第16話
エレ「ドグマさんたちが利用されたってえっ、ちょちょどういうこと~?聞いてないけど、」
俺「え、ちょちょ終わったことなんですけどぉお?」
ドグマの件について詳しく話をきかせなさいよっ!と詰め寄るエレに対し、俺とアサは、顔を見合わせ oh my !?だっ。
「まずは落ち着いてエレ、持ってるものを置こう」
「そうね」 カチャン、とお盆を机の上に置くエレ。
とりあえず、なるべく簡潔にシルリとのやり取りを伝えながら、エルフたちが『再審』を行う気はなくギリギリの打開案として『恩赦』を行おうとしていたという事を伝えた。
そして、俺たちの仕事はゴブリンへの抗戦の補助を担う事であるという事も付け加えてね。
俺「いいかい、これもただの推論であり、本題はこれからどうするかを考察する事だという事は理解してほしい。俺たちもドグマの件については今後一切かかわらないと思っているし、終わったことなんだ」
エレ「でも、新たな事情が分かったのでしょう?彼が死を賜わる前に早くしないと間に合わなくなる」
アサ「いや、ドグマも納得してることだし、裁判は真実を明らかにする場ではないから再審請求を行ってもどうせ却下されるよ。法曹なんてものは信用や信頼よりもメンツの方が重要な内向きな民族だし」
「それなら匿名でSNSに状況を呼びかけるとか、そうすればもしかしたらエリザさんがどこにいるかわかれば二人で暮らせるかも」
急に乙女のような純粋で純朴な発言をし始めたエレの発言を聞いて俺は「おいおい、本気か?」と、驚いた。
もちろんエルフは独裁国家ではないのだから、ネット上で情報を発信したものやデモに参加したとしても特に処罰はないだろう。だから争論があると世間へ認識させて行政へ安楽処置が行われる時期を遅らせることはできるかもしれない。しかし、捜査機関にやる気がない以上は、世間の関心が薄れた時期を見計らって処置が行われるだけだろう。
行政部や法曹部というのは、どれくらいの不条理を与えれば国民は自国の軍隊に反抗するか実験している研究者もしくはスパイどもだ。政府の諜報に携わるならそれくらいは理解しているはず、とすれば彼女はあまりそうした事に携わってこなかったか、もしくは深く携わってきたかのどちらかか?というエレへの疑念が、この時に浮かんだ。
関わってこなかったものがよくわからない偶像崇拝者になるというのは、今日では、よくいるネット上の保守ウヨクと自称するものが語る敵味方像が狂ったものであるということから簡単にわかる。
では、深くかかわってきたものが誤認するというのはどういうことか?これは商事や諜報を生業にするものが真っ先に頭に叩き込まれることで、喩えるなら蛮族の行為が内部からは道徳的・論理的に劣った行為であるとは認識されないように、行政部や法曹部に携わる者は彼ら自身を善性と自己認識していることはよくあることだ、という簡単な論理だ。
これはかつて俺が何度も読み返した教訓だが、地球時代の難民救済を掲げた憐れな少女活動家メルケル女史の話が有名だろう。彼女は周囲の反対を押し切って蛮族への門戸を開放した際、彼らは心優しいメルケルへ、その国民への性的暴行を返礼という形で返した事例だ。これに対し当時の司法や行政部は報道管制を行いながら犯人の訴追もろくにできなかった。この際にメルケル女史の弁護団が言った「女性は危険を認識しろ」などと責任転嫁したことからも、彼らはメンツが重要であり、彼らは自身を善性と見做している事を証明している。
これには傍証が続き、彼らはその前年、国境を不法越境したアフリカのごろつきに対しケリを入れた勇敢な女性記者に罵倒を吐き、仕事を奪いながら、彼らは自身の責任をとらなかった、なんと素晴らしい善性だろうか。このように難民を受け入れたことの責任・義務をすら一般庶民へ放り投げ、自身は反対者を罵倒や圧力を加えておきながら彼らは自身が間違ったとはいえないメンツモンスター、それが法曹そして行政部だ。
このような頭のおかしいオランウータンと我々は上手く付き合っていかなければならない。
それに、どうせドグマは助からない。そうしたものへ「助かる可能性があるかも」という幻想を持たせるのは酷だ。とりわけ覚悟を決めた後なら、それを侮辱する行為と言える。
アサ「物語みたいに離れ離れになったカップルが事件の真相が明らかになってハッピーエンドってか? おとぎ話じゃないんだ。おとぎ話でも何百年も経って当事者が死んでから、時の責任者が過去と変わったことを印象付けるため自己満足に浸る道具にするだけだ。現実は集団から一度敵認定を受けたヒトに世の中は甘くないって知ってるだろ?」
「私は、わから・・・ないよ。それが嫌だからみんなはここにいるんじゃないの?」
(泣き落としによる行動誘導か?彼女の目的が、よくわからない)
俺「呑み込めよ、自分の考えと違っても合わせなきゃいけない事があるなんて普通だろ?」
エレが「ヨナは?」 そういうと、探るような眼をドアの外側に向けた。
見ると話し声が気になり部屋から出てきたのだろうヨナがそこにいた。
ヨナは困った顔をしながら「え、ウチは、別に・・・」と答えた。
「まぁ自分の部屋でちょっと考えてみてごらん。熱くなってるときは思考も突飛なものになるものだ」
俺はそう言うとエレを部屋に誘導して、部屋に戻ってくると怪訝な顔で二人が視線を送ってきた。
「いいのか?」
「あぁ、切り替えられないならそこまでだったというだけだろ」
「そういうことじゃなく」
俺はアサの言いたいことを理解し、しばらく考え、対応をヨナに任せることにした。
「・・・そうなったら頼めるかい、ヨナ」
「そうね、そうなったら仕方ないんじゃないかしら」
俺たちはこんなところで止まることはできないんだ。例え何を犠牲にしても。
※頭のおかしいオランウータン
・オランウータンというのは意図的な比喩で、この星ではエルフ種は猿人種から進化したことを表しています。よくありますよねオーク種と猿人種が交配したとかいう創作、普通にどちらかが遺伝子操作した人工生命でなきゃ無理だからね
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