第17話 エレの覚悟
「うぉええ!」
ドグマが施設に行った日、目が覚めると遠くで声が聞こえた。部屋を出ると音の聞こえる方へ向かい『トントン』と戸を叩く。
トイレの前で待っていると窓から空が見える。
(今日は曇っているな)
月は雲に隠れ、たまに びゅー、びゅー、 と風がうなっている。
そういえば、彼女の基本となったのは誰だろう?一応気にはなっていたが深く考えてこなかった。
ヨナが彼女だというならエレも女性だったという事に?たしか交換に用意された人数は男3:女1だったはず、3年で体に慣れているとはいえ、男が女性体になればどこかしら女ぽくなさがでるのではないか?
それに、たしかに俺は直接4人全員と深い交流があったわけではないが、男で恋愛話に共感を持って入れ込むほど感受性が強い人物がいるとはあまり思わない?
基がエルフなら、エルフの規則に自然に従うはず。
そもそも本当にあの中の誰かだろうか?現場に居合わせた現地住民の誰かか?それなら合点がいくが監視任務のために他で用意された可能性もある。
もちろん本人ではないのだから二人もそういう密命を受けていてもおかしくはない。
まぁ、今は気にすることではないか。
ゴブリンを倒すという一点で同志であることには変わりはないのだし。
「なに?」
と、ドアの向こうからエレの返事が返ってきた。
「そういえば、地球には臥薪嘗胆という言葉があったそうだよ。」
「なにそれ、私をバカにしてるの?」
「いや、人知れず倒れられても困るからね・・・感情移入でもしたかい?」
しばらく沈黙が続き、「弱いと思う?」という声がドアの向こうから聞こえてきた。
「さぁ、どうだろうね。エルフでも動物実験中のラットにすら
僕たちとしては君がエルフの規則に対して割り切り、ゴブリンへの敵愾を維持できるなら方法は問わない。
ただ、薪に
エレは「ふっ」と息を吐くと続けた。「彼の王は西進するために虎を番犬にできると考えていた愚か者だったそうじゃない。私は自分が何者か知っている、アリよ。アリが象を飼えると思いあがるはずないでしょ?」
ガラっとドアを開けると、エレは「私は ゴブリンを 殺すわ」と、とぎれとぎれ言いながら手で口を拭う。
「規則だからね。エルフにとって悪であれば罰を受ける、それだけの話だ」
「わかってる」
もちろんここで話しているのはドグマのことだ。
割り切れない事も割り切らなきゃいけない
「君の気持も分かる。
もちろんドグマを助けようとすれば、出来る手段はあるだろう。
例えば国境まで彼を連れて行って逃がすとか、ね。
でもそれは 国境警備員や入国管理官のポケットから彼らの持ち物をギル(盗む)ことと同じだ。
他人のポケットにあるものも自分のものだ、という全能感は犯罪者論理を起こす。
他人はあんなの持っている、でも僕にはない、元々はみんなのものでだからあれも僕のものに違いない、だって自分は彼のせいで損してるんだから!みたいなね」
エレ「まるで 囲碁 ね。あぁ、囲碁ってのは陣取りゲームでね、対戦相手と利の多さを競い合うんだけど、ルールを破って相手の利を取ると負けになるの。最近はオンラインゲームでやってるんだけど・・・」
急に囲碁の話を悠長に話し始めて思わず「ふふっ」と笑ってしまった。
「へー陣取りゲームか。そういえば僕が昔読んだ本に、反王権の果てに平等主義や奴隷解放を訴えた為政者がいたな。
今でもマッチの喩え 喩えだからなんでもいいんだけど は覚えている。
マッチ箱から一本取りだすだろ、それをマッチ箱に戻してシャッフルして さぁ、さっきのマッチはどれだ!これを俺たちは人間でやらなきゃいけない みたいな感じだったかな。」
「囲碁で言うと石の色を一色にして、二人で
「囲碁と違って盤面に置かれるのは『人脈』『経験』『技能』とかいろいろな色の石だけどね。ここから出る利の差、これは囲碁でいうとハンデ戦みたいなものだね。
例え人がマッチのように混ざっても「人脈」「経験」「技能」これらがなくなることはない、だから彼らが本当に対等さに持続性をもたせたかったなら既得権に寄生する制度を作り守る事をすべきだった。どうしたって権益は出るからね、だれかが権益を担う必要がある。
囲碁でいうなら新規参入がなければ衰退するから、指導体制を確立して開放したりってことだね。
もちろんこれは血統主義を肯定することや、実力主義を否定する理屈にはならない
誰もが王になれる事が重要で、王とは集団を指す比喩にならなきゃいけない。つまり『人脈』『経験』『技能』といったものを集団に移すという事になる。
囲碁協会で例えるなら、既得権にまみれてるくせに閉鎖的ならそれはゴミってこと。」
「ふっ、あなたって理屈ぽいのね、単純に規則は守らなきゃいけないからですむことだよ」
「そうだよ、俺は理屈っぽいんだ。
そういえば理屈ついでに、アリの中には他の巣の幼虫を攫ってきて使うものもいるそうだよ」
俺がそういうと彼女はニヤッと笑い、「安心して、仕事はこなす。それが私の願いでもあるから」というと、部屋に戻っていった。
実際に幼虫を殺さなきゃいけなくなっても、きっと彼女は大丈夫だろう。
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