1章 番外ストーリー②

―住民視点―


俺の名はタブレリオ、国都に勤めるしがない一吏員だ。

昼休みに社食で食べていると、3日後、俺たちの宿舎に4人のヒュームが越して来るという、主任からそんな話を聞かされている。

と言っても純粋なヒュームではないようだが、それはここではどうでもいいだろう。

そもそも、ここ国都の居住比率はほぼエルフなので、それ以外の種族を見る事は少なく、他の人種は目立つ。


「その人たちは?」

「軍の研究?協力?者だって聞いた。」


話を続ける主任の弁を聞いたところ、彼らはギルーカ社で研修のために滞在するのが目的だという。


「タブレリオ、君、彼らと同じ宿舎だし何日か世話をしてくれ。と言っても気に掛ける程度でいい」

「仕事ですか?」

「そうじゃないが、最近は物騒だからな」


なるほど、これは二通りの意味が考えられる。

一つは物騒だから彼らがそういったことに巻き込まれないようにしろという指示、

二つはそいつらが物騒かどうか確認しろと言う解釈だ。

解釈によっては微妙に対応が異なるだろう。

しかしそこは高度に柔軟性を持った社交性で容易に対応できる範疇だから、俺はあえて確認しない。そう、あえてね。

つまり、俺が彼らの動向を気に掛ければいいという事に変わりないからだ。



―6日後―

仕事に行く際、宿舎で見かけた4人は襷をかけており、

軍の特別招聘人であることを示していた。

他の国でいうなら、海外から招いた帰化した同胞とかになるのかな。


「こんにちわ 新しく来た人たちだね?」

「あなたは・・・えっと」

「あぁ、同じ宿舎の402号室だよ」

「なるほど」

「どうだい?仕事の後、時間あるなら街の案内でもしよう」


俺がそう言うと4人は話し合い始めた。

そりゃ転居してきて急に見ず知らずの人間が話しかけて来たら、何かしら話し合うだろう。

時間がかかるようなら帰ってきたころに返事をきかせてくれと言おうかと考えてもいたが、しかし、時間はあまりかからなかった。


「ぞろぞろついて行くのもおかしいでしょうから、私でよければ」


そういうと、彼らの中から女性が一人、歩み寄ってきた。


仕事終わりにギルーカ社のエントランスで出会い挨拶を交わすと、その足で近くの散策へ向う。

――そうして適当に見て回った後、南の方へ下って行った。

都の南には遊水地としていくつかの場所が指定され、そこは背の高い木々とすり鉢状の貯水池がところどころあり上空から見ると凸凹な地形となっていて、全体として自然公園に指定された区域がある。

この区域は地面に固定する建物の建築は禁止されているため屋台街となっている区画があったり、高台にはトレーラー型の宿泊施設・・・いや、直で言おう、ラブホだ、がある。

つまりここは人が集まる。

人が集まるということはどういうことか、

情報や趣味嗜好が違ったものが集まるということだ。

つまり、どういう指向を持った人物か知るにはうってつけの場所と言われている。


「何か食べるかい?」

「そうですね・・・あれは何ですか?」

「ほう、あれに興味があるのかい?買ってこよう」


俺は彼女にそう言うとイカ飯を2個買い、1つを渡し、近くの木に移動するともたれかかった。

手には麦飯をイカの中に詰めて煮詰めるファーストフードが袋に包んであり、楊枝が刺さっている。


「君たちはこういうものを好むのかい?」

「いえ、どんなものかと思って、…この前家で使った時、後処理に困ったので、おいしかったら今度からは出来上がったものを買うようにしようかと」

「なるほど」


そうして一通り回った帰り道、横断幕を持った集団に遭遇した。


「あの集団は何ですか?」

「ああ、最近はハヌムームにまで人権拡張を目指している頭のおかしいやつらだよ」

「へぇ、そうなんですか」


彼女は興味なさげにイカ飯を食べていた。

しかしそうだな、別の価値感を持つ女性と会話することもそうそうあることではないし、いい機会だ、彼女とこの話題をするのも悪くはないかもしれない。


「そういえば海外には家族制度というものが残置している国があるそうですね、彼らもよくそれを復活させろと言っているので彼らの思想と親和性があるのでしょう。家族制度がある国では親権というものがあるそうですが、養育権を個人が持つメリットというのは実際のところ、よくわかりません」


「なるほど、私個人としては、それを復活させる必要はないと思いますよ。

自分たちが世界の中心だと思っているキチガイを増長させるだけです。」


「というと?」


「まるで親は子供の所有物かのように増長する危険があります」


「親が子供の?子供が親権者の所有物かのように錯覚するという事ではなく?」


「えぇ、これは特に少女に多いと言われている症状ですが、例えば両親の親権問題を端緒として、その解決のために一方が不協力姿勢をとるという事は人間感情としてありうることです。病気の時に手術に同意しなかったり、学校の転向に同意しなかったり、ね。

こうしたことを彼女たちは都合よく利用します。親は子供を必ずしも第一に考えているわけではないと傍証し、親権はく奪や制限を主張することで自らの要求を強要しようとするわけです。こうして生育した場合、反社会性が強くなる事が確認されています。

可愛さと涙と嘘を使えば都合よく事態が動くと学習すれば当然でしょう。

要は『このガキがぁ!毒親毒親わめいてどこまで親に迷惑かければ気がすむんじゃぼけがぁ!』という親側の意見を強弁を使えば封殺できると考えるわけです。人権の本質として全てのものは平等であるという事を理解できず自分が世界の中心だと思っているんでしょうね」


「しかし、そうしたものは制度を端緒としているだけで人間の本質的な性格は似ていますから、なくしても必ずしも本質はなくならないのではないですか?この国でも似たような諍いはありますし」


「いえ、制度的に一つを変えると他も波及が…、」

そこまで言いかけると、彼女はゴミ箱にゴミを投げ入れた、


「…それで思い出しましたが、女は嫌いだが女の体は嫌いではない、というようなことがフェミニストと女性嫌悪者の間で日々行われていた事を思い出しました。私もある人から女を嫌いなやつは女性も女体も嫌いだぞと聞き理解したのですが、嫌いと言う感情はある種の接着剤なのです。」


「ほう(前の質問と、どういう繋がりだろう?)」


「嫌いと言う感情は悪い側面ばかりではないのです、嫌いだから利用してやろうという感情があり、この『嫌い』の幅によって体目当ての比重が大きかったり、金銭目的の比重が大きかったり、人生束縛欲の比重が大きかったりする。

つまりクズ男は無責任に妊娠させてクソ女の人生を破壊したいし、クソ女は男から金などをたかりたいと思う事で利害一致するわけです。

女が嫌いという男性が必ずしもこうした行動をとる訳ではないにしても、女性を嫌いでも女体は好きだというのは語弊があり、実体としては体が目当てじゃなくクソ女の人生を浪費させたいということです。

こうして本当に抑えが効かないものは詐欺や恐喝と言う犯罪に足を踏み入れますが、相手の人生を破壊してやろうという悪意の合意というものは、時に好意による結束より離れがたい接着効果を持つのです。だからこうした国では女性の労働参加率が低い。しかしこの国では参加率が高いのでしょう?だからなじまないと思います」


「それでよく集団として和合できますね」


「最終的には権威によって重みづけしているだけです、

国であったり企業であったり組織であったり家であったり学校であったり、

だからこうしたところがないところを見てください、

常に罵詈雑言が飛び交い敵対している事が見て取れます、

つまるところ、彼らには真の意味で相手を敬うという感性がないのです。

口ではもちろん相手を敬いなさいといっています、しかし明確にウソですね、

だからあなた方が家族制度を取り入れた場合、集団としての和合は破壊され、嫌い合う事で接着する社会を構築しなおすことになると思います」


「それで納得いったよ、最近、この国でもヒュームなどがネット掲示板で過激な発言が問題視されていてね、嫌われたらむしろ逆効果なのになぜ彼らはこんなことをやっているか不思議だったんだが、そうか、彼らにとっては嫌い合うという事が和合する前提なんだ。なるほど、これは我々とわかりあえないはず」


俺はそこまで言うと、国内にいる彼らに彼女ならどう対応するか聞いてみたくなった。


「それで君なら、彼らをどうする?」


「私ならヒューム協会組織の権力を強化し、権限によって強要します、

結局、彼らは支配されるしかない人種なのです、

それでいうと、協会の権限を強化しハヌムームや国内の少数派を指導部へ祭り上げ憎悪先を分散させ分断統治するというというのも悪意の接着に基づく方法ですね、古典的ですが」


「なるほど、自分たちの常識が彼らの非常識であることを忘れてしまうものだね、彼らは管理されなければならない人種だと習っていても、ついつい我々と同じく対話で分かり合える”人間”だとどこかで考え理解できなくなってしまう。彼らは動物園に隔離されている猿のようなものだという事を理屈で求められないと、彼ら”共済党”を支持したくなってしまうのも頷ける話だ」


「他人は自分と同じ価値観や常識を共有していると考えるのは、会話をスムーズに行うための効率化でもあるので悪いと断定する事はできないものです。

しかし、いきすぎれば藁人形と話す道化(老害)になってしまいますね。

ところで共済党とは?」


「ああ、君たちには関係がない事だよ」


…俺たちはその後もとりとめのない話題をしながら、帰路についた。

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