私はきっちりとこなした。初心者だった私にはためになったので、受けてよかったと思う。
……今更だけど、エーデのチュートリアルはないよね。
もっとも、令嬢のマナーとか教えられても、困ってしまうのだけれど。
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