第17.5話 番外ストーリー①
―スイ視点 ドグマの事で夜に話し合った翌日の事―
朝起きて顔を洗うために洗面所へ向かうと、エレがいた。
タオルで顔を洗い、
寝ぐせを直していると隣から声が聞こえて来た。
エレ「そういえば、ヨナさん、あなたのこと気にかけていましたよ。」
俺はそれを聞き、
先日、土手でヨナと会話した事を思い出していた。
「まだ彼女とどう向き合うか、悩んでいるんだ」
なぜか分からないが、すらすらっと言葉が出てきた。
このことは他人に相談する気はなかったんだが、
昨日、他人の弱いところを見て感情が引っ張られたんだろうか?
エレ「普通にすればいいんじゃないですか?」
「…」
エレ「私も、あなたに話を聞いてもらって少し楽になりましたし、私でよければ話し相手になりますよ」
確かに、話にくい事を相談することは、信頼関係を築くことはある。
しかし逆のこともある。
特に他人がペラペラと話されたくない事を、女というものは方々でやることが多い生き物だ。
それに、彼女についてはどこまで信用できるかわからない。
「多少、事実と変えるがいいか?」
「えぇ、話したくない事もあるでしょうし…」
「あと、アサには特にこういう話をしたと絶対に言うなよ?あいつ決まりにうるさいからな」
「ふふっ、わかってますよ」
そんな前置きをしながら、
俺は話した。
あれはまだ俺が俺が若いころ、
もちろん今の事じゃぁない、
あれは、働き始めて3年ほど経ったころだった。
このリザヤイーズリ(国)と違って、婚姻制度は一夫一妻だったが、
別に婚姻制度を使わなければこの国と同じような生活をすることもできる、
そんな国の事だ。
俺は当時、まだ20代だったが、
上司から女を紹介された、
彼女は40を超えていたが、時間があればトレーニングをしてて体形は整っていた、
あぁいうのを美魔女というんだったか、
そして俺の一つ下の子供も一人いた、
もちろん、その紹介は仕事上の必要性からだったが、
私事のこともふくまれていたかもしれない、
最初からそういう意図も含まれていたのかどうか、
今となってはわからないが、
それとは別に、俺は彼女の心に惹かれた。
まぁ、詳しく話さなくてもいいだろ?
それから2年ほど経って、その娘との縁談を言われた。
たしかに年としては釣り合っていたことは確かだろう。
「俺はあいつは、母親から言われて仕方なく俺とくっついたと思ってた。きっとこいつは自分を本当に好きな奴が現れたら離れていくだろうと、」
正直俺は結婚なんてしたくなかった、
だから俺は最初から、君だけを愛する気はないと伝えた、
これで彼女は婚姻を辞退する言い訳が出来たと思うはずだ
でも、そうならなかった
彼女は結婚してから楽しそうにしていた
俺も出来るだけそうであるように努めたが、
俺はもっとリスクをとる生き方をしたかったし
だから誰の生涯も背負いたくはなかった
子供が出来れば俺にかまうことも少なくなるだろう
そうすればそのうち、実家に帰るはずだ
あいつはずっと仕事をやり続けたし、俺を支えようとした
そのせいで俺の人生の障害になるようなことはなかったから
俺は好きにできたし、
彼女はいつも俺の隣で笑っていた
たまに喧嘩することはあったけどね
次に他の男が目の前に現れれば、そいつのところにいくだろうと思った、
それでも彼女は何も変わらなかった、
正直、意味が分からなかったね
夜の方も…正直、乱暴にやったこともある、
俺とくっつくまで経験なんてなかったのに、
アブノーマルなことも拒否はせず、むしろ嬉しがっていたようにも思う。
「なんでこいつはこんなに俺に尽くそうとするのか」
母親に愛されたくて、ほめられたくて、こんなことをしているのだろうか?
母親から何か指示を受けているのだろうか?
都合よく何かに俺を使おうとしているなら、それもまた面白いが、
そんな素振りは結局なかった。
つまり打算や他意なく、あんなことをやっていたと認めなきゃいけない
そしてまた、俺を支えるというんだ。
思わず彼女が憐れで、涙が出てしまった。
彼女の母親はもういない
彼女が頼れるのは俺だけだ
だからそんなことを言っているんだろう
そう思うと涙が出た
他に頼れるものをなくしたのは俺だ
俺は彼女にどう接すればいい?
俺がそこまで話したとき、
エレの手がスッと伸びてきて、俺のほおを、さすさすと撫でた。
あぁ、そうか、また涙が出ていたのか
年を取ると涙ものろくなるな
別にこの体は年はまだ取ってないけどな
「うれしかったんじゃないでしょうか?」
「はぁ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を出し、ゆっくりとエレの体を引き離した。
彼女はしばらく考え込んだ後、
「あぁ、いえ、憐れだから泣いたのではなく、あなたがうれしかったから涙が出たのではないでしょうか?」
なるほど、どうやら俺が
何に対して『うれしかったのか』わからないから
疑問として声が出たのではないかと考えたようだ。
「だっておかしいじゃないですか、
人は自分が望まない事を続けられるほど、そんなに強くありませんよ、
きっと壊れてしまう、
だからあなたは、彼女が本当にあなたの事を想っている事に気が付いているはずですよ」
俺は奥歯をかみしめた
ギリッと音がした。
「どうしてそこまで俺にこだわる」
「好きだからですよ、彼女はずっとそう言っていませんでしたか?」
それを聞いて声がつまってしまった。
「たしかにそんなことは言っていたが、本心じゃないだろう」
エレは首を振る
「あなたはおろかな人ではないでしょ?わからないんじゃない、わかろうとしてないだけです」
「仮にそうだとしても理由がわからない、
そりゃ、彼女の家ですれ違うくらいはあったさ。それだけで?」
「一般論として、好きになる切っ掛けなんて大したことがないものですよ、
それに、お互いが覚えているとは限りませんよ、片方は忘れていても、もう一方は覚えている事件という事はよくあるものです」
そういうものだろうか、
そういうものかもしれない。
エレはまた言葉を選ぶようにぽつりと続けた。
「他人がやりたくてやっていた事に気に病むことはありませんよ、
だから無理に好きになろうとか、そんなことはする必要はないでしょう、
ただ、彼女の事を、見てあげてください
向き合ってもらえないのは、悲しいですから」
そういうと、彼女は自分の部屋に帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます